第444話-2 彼女は『全身鎧』と対峙する
『どうする、逃げるか』
「馬鹿言わないで……」
彼女は再びステップバックし、距離を取る。そして、魔術を発動する。
『
メイスに纏わせる『雷』の力。そして、そのまま鎧に向けて叩き込む。
『ふはあはは!! 同じことを何度Dodododododododododod!!!!!』
打撃は逸らす事ができても、纏う『雷』を逸らすことは出来なかったようである。つまり、『神格』を持つ精霊ほどの力ではないという事だろう。
一旦距離を取り、ダメージを観察する。命中した瞬間、鎧の表面を青白い火花がパシパシと弾けるのが見えていたが、数秒してその火花も消えた。何か焦げた匂いが漂い、鎧の隙間からは煙のようなものが立ち上る。
そして、鎧から唯一剥き出している顔の表面には、青黒い筋がミミズばれのように浮き上がっており、グールのように見える。
『ぎぎぎぎざまぁ!!!』
ダメージは相当入ったようだ。最初の頃の軽快な動きは鳴りを潜め、今は錆び着いた大門のようにギシギシと音がしそうな鈍い動きである。
「『ザグナル』」
『ほい来た!!』
赤目蒼髪が一時期体が小さいころ使用していた変わったウォーピック。その刃は鎌のようにとがっており、切裂くことも叩きつける事で突き刺す事も可能だ。
彼女は振りかぶり、今一度魔力をザグナルに纏わせ、魔術を発動する。
『
踏み込んだ瞬間、体を捻って避けようとする『魔戦士』の小手先にザグナルをコツンと当てると、激しく痙攣し筋肉が硬直したのか動きを一瞬止める。
脇を擦り抜け、そのまま背後に回り込みつつ再び……
『
ザグナルのその切っ先を、左胸の後ろに叩き込む。
GANN!!
魔力が一点に集中したザグナルの切っ先が、板金鎧の背中を貫き、そのまま心臓に『雷』を纏ったまま叩きつけられる。
激しく痙攣し、肉の焦げる臭いが中庭に漂う。先ほどより一層激しい煙が鎧の隙間から立ち上る。そして、『魔戦士』は大きな音を立て、うつぶせに地面に倒れ全く動かなくなったのである。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
不死者以外で、まるで不死者のように戦った男であった。が、そんなことより、『ゼン』がどうなったのかが気になる。
彼女はサクリと首を刎ね、胴体を魔法袋に仕舞う。ノインテータであってもこれで問題ないだろうし、装備していた板金鎧は老土夫に診てもらい、素性を明らかにしたい。
相手が彼女であったとしても、『魔剣』の変化する装備が使えなければ、かなり苦戦したであろうことは疑う余地もない。
「今回は助かったわ」
『今回も……な』
「ええ、そういう事にしておいてあげましょう」
彼女は中庭をグルリと確認し、視線のありかを探す。あと一人、魔剣士が潜んでいるはずなのだ。観察されている気がする。が、どこにいるかまでは分からない。
恐らく、公女マリアの襲撃計画を立てていた賊を討伐した際に取り逃がした『黒い魔剣士』であろうか。少なくとも、今まで見た三人の内には入っていないだろう。
そして、中庭から『ゼン』と赤目銀髪のいるだろう西の円塔の下あたりへと移動する。
日陰に急に入り、目が馴染まない。が、見慣れた二つの魔力の塊を見つけ安心する。
「無事かしら」
「一応。手こずったけど」
「強い相手でした。一対一では厳しかったかもしれません」
二人がいうには、『ゼン』が正面から対峙し、死角に赤目銀髪が入り込み投矢を放ち意識を分散させたのだという。相手が軽装であった事が災いし、何度か脚にけがを負い、集中力が途切れ、魔力が不足してきたところを力押しで倒したのだという。
『また力押しかよ』
『魔剣』は何が不満だというのだろうか。
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