第423話-2 彼女は村長の娘の射撃に満足する

 彼女は先鋒を二人に委ねる事にする。互いに背中を任せるツーマンセルだ。


「人間を仕留めるのに、カッコよくする必要はないの。首か腹を魔力を纏わせてチョコんと削れば無力化できるわ。いい、躊躇せず斬りなさい。決闘でも試合でもないのだから」

「「……」」

 

 散々人型の魔物や賊を狩っているリリアルメンバーからすれば、当然の選択。首を斬れば数秒、腹を斬れば内臓が腹から飛び出し、どの道長くはない。試合で致命傷を与える寸止めなんて必要ない。足の先、指の先が少し削れただけでも人は痛みで体が硬直する。


 馬車を守るように赤目銀髪が後方で弓を構える。恐らくは前方で足止めが数人、背後に同数、左右の林間には飛び道具を持った伏兵が隠れている可能性が高い。


「せ、先生! どどどどどうすればいいでしう!!」


 村長の娘がガタガタ震え始める。数十人の山賊に襲われるのだから、それは怖ろしく感じて当然だ。場慣れしている彼女たちの方がおかしい。


「大丈夫。銃を構えて、馭者台から前方を狙う役ね。馬車は魔導で守られているから、大丈夫。あなたは、標的を撃つようにあの二人を躱してこちらに向かってくる賊を撃てばいいの」

「は、はい! やってみます」


 馬車の前方は彼女と村長の孫娘、後方は薬師娘二人。碧目金髪が銃手、そのサポート役が灰目藍髪で剣を構える。


「俺はどうすれば?」

「適当に伏兵を炙り出してちょうだい。殺して構わないわ」

「了解」


 歩人は剣を抜き、姿勢を低くして馬車から飛び降りると森の中へと駈け入った。伏兵を狩るためだろう。


「来た」


 赤目銀髪が林間からこちらを狙う弓兵に向け、自らの魔装複合弓を用いて矢を放つ。大きさこそ短弓並みだが、その威力は梃子で弦を巻き上げる弓銃並の威力を持つ。


 Pashu! Pashu!


 軽やかに連射、そしてその矢は弧を描き、木の陰に隠れている賊に突き刺さる。


 林間に二つの悲鳴が木霊し、包囲する賊たちに緊張が走るのが分かる。


「女子供が多いぞ!! 怯むな、まぐれだ!!」

「「「おう!!」」」


 どうやら、指揮する山賊の頭は魔力持ちでそこそこ経験豊かな雰囲気をまとっている。二人まぐれで怪我をしたとしても、数で圧倒している自分たちの優位は揺るがないと判断しているのだろう。声も落ち着いており、魔力を込めた発声なのか、自然、賊が落ち着きを取り戻すのが分かる。


『やっかいなのがいるな』

「それはこっちも同じよ。『勇者』の加護持ちは伊達ではないでしょう」


 この程度の戦力差では、加護の影響を受けるほどではないのだが、ルイ・ダンボアの加護は劣勢な時ほど周囲に影響を与える。実際、全員魔力持ちのリリアル生からすれば、百人に囲まれても問題ないくらいなのだが。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 馭者台から前方を眺める彼女の面前で、二人の騎士が賊と斬り合いを始める。


「はあぁ!!」


 巨漢ながら、素早く機敏な剣筋で、ちょんちょんと手足を斬り飛ばしていく『ゼン』。公太子の側近であり護衛として身に付いた操法がしっかりと生きている。相手を斬り伏せるのではなく、無力化するには少しでも体のどこかに傷をつければ効果が表れる。


 力を込めて剣を振り回す必要はなく、簡素な動作で素早く剣を振るう方が隙もなく、無駄な動きを生み出し、護衛対象を危険にさらさない。動くのは一瞬、直線的に相手の動きを制し、斬り飛ばす。それが、腕か脚か首か槍の穂先かはわからないが。


 槍を斬り飛ばされた場合、一瞬、驚き動きが止まる。その瞬間、手首や踏み込んで首を斬り飛ばすのが『ゼン』にはなれた手法なのだろう。


『早いし無駄な回避で時間をとられないのはいいな』


『魔剣』の言葉に彼女も頷く。ルイダンは……剣を躱してよろけた所を斬り払う動作が好みのようで、相手に槍なり剣の攻撃を受けるのを一瞬待っているように見える。


「あれ、混戦だと問題よね」

『多分、囲まれたら判断できなくなるだろうな』


 一対一、一対二程度であれば、動きを観察しながら躱す事は難しくない。囲まれたならそれは別になる。『ゼン』が無駄な動作を排除し、シンプルに斬り倒せているから、背後から囲まれる危険性がない故に成り立っているだけだと彼女には見えていた。


「せ、せんせい……撃っても良いですか?」


 村長の孫娘の問いに「撃てると思ったらいつでも」と答える。


Pow!


 火薬と比べれば小さな発砲音、乱戦に加わろうと遠巻きにしている賊に向け魔装銃の弾丸が放たれ、一人の賊の胸に大きな穴をあける。発射速度もそうだが、命中した場合の鎧を粉砕しその破片も体の中に食い込ませる魔装銃のダメージは剣とは比較にならない。


 的の大きな胴体を狙って放つことで、どこに当たっても致命傷となる。頭のような小さな部位よりも、大きな的である胴体を狙うのが基本だ。


「あ、当たりました!!」


 距離は50mほどだろうか。魔装銃も銃弾の弾道の変化は火薬の銃と大きく変わらない。命中が期待できるのは70m程度で半分程度と考えられる。それでも、人の大きさは握りこぶし程度の大きさに見えているのだが。その程度の範囲に弾がぶれるのだ。


「次弾装填。こちらに向かってくるものを狙って」

「はい! こいつめ!!」


Pow!


 ゼン&ルイダンを避け馬車に駆け寄ろうとする賊の一人に、銃弾が命中、弾丸が命中した威力で叩き落された虫のように後ろにはねとばされる賊の一人。


「ま、また当たりました!!」

「ええ、さあ、次もよ」


 村長の孫娘は彼女に声を掛けられながら、落ち着いて次々と弾丸を放っていく。賊の悲鳴と地面に倒れる人影が一人、また一人と増えていく。馬車の後方でも赤目銀髪と歩人が林間の伏兵を狩り取り、背後の賊を薬師娘二人が銃と剣とで倒していく。


 三十人ほどの山賊が討伐されるのに、時間は三十分と掛からなかった。


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