第521話-1 彼女は『ブレリア』への道を繋げる 

 新しく創られるであろうワスティンの森の中の街『ブレリア』の話題で、リリアル内は大盛り上がりなのである。まあ、かなり遠い未来の話だが。


「お菓子屋さんと、ケーキ屋さんが沢山ある街が良いね」

「冒険者ギルドの受付は美人じゃなきゃダメ。おっさんは絶対ダメ」


 ひどい話である。差別はいけません。


 既に、探索がある程度できるレベルになったなら、前進拠点を『ブレリア』の廃城塞内に築き、そこを起点にさらに奥の討伐を進める事を決めている。その頃には、修練場は駆け出し冒険者を中心に開放し、リリアル生は奥を目指している事だろう。何年先のことかはわからないが。


「それより、祭りが大切」

「だな」

「それね!!」


 一期生冒険者組を中心に、泉の女神様こと「ブレリア様」のお祭りを行う件で大いに盛り上がる。とはいえ、泉まではそれなりの距離、野山を歩くことになるので、年少組はお留守番となるだろう。十二人もフォローするのは難しい。


「道と、城塞の補修は前倒しにしてもいいぞ」


 老土夫は、癖毛を連れて冒険者組が施工すれば一週間程度で終わるのではないかという。どうやら、新魔導船は完成に近く、癖毛が抜けても問題ないようだ。


「迎賓宮の拠点の方はどうなの?」


 伯姪が気にするが、コンクリートはそれなりに乾かすのに時間がかかる。銃眼や明り取りの窓などを抜き、高さを重ねるにはいましばらく時間がかかる。人造岩石の壁ができれば、後の内部に関しては、中庭側から土魔術で壁と天井を設け、階段をつければあとは内装をするだけになるので、彼女と歩人、癖毛の三人であれば一日で形ができる。


「相変わらずのでたらめさですぅ」

「岩石は一日にしてならず、されど、土魔術は一瞬」

「その無駄魔力にただただ感服するしかないかも」


 誰が無駄魔力だ。というか、誰だそんなこと言っているのは。


 そして、忘れているかもしれないが、魔導船の試運転のできる池ないし湖をワスティンの森の中で探し出す事が前回の彼女の探索に含まれていたはずなのだが、はたしてどうなったのであろうか。


「見つかったの?」

「ええ。女神様に教えていただいたの。安心して頂戴」


 街の外周に巡らせる水堀の水源も兼ねる湖があるという。さほど大きくはないが、30mの魔導船を動かせる程度の広さはあるらしい。


「船着き場とか、必要よね」

「……勿論、用意するわ。当日魔術でね」


 土魔術はとても便利なのだ。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 数日かけて、癖毛がワスティンの森の中に道をつくる事になった。幅は4mほどであり、所々に野営地になる切り開かれた広場を設ける事にする。これは、冒険者組が木を切り倒した後、根っこの掘り返しを癖毛の土魔術で行ったという。


「見事なものね」

「すっかり普通の街道……以上に綺麗じゃない」

「……まあな。リリアル領の領都に向かう道が綺麗じゃないと、舐められるだろ」


 褒められたかは微妙だが、癖毛なりに『ブレリア』に対する思いが込められていると解釈する。フラットな地面に焼煉瓦のようなものが敷かれたように加工されている。交通量が増えれば煉瓦ではなく石畳に変わる事になるかも知れない。


『帝国街道みてぇだな。今は見る影もねぇけどよ』


 王国のある地域は、古帝国の領域であった。約千年の昔、古帝国は数千キロに及ぶ石畳の街道を敷設した。それは主に、国内の戦力を戦場となる地域へ速やかに送り込むための軍道として整備されたものであるが、支配地域を古帝国の経済圏に取り込むためのインフラでもあった。


 安全に効率よく整備された街道は、石畳を維持する職人集団も配置され、全土を一つの経済圏として機能させるとともに治安を良くする効果も持っていたといえる。各地に配置された軍団駐屯地は、蛮族の侵入や不法集団に対する抑止力になっていたからだ。


 発達した街道を移動する商人・旅人も多く、女性でも安全に移動する事ができたと言われる。




 古帝国崩壊後、街道は維持されなくなり徐々に崩壊していく。加えて、蛮族の占拠・都市略奪・支配が続き、商業・貿易は壊滅的な状況になる。陸路を移動する者はいなくなり、移動は主に河川を使用するようになる。


 いまでも水運が王国内の経済活動の中心であることは変わらず、街道は王都近郊以外へはあまり開発されていない。これは、王都を中心とする王国の形成が始まったのが最近のことであり、百年戦争以前においては、それぞれの地域が大貴族を中心に半独立状態であった事も理由となる。


「このくらいの街道が王国内に整備されれば、王国こそが古帝国の後継者と名乗れるかもしれないわね」

「不安過ぎないかしら? 軍隊を移動させ放題じゃない」


 道が整備されているということは、味方と同様敵も行軍しやすくなるということを意味する。百年戦争の時代『賢明王』は、全国の都市に命じ、堅牢な城壁を築き、都市周辺の住民を守るよう厳命した。


 命令に従わない都市・都市を有する貴族は粛清する事を行った結果、百年戦争後半において、連合王国軍は『騎行』戦術による現地調達が行えなくなり、前半のような快進撃ができなくなったとされる。


「大丈夫でしょう。とはいえ、攻城砲が増えたことで、百年戦争の頃よりは城壁に守りを委ねる事は困難になっているわね」

「よじ登れないようにただ高くするのではなく、大砲の射程外になるように外周に土塁と壕を築いたり、高さを低くしても分厚い壁にして崩れにくくするのがいまの城壁なのよね」

「コンクリートの堅牢さは見直されているみたいじゃない?」


 街道同様失われた技術であるコンクリートに関しても、永久城塞などと呼ばれ、石積みではなく時間を掛けてでも建築するコンクリート製も試みられるようになっているのだが……石工組合が反発していると言えば分かりやすいだろう。建築利権があるのだ。


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