第450話-1 彼女は『アルラウネ』が神であるかを推考する

『アルラウネ』がノインテーターを作り出す原理を考えるため、彼女は目の前のふらふらしている草にいくつか質問することにした。


「あなたの前に連れてこられた人間に魔力を与えるのは、回復のためなのですよね」

『そうなのぉ。でも、魔力持ちじゃないと効果ないみたい。魔力を増やす?回復させる? その延長で超回復力を魔力が帯びるようになるみたいねぇ』


 そう考えると、彼女は『アルラウネ』を薬草代わりに用いて、回復用のポーションを作成したくなる。仮に、その話の通りであれば、体力も魔力も大きく回復する効果を帯びさせることができるだろう。特に、魔力持ちに関してはである。


 注意しなければならないのは、魔力が枯渇した状態の半死半生の状態では与えると『ノインテーター』化する可能性があるということだろうか。魔力持ちのいる騎士団などには提供できそうにもない。


「なら、最初は回復しないでそのままなくなる人もいたのでしょうか」

『いたわよぉ……何人もぉね……』


 暗殺者ギルドも何度か実験を繰り返したのかもしれない。


 偶然アルラウネを見つけ、もしくは、その存在を知った暗殺者ギルドがその魔力を生かしたポーションを作成し、偶然『ノインテーター化』したギルド員を生み出したのかもしれない。


『アルラウネ』の供給した魔力がある限り、不死者として無敵状態となったその者は大いに活躍し、そして魔力が切れて不死者ではなくなったのだろう。人工的に不死者を作り出す方法を理解し、その技術を秘匿し、総督府軍に供給することで大いに利益を得ていた……とったところか。


「黒い魔剣士は、不死者ではない?」


 赤目銀髪が口にしたことを、彼女も同じように考えていた。


『黒い魔剣使いさんねぇ。あの監視役の偉い人でしょぉ。わたしとは関係ないのよねぇ。不死者かどうかはわからないわ。でもぉ、凄腕の剣士だって聞いたわよぉ~♪』


 コンスやドレ、ガルムもその腕前を高く評価しており、幾度対戦してもまるで歯が立つレベルではなかったと話していたという。


 一先ず、小城塞を立ち去った存在が不死者でないことを知り、彼女は安心して野営を行うことができると考えた。


『安心すんのは気がはえぇぞ』


『魔剣』の忠告は確かにそうかもしれない。


『主、警戒を厳に致しますので、今日のところはゆっくりお休みください。もし、気になるのであれば、今なら追跡可能ですがいかがなさいますか』


『猫』の言葉に彼女は『追跡は無用よ』と答えた。暗殺者ギルドそのものを今すぐどうこうはできないのだから、帝国の裏側に存在するであろう商業ギルドの暗部組織を詳しく調べなおす必要性もある。


 何より、オリヴィと『伯爵』そして腹立たしいが姉にも相談すべきだろう。手を出すべきか、それとも警戒し監視するかである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




『アルラウネ』を囲むように夕食の支度を始めたリ・アトリエメンバーを見て、上機嫌に踊るように体を動かす。風も無いのに、風を受けているかのように揺蕩っている。


『ふふふ、楽しいわぁ』


 アルラウネは元々は『マンドラゴ』のような人に死をもたらす『草』の魔物であったのだという。魔物も長く生きていくうちに、魔力を蓄え育て、やがて精霊のようになっていくものもいるという。


『人間が死にかけている時にしか最近会っていないからぁ、まともに会話したり、

するのも随分と久しぶりなのよぉ~♪』


 聞くとはなしに身の上話らしきことを話し始める。


「マンドラゴとか、マンドレイクってのは、引っこ抜くとき叫び声をあげて人が死ぬらしいな」


 歩人の声に軽く『そうよぉ~♪』と答える『アルラウネ』。


「危険が危ない」

『引っこ抜かなければ安心です。それに、耳栓をして引っこ抜くか、耳の聞こえない者に頼むのも手です』 

『シャリっち、余計なこと言わないのぉ~』


 どうやら、愛称で呼ぶ仲らしい。そのうち、メンバーの名前を覚え始めたようで、彼らに愛称をつけたいようだ。


『あなたは、なんと呼べばいいかしらぁ~♪』


 彼女はリリアルでは院長先生、対外的にはリリアル男爵と呼ばれている。どちらも呼び名としてはどうだろうか。冒険者のアリーや商会でのアリサもおかしくはないが……


『アリエンヌちゃんね♪』


 アリエンヌは古語で『高貴な人』といったニュアンスの言葉である。アリエンヌと言われるのは思歯がゆいが、それで良いのならそうしてもらおうかと思う。


「アリエンヌとは、ありえんぬ」

「セバス、つまらない」

『高貴な人と呼ばれるにふさわしくなれば何も問題ありますまい』


 歩人は揶揄したが、赤目銀髪が窘め、シャリブルが取り為すように言葉を繋げる。高貴かどうかはわからないが、これから王国の一つの旗頭になりかねない事を考えれば、いままでのようにはいかないかもしれない。


「今のままで十分だと思いますよ」

「……見透かされているようで恥ずかしいわね」


 『ゼン』に言われ、彼女の中では「高貴」という言葉が重たく感じられてしまう。始終顔を合わせるわけではない『アルラウネ』であるから、聞き流すくらいでちょうど良いだろうか。


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