第467話-2 彼女は野営地で腕試しをさせる


 闇の中に赤い点が次々に浮かび上がる。


「結構集まってきた!」

「出番ないからね。見学だから」

「えー これだけいれば、上位種もいそうじゃん。コボルドチーフとか、ゴブリンジェネラルとか!!」


 赤毛娘ぇ、縁起でもないことを口走る。ネデルは騒乱続きであり、魔物討伐もこの辺遠地域では疎かである。加えて、逃亡した傭兵の中に魔力持ちがいて、魔剣士や魔術師であったりするのであれば、当然、その能力を吸収した上位種が生まれてもおかしくない。


 と考えていると、森の木立の間から炎の弾が打ち出される。


『Gyaia Booo!!』


 不細工な発声だが、威力はそこそこありそうな炎の塊が土柵に命中する。激しく炎が弾け飛び、周りのリリアル生が悲鳴を上げ逃げ惑う……こともなく黒目黒髪の形成した『魔力壁』で壕の中に転げ落ちていく。


「素早い反応ね」

「こればっかりですからね私」


 黒目黒髪、リリアル生随一の魔力持ちで真面目女子。だが、気が弱いので殺傷系が苦手なため、魔力壁ばかりに専念している。できれば、土魔術や水魔術の適性を生やしてもらいたい。魔力ゴリ押しで練習すれば、精霊との繋がりもできるはずだから。


 切り札の火の玉を弾き飛ばされ、悔しかったのか、更に次々と火の球を飛ばしてくる『ゴブリンメイジ(仮)』、しかし、数発を発射した後沈黙する。


『魔力切れだな』

「ゴブリンはゴブリンですもの。こんなものでしょうね」


 体内の魔力を消費する故、魔術師の限界はかなり低い。魔物が精霊との関係を構築することはかなり難しいので、余程虐げられた精霊でもない限り悪霊と結びついた精霊である魔物に加護を与えることは考えられない。


 精霊に精霊が加護を与える……おかしな話である。


 ゴブリンとは、土の精霊『ノーム』と人間の悪霊が交わった結果発生する魔物であり、人間の悪霊は不幸な死により発生する人の恨みの感情によりもたらされる。戦場となった場所や、賊に襲われ蹂躙された町や村のそばに発生することになるだろうか。


 森の中の集落などが滅ぼされると、ゴブリンの発生源となる。これは、例えば人為でなく枯黒病などで全滅した村などがその根源になると考えてもおかしくはない。


「狙って!」

「「「おう!!」」」


 周囲を取り囲むようにゴブリンの群れが顔を見せる。距離は20mと離れていない。ギャアギャアと声をあげながらにやけた藪睨みの視線をこちらに向け歩み寄って来る。


「こんなの」

「「「スケルトンより簡単!!」」」


 Pow!!

 Pow!!

 Pow!!

 Pow!!

 

 ミアン戦に参加した薬師組が一斉に射撃を開始する。僅かながら増えた魔力を『導線』に使用し、胴体に風穴を穿っていく。


「負けられぬ」


 杭の上によじ登った赤目銀髪が、自ら愛用の魔装弓を持ち矢をつがえ次々にゴブリンに命中させていく。魔銀の鏃を温存し、いわゆる普通の鏃で当てていく。一撃で死なず、喚き痛みでパニックを起こさせることで周囲の突進力を削ぎ落すのが目的だ。


『Geeee!!!』

『Gwaaa……』


 醜い顔を一層歪ませ声をあげ倒れるゴブリン。間近に迫ったゴブリンの突進が一瞬緩む。次々に装弾し、撃ち放つ。倒れるゴブリンを見てさらに恐怖に足が鈍る。


 しかし、中にはそのまま突進を続けるゴブリンがいるのだが……


『GuGya』

『Ugaaa』


 三メートルの深さの壕に頭からダイビングを決めグシャっと音を立て潰れるようにそこに叩きつけられる。暗闇で夜目が利くとはいえ、手前の地面がないことは頭上から射撃を受けている状態で確認できなかったようだ。


『Gee……』

『GiGiGi!!』


 次々と落ちるゴブリンだが、最初に落ちたゴブリン達がクッションになり、大怪我を追わずに立ち上がり、壁をよじ登り始める。一匹の背中の上に乗り肩に足を掛け次々に壁を伝い始める。


「数、多いわね」

「そうね……でも百くらいじゃない?」


 彼女の問いに伯姪が涼しげに答える。黒目黒髪が動揺し、赤毛娘が乗っかる。


「多いですよ、やばいですやばいです!!」

「そう?まだ本命は後ろに控えてるじゃん」


 魔力持ちや特異な個体と思われる大きな魔力を持つ者が数体、包囲の外周で待機している。出てくるとすれば、それが若干問題となるだろう。


「ほら、そのゴブリンの頭を叩きなさい。身体強化をしっかりかけてね」

「りょ、了解っす!!」


 灰目藍髪に指導され、銀目黒髪にコーチングをする。先ずは、身体強化だけを十全に行い、討伐を熟せれば及第だろう。


「そこ、あたまを叩いて」

「は、はい!!」


 メイスを身体強化した右腕で振り下ろし、防塁をよじ登って来たゴブリンの頭をグシャッとばかりに叩き潰す。


「よし、その調子。一昼夜戦えるようになるのが目安だから、魔力は常に使うタイミングを計ってね。魔力が切れたら死ぬからね」

「は、は、は、はいぃ!!」


 茶目栗毛、優しそうで意外とSである。命の掛かった状態だと、過剰に魔力を消費しがちであり、魔力持ちの騎士や冒険者が計算違いから魔力切れを起こし命を失う原因となる。切り札は時に、命取りに繋がる欠点に繋がることを新人には身をもって体験してもらう事も、この討伐の意図になっていた。


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