第439話-1 彼女はリジェの銃に関心を持つ
六人に特にけがはなく、それぞれ火を放ち、女性を解放し、賊を討つのは同じ行為であった。
「スパッと斬れるのは腕がいい証拠」
「パニックになっている人間の動きの先を読むのはなかなか難しいですね」
赤目銀髪が灰目藍髪と組んだ感想を述べ、言われた本人は予想以上に混乱した人間の行動が支離滅裂で斬り伏せにくかったようだ。それは、『ゼン』も同じく感じたようだ。
「火事場で斬り合いをするとは……良い経験になりました」
「しないでいい経験だ。そもそも、騎士様は夜討ちなんてしねぇだろ?」
「村人もです。まあ、その時はホント、ギリギリの選択の時ですよね」
親衛騎士も村長も夜討ちはしないはずだ。たぶん。
無事を確認し、用意してもらった夜食を食べ、明日のことは明日話すとして今日は解散することになった。
『明日は囲んでいる奴らは数が減るだろうな』
「ええ、当然でしょう。開城する気はないし、野営するなら、オラン公の本隊に合流した方が安全ですもの。離脱する傭兵隊も少なくないでしょうね」
離脱しない者は、余程怠惰か何かしらリジェが開城するなり軍資金を支払うなりする可能性が高いと考えている人間だけだろう。
「今日の夜討ちで開城派が存在していたとしても、かなり立場を弱めることができたでしょう。参事会で公に意見を通す事は難しいわね」
「あるとすれば、内応だろうが、この街は余所者の傭兵を守備隊に雇っていないから、それは考えにくいだろうな」
内部から城門を開けられてしまうのが最も危険なのだが、いくつかの街区が水路や城門で区切られているリジェの街は一つの城門だけ開けたとしても街全体を落とす事は困難である。
そもそも、内応される危険性を嫌い、この包囲戦の前であっても彼女たちのような冒険者はともかく、傭兵を改めて雇う事を街は行っていない。
「冒険者の内応も難しいでしょうね」
彼女たち以外の高位冒険者は、星三等級の冒険者ですらこの街には現在不在である。他は、リジェ出身もしくは在住の冒険者であり、家族や友人もこの街に住んでいる。僅かな利益の為にリジェを危険にする可能性はゼロだろう。
計画的な攻城戦ではなく、本隊から勝手に分離した略奪行の延長線でのリジェへの侵攻であるので、仕掛けは殆どないだろう。
「時間を掛けるほどこちらが有利なのは変わらないわね」
『オラン公の本隊とネデル総督府軍の戦闘が始まれば、雲散霧消する類いだ。リジェの住民の士気さえ維持できれば、もんだいねぇよ』
『魔剣』の答えに彼女は納得しつつも、この程度の戦力であの神国兵の部隊と対するオラン公の本隊が公を守り切れるのかどうか甚だ疑問であった。
翌日、朝食を取った際、野営地にいた傭兵達に思いのほか魔力保有者がいなかったことが気になっていた彼女は、他のメンバーにも、突入した際魔力走査に魔力持ちがほとんど引っ掛からなかったかどうかを確認してみる事にした。
「いなかった」
「引っ掛かりませんでしたね」
赤目銀髪と灰目藍髪が答える。歩人と『ゼン』も同様であったという。
「まあ、多分、魔力もっているようなまともな傭兵団は、オラン公が引き連れて行ったか、最初から本体に合流していたんだろうね」
「……それはそうね。で、姉さんは何故同席しているのかしら」
「あ、ま、まずかったですか?」
アンネ=マリアが恐縮し、公女マリアが心配そうに様子を伺う。姉と二人も供の朝食を取っているのだが、子爵令嬢姉妹のいつものやり取りを知らず、面食らっているようである。
「何時もの仲良しトークだぞ……でございますお嬢様方」
「昨日の夜のことが気になっているのよね。恐らく、リジェの包囲はかなり弱まったと思うわ。とは言え、オラン公の軍が解散するまでは予断できないので、暫くお二人は姉と共にここに留まることをお勧めするわ」
幸い、司教猊下以下、リジェの司教宮殿にリリアル一行として姉達三人も賓客大待遇で宿泊している。依頼の一部とはいえ、流石に安全確保できるまでこの地に滞在することを許可するであろう。
「最悪、商業ギルドに捩じ込んで、宿とニース商会リジェ支店の店舗の確保をさせるから。司教宮殿を追い出されても大丈夫だよ」
「追い出しませんぞ。我等これでも御神子の信徒ですからな。隣人を愛する事は当たり前です」
どうやら、朝食の場に司教猊下がお出ましになったようである。
「そのまま。食後にお茶でもご一緒しようかと思い、お誘いに参りました。ニース夫人も昨夜はご活躍であったと聞いております」
いつもの姉であれば「いやーそれほどですよ!」くらい言いそうなのだが、ここでは、よそ行の微笑で答える。大山猫被りである。
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