第435話-2 彼女は『参事会』に参加する
彼女とリリアル一行は、銃砲ギルドにやってきていた。ギルド長から、是非とも聖女様一向に自分たちの銃を使ってほしいというのである。火薬を使う銃は苦手なのだがと断るも、貰うだけ貰ってくれという。
「渡りに船」
「日頃の行いが良いからでしょうか?」
「セバスはおかしい」
「いや、俺日頃からメチャ仕事してるだろ!!」
ギルド長の営む商店兼工房を訪れ、皆ワイワイと騒いでいる。
「全員銃兵なのか?」
「訓練はしているけれど、使うのはこの二人。ミアンでも銃兵してたから」
「ほぉ、ミアンの戦士か」
「「「ミアンの戦士?」」」
ミアン防衛に参加したリリアル生と騎士学校の生徒たちは、叙勲者を中心に『ミアンの戦士』と称されているのだという。確かに、半月ほどではあるが、休む間もなくアンデットと戦った経験は、見習薬師に過ぎなかった一期生たちをも『戦士』の顔に変えたかもしれない。
「それ、私、参加していません」
「今回の遠征でお釣りが来るわよ」
村長の孫娘は残念ながら二期生。とは言え、ここまでの遠征で、何人かの盗賊を仕留めている。所謂『処女を捨てる』という経験はしている。
「一発必中ですよ!」
「練習あるのみ。魔力は使わなければ意味がない」
「全員魔力持ちか……」
リリアルでは鍛冶師も魔力持ちである。なければ『魔銀』『魔鉛』の加工ができないからなのだが、一般的には魔力持ちの鍛冶師は珍しい存在だ。仮にあったとしても、魔装鍛冶の真似事は出来ない。
「あんたらの銃を見せて貰ってもいいか?」
職人魂に火が付いているのか、王国のそれも土夫の鍛冶師による魔装銃を是非見てみたいというのである。
「こりゃ、フリントロック銃か」
「火打石の代わりに、火と水の魔術を魔水晶に刻んであります」
「その爆発で火薬の燃焼の代わりにして弾を飛ばすのか」
火薬の管理も不要であり、筒の中の清掃もいらないため発射速度と天候による運用制限がない。火縄にしろ火打石にしろ、雨に濡れれば点火しないからだ。
「マズルフラッシュもないのは、狙撃向きですね」
「……そりゃそうだな。いや、弓銃以上に使いやすそうだ」
弓銃はある程度の距離、200mを越えると矢が失速し威力を大きく損なう。また、連射することが難しい。魔装銃であれば長弓並みの射程・威力・発射速度を維持できる。そして、左右の腕の長さが変わるほどの訓練は不要であり、魔力さえあればその日から使える。
「これ……」
「お教えできません。機密事項ですので」
「それはそうだろうな。いや、職人として自分で工夫して生み出してこそだからな。そういう物があるという事を知れただけで、感謝すべきだろうな。みな、好きな銃を一丁ずつ貰ってくれ。俺と、リジェの市民の感謝の証だ」
うぇーい!! とばかりに喜ぶリリアル生。いや、それほど馬鹿っぽくはない。
「しかし、何故、リジェにここまで肩入れをされるのですか」
『ゼン』は彼女の決定に従うつもりであったが、その理由が今一つ理解できないでいた。冒険者として依頼を受けるとは言え、参事会にまで何故顔をだし、オラン公軍の問題点迄指摘したのかという事にである。
彼女はリジェに限らずオラン公にも中立的に接するべきであると考えていた。それぞれが、それぞれの理由で存在する故にである。
「オラン公の軍はこの戦争で一先ず解散になります。オラン公のネデルの領地は既に異端審問の結果接収されています。オラン公にはネデル領内に失うものは残っていません。ですが、協力した諸侯軍はどうでしょう」
恐らくは、オラン公に与した諸侯はこの後、総督府により爵位を奪われ、領地も財産も失う事になる。つまり、オラン公と同じである。
「それでは、何故そのようなことをオラン公はするのでしょう。大事な味方ではありませんか」
恐らくは潜在的なライバル潰しであろう。ネデル総督府も元々帝国貴族であったネデルの貴族達を排除し、植民地支配を一元化したいのだ。例えば、マストリカはネデル貴族の代官から神国の代官に変わるという噂が流れている。恐らくはその通りとなるだろう。
ネデルの貴族の半分は原神子派信徒であり、単純に言えば総督府は異端審問を行う事で、ネデル貴族の半分を処分できるのだ。オラン公の影響力を高めるには、残った原神子派貴族がネデルにいない方が良い。
「それに、私とリジェ司教、リジェの参事会が繋がることで、王国にも王家にも。そして王弟殿下にもメリットが生まれます」
「……それは……いえ、その通りかもしれません」
リジェ司教領というのは、デンヌの森の西側一帯に領地をもち、帝国の君主として認知されており帝国議会に議席も有している。しかしながら、政治的には局外中立であり、ネデルの総督府とも協力関係を維持しながら一線を引いている。
元々、帝国と王国の間に残された緩衝地としての意味があった場所である。
「今後、ネデルの神国軍が王国へ影響力を与えるとする動きがあるならば、リジェ司教領もその支配下に収めることになるでしょう。緩衝地帯としての意味がなくなり、むしろ、前線基地として武器工場として押さえたい都市ですから」
「それを司教側も認識していると」
「故に、私とリジェの友好関係を、王家と王弟殿下につなげていくつもりです」
彼女は神国・帝国に対抗するために、リジェも王国との協力関係を求めていると推測している。可能であれば、王弟殿下が一度リジェを訪問し、司教猊下と参事会のメンバーと顔合わせすると良いと考えている。
「それと、ダンボア卿の存在です」
ルイダンは今回オラン公との関係を深めているはずである。リジェとしても積極的な関係を構築するには、遠征軍の要求は課題であり、総督府との関係を考慮して否定したが、敵対したいわけではない。そこに関係を繋げる余地があると彼女は考えていた。
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