第503話-2 彼女は森の奥へと進む
周辺を含めたゴブリンの気配は三十程度。レッド・キャップ以外は特に問題が無い。精々がホブ・ゴブリンであり、ファイターやナイト、メイジのような上位個体が見当たらない。
『レッド・キャップはどうやってここまで運ばれたんだろな』
「調べて分かれば良いのだけれど。洞窟の中にでも、何かしら設置されているとかかもしれないわね」
いつも、入口を塞いで火攻め・煙攻めしかしない彼女であるが、今回は中を確認しないわけにはいかなさそうである。行きたくはないが。
ゴブリンの洞窟前まで迫らず、周辺から戻り集まるゴブリンを四人で次々倒していく。足元はゴブリンの死体だらけになるので、少しずつ移動しながら斬り倒し、打ち倒していく。
「うぉりゃああ!!」
Ghaa!!
Bube
赤毛娘は、久しぶりに魔物にフルスイングをかまして絶好調である。人間相手だと多少、遠慮があるのだろう。振り切る思い切りが良い!!
ものの数分でゴブリンの死体は二十を超え、周辺で茶目栗毛が倒しているゴブリンや、洞窟以外に逃げ出したゴブリンを加えると、最初に確認できたゴブリンはほぼ掃討されたと言える。
「で、あの赤い睨んでるのどうする?」
「あたし、やっちゃってもいいですか!」
赤毛娘の前に、ズイっと黒目黒髪が出る。
「私、仕留めたいです」
「「大丈夫?」」
「た、たぶん大丈夫です!!」
黒目黒髪曰く、アンデッドよりの魔物であれば、自分の装備が一番だと主張する。
「え、何で?」
「ああ、そうね。そうよね」
「……納得」
「わかんない!!」
伯姪と赤目銀髪が納得したが、赤毛娘は分からないので癇癪を起す。
「魔銀鍍金のスピアヘッドが十字架型だからよ」
「あー 納得しました!!」
ウイングドスピアは、横に棒が垂直に付いている。見ようによっては十字架の形をしているのだ。深く突き刺さらないようにする工夫だが、御神子様が処刑された時の槍も、そのような形であったと伝えられる。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
洞窟を囲むように、半円形の包囲を展開する。
「どうしました。最後の一体ですか?」
「ええ。今回は、選ばれしものに討伐をお願いするのよ」
茶目栗毛が戻ってきて、彼女が止めを刺さないのを珍しく思い声を掛けたが、黒目黒髪の装備を見て改めて納得する。
「アンデッドでしょうか……」
「少なくとも悪霊の類であるから、魔銀の十字槍は最適な装備だと思うわ。魔力切れの心配ない使い手でもあるし、いざとなったらフォローをお願いするわ」
「承知しました」
洞窟を塞げる位置に茶目栗毛・赤目銀髪が移動する。牽制を兼ねて、赤目銀髪は魔銀鍍金製鏃を用い、魔力を纏わせている。魔銀の矢も、悪霊を滅ぼす象徴的装備である。
槍の切っ先をレッドキャップの喉元辺りを指すように掲げ、摺り足で接近する。
黒目黒髪を睨み付ける悪霊。その目は血走っており、赤い目とも言える。また、良く見れば、帽子から血のような赤い汁が滴っており、ぐっしょりと濡れているように見える。
『あれ、血だな』
「返り血で染まった赤頭巾ね」
いつ、だれから受けた血なのかはわからないが、頭から血を滴らせている悪霊は、見た目だけでも十分に恐ろしい。
「や!!」
鋭い掛け声と刺突、赤頭巾がサイドに素早く躱すが、身体強化を全力で掛けている黒目黒髪は、そのまま、切っ先を薙ぎ払いに変え、赤い頭巾を横から思い切りぶちのめした。
Ghaaaaaaa!!!!
人間とも獣とも異なる、金属をこすり合わせたような叫び声が森中に響き渡る。頭を叩きのめした槍を、赤頭巾は思い切り柄の部分を握りしめた。
「ぐぅぅ! は、はなせえぇ……」
茶目栗毛がモーションに入るのを見て、彼女は指示を出す。
「槍を放しなさい!!」
折れそうになるほどたわんだ槍を黒目黒髪は手放した。
Shubaa!!
槍を握りにんまりと笑う赤頭巾の頭上に、魔銀の網が覆いかぶさる。
Gwaaa!!!
シュウシュウと赤黒い煙を上げながら、赤頭巾が地面に這いつくばり体を丸めるように網の中で丸くなる。
『お前の魔力って……』
「こんなこともあろうかと、魔水晶の重石付き魔銀網を作っておいたのよ」
網を広げる錘の部分を魔水晶とし、彼女がそこに魔力を込めたものを製作してあったのである。それを、隙を見て茶目栗毛が赤頭巾を覆うようにその頭上に投げ入れたのである。
槍を手放した後も、体が硬直したままの黒目黒髪のところに、伯姪と赤毛娘が走り寄る。
「お疲れさま。いい槍使いだったわよ」
「がんばったね!」
「最後、槍取られちゃったもん……だめだよぉ……」
身体強化をした黒目黒髪は、リリアルでも力持ちの上位五番以内に入る能力がある。故に、槍を手放さなければ、恐らく折れていただろう。それほど、赤頭巾の力は強かったということなのだろう。
「良い判断だったわ」
「ええ、槍で殴りつけられて関心が集中したので、上手く隙をつけました」
茶目栗毛のタイミングの取り方も良かった。これで、洞窟の奥にでも逃げられたり、森に逃げられていたら、討伐自体困難になっただろう。
赤黒い煙が消え去ると、そこには赤頭巾の姿はなく、代わりにあったのは赤黒い魔水晶の大きな結晶であった。
「気味の悪い色……血の色の魔水晶ね」
「赤頭巾が封じ込められている?」
「その可能性は高いわね」
彼女達が魔装網を取り除き様子を見てみる。見た感じは透明感の著しく低い魔水晶。とても手で直接触る気にはなれない。革製の巾着袋に棒でつまんで投入し、魔法袋へと放り込む。
『封じた精霊を解放したってことかもしれねぇな』
「なら、その場所はこの洞窟の中かしらね……」
周囲を警戒するように伯姪と黒目黒髪・赤毛娘に伝え、彼女は残りの二人と甚だ不本意ながら洞窟へ入る事にしたのである。
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