第507話-2 彼女は王弟殿下に呼び出される


 一期生の二人から彼女と伯姪は、ワスティンの森の状況に関して報告を聞くことにする。


「ゴブリンや狼の比較的新しい足跡は散見されましたが、大型の獣や魔物の足跡や移動の痕跡は見つかりませんでした」

「人間の遺留品も新しいものはありません。朽ちた物は見かけましたが」


 森は広大な為、区域を分けて、毎回異なる地域を探索させているのだ。本日の警戒区域に関しては、何の証拠もなかったと言える。大きな魔物や、大規模な群れの移動の跡などあれば、討伐を計画する予定にしてある。


「一先ず今日はお疲れ様でした。二期生たちを二人で守れる範囲で判断して行動をお願いするわ。無理せずにね」

「「はい!!」」


 冒険者の後輩ができて嬉しさが見て取れる蒼髪ペア。一番冒険者らしい二人である。赤目銀髪も意外と的確なアドバイスをして、二期生三期生年長組からの評価が高い。勿論茶目栗毛もである。微妙なのは……間違った師匠を持つあの娘と、大人しい性格の大魔力持ちである。


「向き不向きがあるわよね」

「まあね。でも、騎士学校に行くのなら困るわよ。不向きでもできないとね」


 赤毛娘が騎士学校に通うのは多分……十年くらい先の話なので問題ない。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 リリアルに戻ると、彼女に宛て王弟殿下からの手紙が届いていた。内容は、連合王国に赴任するに際して、連合王国の駐王国大使と一度顔合わせをしたいということである。


 通常の社交であれば、顔見知りになる為に夜会にでも参加してその際に挨拶をする程度で問題ないのだが、今回は『副使』として参加することになる。連合王国に滞在中の予定や希望なども相手から問われるという事になるだろう。


「面倒だが、しっかりおやり」

「はい。ですが……」

「副伯として会うのだから、ドレスである必要はないだろうさ。昼間であればリリアルの制服でかまわないよ。場所にもよるがね」


 祖母曰く、スケジュールが決まれば衣装の用意が決まるだろうから、伯姪や参加するメンバーのドレスの用意も進めなければならないと言われる。今回参加するリリアル生は彼女を始めとして茶目栗毛以外全員が女性であろう。


 赤目茶毛ルミリは小間使い枠での同行だが、他は昼用夜用のドレスと装飾品がそれなりの数必要となる。とくに、彼女と伯姪は。


「侍女はさほど装飾品はいらないからね。それでも、あんたたちに侍るのだから、使用人のお仕着せみたいなものだけにするわけにはいかないよ」


 侍女というのは、仕える主人によっては高位貴族の子女の場合もある。例えば、女王陛下に仕える侍女などは侯爵伯爵の娘であることも珍しくはない。副伯当主に仕える侍女ならば、下級貴族か騎士の娘辺りとなるが、貴族の娘同様の衣装が必要となる場合も少なくない。とくに、彼女がドレスの場合は、ドレスで侍る必要がある。


「二人ともドレス映えするから、しっかり仕立てておやり。これも、仕える者に対する配慮だよ。当主としては、疎かにできないからね」


 そういいつつ、祖母は自分の知る王都でも有数の工房へ紹介状を書いてくれた。今回は王弟殿下の格に合う衣装の準備となる為、王宮の侍女の助言を得る必要もあるのだそうだ。





 数日後、予定を合わせた彼女は、伯姪を供に王弟殿下が待つ王宮の一角に足を運んでいた。その前には、迎賓宮の一角でしばらく時間を使っていたのは言うまでもない。


「リリアルの塔、外構までは完成させたいじゃない、連合王国に向かう前までには」

「そうね。実際、王都に不在の間に内装の工事などは済ませてもらえるといいと思うのよ」


 外側は土魔術とコンクリートで形成したとしても、内装は職人に委ねる仕事となる。おそらくは、迎賓宮と同等の職人に仕事を依頼することになるだろうが、誰にどう依頼するかは彼女の父である子爵に相談するか、王宮経由で依頼することになるだろうか。


 とはいえ、拘らねばならないのは、通路の内装や来客を迎える執務室、応接室、客室などだけであり、それは、コンクリート造となる外周部分にはない施設になる。中庭に面した二面に配することになるだろう。


 コンクリート壁により構築される二面は、リリアル生の執務室や待機所、寝室などに充てられる予定であり、階段を中庭側と外回り側の二箇所に設置し、来客とリリアル生で使い分けることで問題は抑えられるだろう。


「迎賓宮の内装が決まれば、それに応じて仕上げてもらおうかしらね」

「防護施設としての役割が優先ですものね。コンクリートむき出しは良くないでしょうから、外壁には煉瓦を貼って見た目を整えた方が良いでしょうね。

ちょっと、街並みから浮いてしまうでしょう?」


 などと、埒もない話をしながら、彼女と伯姪は王宮の一角にある王弟殿下の執務室へと案内される。




 案内役の侍従が二人が到着した旨を告げ、中から入るように声がかかる。


「ようこそリリアル副伯、ニース卿。今日は是非とも二人に紹介したい人物がいてね」


 王弟の背後にはよく見知った顔のルイダンが侍り、王弟の横には首周りに「ラフ」を巻き付けた王弟よりやや年上のギョロ目の褐色の髪の色の男が座っていた。素早く立ち上がると、二人に向け一礼をする。


「初めましてリリアル閣下、ニース卿。私は、フランツ・ウォレスと申します。新たに王都に赴任しました、連合王国の大使でございます。本日は、王国の英雄に相まみえる機会を得られましたこと、まことに感涙を禁じえません」


 その言葉にはいささか感情が欠け、まるで判決文を読み上げる衛士のように見えたのである。


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