第343話-1 彼女は王国とオラン公を結ぶことを画策する
「食事はお気に召していただけただろうか」
「はい。鯉を使う料理は王国でも南都の辺りでは人気があり、私も家族も好むところです」
「はは、鯉は美味いな。今、養殖ができないかどうか模索しているようなのだが、私の領地ではないので、詳しくはないのだよ」
食事の後、今は彼女とオラン公爵そしてナッツ伯爵の三人で少々込み入った話をしている。
王国は表立って支援をすることはできないが、非公式に彼女を観戦武官兼魔物狩りの依頼を受けた冒険者として派遣する代わりに、先々の協定を結ぶ下準備や、エンリら若いオラン公旗下の貴族子弟を王都の騎士学校に入学させ、軍事的教育の面で協力できるのではないかという提案を王とその側近である宮中伯に行う用意があるという事を話す。
「私の提案をどの程度、受け入れてくれるかは王次第です」
彼女の立場でネデルに肩入れしたり、力を貸す事を考えるほど深い関係性は存在しないので、説得する事は難しい。
「いや、問題ないだろう」
「……理由をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか」
オラン公が王国と提携できると確信する理由。それは、皇帝・神国国王の異端審問を行う事により、ネデルから原神子教徒を一掃するという計画を随分前から行っている事を教えてくれた人物こそ、今の国王陛下であるという。
「帝国と王国の間で終戦条約を結ぶために王都を訪れた際に、当時王太子であった今の陛下から私にあの方たちの本心を伝えられたのだよ」
その当時は当然、信じられなかった。帝国の中でも王国でも、二つの信徒は互いに尊重し合うという法律が制定されたのだから。
「皇帝陛下も皇太子であった今の神国国王も、本当はその自領の中で、更には全世界の原神子教徒を含めた異端・異教徒を改宗させ、そうでない者たちを異端審問で処分するつもりだと教えてくれたのさ」
その主導的立場に立っている者こそ、今、ネデルで総督として活動しているバレス公フェルナン『剛直公』であると教えられた。
「バレス公がネデルに着任し、異端審問を強化した時点で何が始まるか理解できたよ。だから、私は王国の好意を信じるつもりだ」
この場ではそう言わざるをえないだろう。味方ゼロの中、か細いながらも王国と接点を作れるのは彼女だけなのだから。
「私の立場でのお約束は何もできませんが、契約なら結べます。王都で冒険者ギルドを訪ねてください。薄紫の冒険者『アリー』への指名依頼。対象は……ネデルの吸血鬼討伐では如何でしょうか」
彼女が『王国副元帥男爵』としてネデルのオラン公軍に参加する事はできないが、冒険者『アリー』としてならば、吸血鬼討伐の依頼を受けネデルに向かう事を拒める者はいない。高位の冒険者と言うのは、そういう存在だからだ。
「それならば、エンリに代わりに依頼させよう」
「それでお願いします。報酬は……応相談で」
「……因みに相場はどのくらいだと考えている?」
リスクを考えれば、隷属種金貨一枚、従属種で十枚、貴種で百枚といったところだろうか。加えて、その吸血鬼の持つ資産は討伐した者の所有物となる。
「妥当なのだろうか? 私にはわからないが」
「おそらく、吸血鬼の強さに応じた役職についているでしょう。隷属種なら百人の長くらいしょうか」
「それならば安いくらいだろうな」
兵士の年収が金貨六枚ほどなので、ちょっとした賞与程度の報奨金だ。
「滞在時の経費は別途実費で請求いたします」
「……それはそうか。その場合、一日当たりの費用は……」
細かい交渉となったのだが、一日当たり総額で小金貨一枚、十日ごとの契約の自動継続となった。数人の高位冒険者を移動するための手段迄含めて雇うと考えればとてもお安い。
『王国からも観戦武官手当が出るだろうから、そんなもんだろうな』
『魔剣』の指摘通り、ネデルでの行動は機密費から相応の活動費が支払われることになる。その後、騎士学校において、ネデルの戦闘に対する講義を彼女が持つことになるのはしばらく先の話となる。
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