第472話-1  彼女は『城門塔』を制圧する

『城門塔』とは、聖征末ごろ一対の城塔を用いて門を守る事が当たり前となった時代から発展した防御施設の形式であり、今では楼門Gatehouseと呼ばれる城壁と一体化しより洗練された防御施設となっている。ミアンの東門に設けられていたものが近いかもしれない。


 城門塔は二つの塔の中央上部を城壁で連結させたものであり、内部は左右別の建物である。屋上では繋がっているものの、それ以外では内部で移動することはできない。


「行きましょうか」


 城壁よりはるかに高い位置にある城門塔の見張台。彼女は最初に西側の胸壁まで上がり、その後、周り込んで中庭側から魔力壁を形成し背後から接近する事にした。


 見張は外側を監視しているのであり、背後は死角になると考えたからだ。


 城門塔北側の胸壁の外から監視している兵士の背後を覗き見る。


「私は右、あなたは左で」

「了解です」


 気配隠蔽、身体強化、そして、首の後ろを刎ね飛ばしたならば、音もたてずに床へと叩き潰す。三、二、一と指を下りカウントダウンし、一斉に飛び出す。


 なにやら世間話でもしているのか、それぞれが別の方向を見つつも談笑しているように見える守備兵二人。見たところ、簡易な胸鎧に兜が揃いで、腰の剣と右手で持ち地面に石突を突き立てるショートスピアも揃いのようであるので、傭兵であったとしても見習に近いものだろう。


 貸し出された装備の『貸出料』を傭兵隊長に支払う者は、装備もなく入団した新兵とそれに近い稼ぎの少ない構成員だからだ。


 そっと後ろから近寄り、口を塞いで首を刎ねる。そして、そのまま胸壁外へと体を放り投げ、死体は壕の中に落ちる。それに習い、灰目藍髪も死体を胸壁の外へと放り投げた。


「皆準備完了のようね」


 振り返ると、小城門塔も二つの円塔の上も手を振るメンバーが見て取れる。『戦馬車』が取り出され、音もなく中へとメンバーが入っていく。


 胸壁の上を走りくる二人組。青目蒼髪赤目蒼髪。一瞬で到着する二人に改めて指示を出す。


「二つの塔になっているので、あなた達は東側の塔を消毒して頂戴。一階で会いましょう」

「「了解です!」」


 恐らく、三階と二階居室に休息中の兵士がおり、一階には兵士の詰め所があるだろう。個々の兵士を討伐すれば、数的には半分が処理されたことになる。


 屋上から三階に下りる階段をゆっくりと降りる。これが君主の城塞であれば、螺旋階段にも灯火が灯されているだろうが、そんな気の利いたものは存在しない。所々にある明り取りを兼ねた『射眼』が存在する。


 陰影の繰り返される階段をゆっくりと音を消して降る。リリアルの魔装布製の着衣は灰色をしている。これは、明かりの少ない夜において、明るい場所と暗い場所が交互に現れるような環境において最も効果を発する色である。


 真に漆黒のような場所であれば、色は関係ない。闇に潜もうと思うのなら、やや白みがかった灰色のほうが見えにくいのである。明かりが差し込む場所とそうでない場所が繰り返される屋内でリリアルの装備は効果を発揮する。

汚れていると一層効果的である。


 三階に降り立ち、魔力走査を行う。反応がある。最奥の部屋、恐らくは指揮官クラスの居室なのだろう。音もなく扉を開けるのは難しい。


 魔銀剣に魔力を通し、補強の金具ごと木製の扉を切り開く。音もなく落ちる扉を魔力壁で支え床へと落とす。内部には音が漏れないように魔力壁を展開する。


「あなたがやりなさい」


 気配に気が付いているであろう、寝起きの守備兵長が慌てて剣を握るところを、魔力を通した魔銀鍍金製片手曲剣で首を斬り飛ばす。


「お見事」

「……ありがとうございます」

「次へ行きましょう」


 この階は一人しかおらず、二階へと降りる。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 二階は、手前から片付けていく。魔力走査の反応は無し。


 今回は、扉の金具は施錠されておらず、ゆっくりと扉を開き中に侵入する。魔力壁を展開し、密閉状態にして寝ている兵士の首を斬り落としていく。二段ベットに四人が寝ている。今日は非番の班なのだろう。


「がっ!」


 断末魔の声を出す者もいる。が、速やかに殺され、気が付く間もなく四人の首が切り離された。


「このままで良いでしょうか」

「明るくなるまではこのままで」


 一応、ノインテーターはおらず、首を切り離された死体が四つ部屋に並ぶだけであった。奥に一室があり、鍵がかかっておらず中も人はいなかった。おそらく、哨戒に出ているか待機中の兵士の部屋なのだろう。

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