第494話-2 彼女は『賢者学院』について知る
「へぇ。賢者学院ね。あなたが好きそうな場所ね、楽しんでいってらっしゃい」
「なにを言うのかしら。連合王国には、あなたも行くのよ」
驚く顔の伯姪。連合王国には往復の時間を含め半年程度の期間を見ることになる。その間、リリアルの活動を院長・副院長無しで進めることになるのだが、問題ないのだろうかという疑問を持つに至る。
「二人とも不在で半年も大丈夫なのかしらね」
「大丈夫でなければそろそろ困るもの」
彼女の考えでは連合王国行のメンバーは以下を想定している。
彼女、伯姪、茶目栗毛、灰目藍髪、碧目金髪に加え、二期生の赤目茶毛である。赤目茶毛は、父親が連合王国の商人と取引する関係上、娘にも連合王国語の読み書きを習わせていた。孤児となって一年半ほど、ブランクはあるものの、彼女の側仕えとして連れて行くのに良い人材でもある。所作は祖母に、連合王国語の学習は祖母か子爵家の伝手で良い教師を紹介してもらうことにする。
冒険者向きではない彼女であるから、薬師よりも使用人・侍女の系統で連合王国語も使える人材として位置づけられればと考えている。
茶目栗毛は彼女の侍従として、二人の元薬師娘は年齢と、この後半年騎士学校に入校し、正式に騎士資格を王国から授与されたのち、彼女の護衛として連合王国に連れていく予定である。リリアル生の中で、大人と見なされる二人を連れていく事にしたという理由もある。
「一期生は大半残すのね」
「ええ。院長代理をフォローして、二期生三期生の教導を一期生が担当するという体制を固めたいのよね」
「まあ、いまもあなたが遠征中はそれなりに進めていたのだし、半年も準備期間があればしっかりと三期生も立ち上がるでしょうから、問題ないかもしれないわね」
リリアルには四期五期と後に続くのであるから、一期生がある程度教え慣れして貰わねばならないのは当然でもある。仕事の範囲の広い、年長者や院長の補佐をこなしていた茶目栗毛を連れていくことで、今まで冒険ばかりしていた冒険者組も、否応なく学院の運営に関わらざるを得なくなるだろう。
「連合王国から帰って来れば、更にお仕事が増えてるんじゃない?」
「それは……考えたくないわね。滞在することに注力しましょう。後のことはその時に考えればいいのよ」
主に婚約とか、結婚とか、婚姻に関してである。
「良い出逢いがあると良いわね」
「……それはないでしょう。神国と王国が大使を置いているだけですもの。神国人は……ちょっと遠慮させていただきたいし、連合王国はさらに一層ありえないわね」
「私は神国人は有りね。ニースは内海に面しているし、馬鹿兄貴は聖エゼルの提督で聖騎士だから、神国との折り合いも悪くないもの」
神国の貴族は、神国国王の代官として、いくつかの国々に派遣されている者も少なくない。内海に浮かぶ幾つかの島々などに赴任している者も少なくない。とはいえ、ネデルにも多数の神国出身の騎士達が従軍中であるのでは
ないだろうか。
「新大陸にいくかもしれないじゃない」
「ああ、あの手の新大陸領主は貴族といっても身分だけの人が多いのよ」
神国は少し前まで『聖征』を国内で行っていたため、王国の半分の人口にもかかわらず騎士の数は同じだけいるのだという。まして、国内は荒れ地が多く、耕作地は少なく痩せている。騎士を養うのには全く不十分なのである。
故に、積極的に植民地に向かい、また、好戦的に振舞う者が多くなるのだという。未だ五百年前にカナンの地へ向かった聖征の時代を生きているのが神国と言えるだろうか。
聖征の原因は人口の倍増であり、その終焉は枯黒病の流行による人口の大幅減によると言われている。
「うちは、ニースから船で行けてサラセン海賊の被害が出ない場所の小領主とかでいいのよね」
サラセン海賊が西内海にも多く出没し、『マレス』島に攻め寄せたのは姉が婚約した直後の頃である。義兄である聖エゼル海軍総督も、マレス救援に艦隊を派遣し自ら指揮を執った。結果、その功績を称え聖騎士として叙任されたのであるが。
それ以降、ややサラセン海賊の活動は大人しくなっている。海賊とはいえ、サラセンの海軍・私掠船の類であり、積極的に内海の御神子教徒の船を襲い、船員を奴隷として連れ去り、厳しい環境で使役しているという。
王国においても、少なからず連れ去られた漁民や船員が知られており、海軍の脆弱な王国は、ニース海軍頼みということもある。
「あなたも、海の男と結婚するのはどう?」
伯姪曰く、姉と同様、亭主元気で留守が良いを地で行くのが船乗りの妻であるという。一考の余地があるかも知れないと彼女は考えるのである。
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