第341話-1 彼女はディルブルクに向かう

 アジトの内装もほぼ完成し、後はベッドを入れるだけの状態となろうとしていた。オリヴィと別れて一週間ほどであるが、流石にまだネデルでの調査は終わらないだろう。


 王国に帰還し、今後の行動を考えるとすれば、国からは先ず神国軍、帝国軍との関わりを探りつつ、本命はオラン公との関係を進められるだろう。


 オラン公の反応がいまひつとつであった件について『魔剣』曰く……


『人狼が不味かったんじゃねぇの』

「今だ調整中でしょう? あの方たちに選択肢は余り多くないでしょうから」


 オラン公=ナッツ伯の調整であるとしても、判断は早々につかない。


 帝国内に逃亡できたネデル貴族は、元々帝国貴族と姻戚関係があったり、領地を両方に持っている者たちが主であり、他は連合王国やその他の原神子派に弾圧を行っていない海の向こうの国に逃亡するか、国内に留まるかするしかないのである。


 時間の経過とともに弾圧は進行し、ネデルに留まる貴族の中でも原神子派の人間は数を減らしていくだろう。


「ロックシェルって帝国の総督府がある所謂ネデルの首都なのだけれど、弾圧と暴動があって、神国軍を率いた本国の将軍が鎮圧したようね」


 軍を用いて積極的に制圧・弾圧を行い、その上で、神国の統治に意見する者たちを異端として処罰していく。既に新総督はその姿勢を行動で示し始めていると言える。


 メインツで知りうる範囲の情報を集めたところ、オラン公脱出の直接の要因は、この将軍の登場と、神国軍を背景とする異端審問の加速を危惧しての事なのだろう。それまで、神国国王の姉が総督を務め、その配下の司教が異端審問を行っていたのだが、直接兵権を持つ将軍とは厳しさが違う。


 異端審問の内容は同様に厳しかったとしても、そこに至るプロセスは今の方が相当に厳しいだろう。


「先生、一度王国に戻るのでしょうか?」

「そうね。私の判断ではこの先の事は行動に移せないでしょうから、一度王都に帰還して、話を詰めたいと思っているわ」

「一つ提案」


 赤目銀髪曰く、仮に戦場に出るとするなら、『魔装馬鎧』を用意したいという。


「銃で馬を傷つけられると厄介」

「……でも、それだと私は馬に乗れそうにもありません」


 碧目金髪は魔力量がメンバーの中で飛びぬけて少ない。とはいっても、世間の魔剣士程度ではあるのだが。リリアルは魔力量を増やす事に全力を上げているので、そう見えてしまう。


「なら、鞍をタンデム仕様にして、セバスを前に乗せて後ろで立射してもいいんじゃねぇか?」

「そうね。鐙に踏ん張って馬上からの立射!! 絶対カッコいいわ」

「むぅ、それは私もやりたい」


 前衛の二人は一人乗りでも構わないのだろうが……いや、馬を倒された場合、救助し後部の鞍に乗せて逃走する事も可能になるだろう。勿論、戦術の幅を出す為に二人乗りに切り替えることも出来る。


「馬鎧は、魔装の胴衣の馬用をイメージすればいいかしら」

「それで完璧。重さは布で、強度は鋼鉄。最強の重騎兵」

「二人乗りでチャージも射撃もこなすなら、間違いないな」


 今流行りの、馬上で銃撃を繰り返しながら何度も歩兵陣を攻撃する戦術とは少々違うが、その騎兵を阻止するためにはそのような装備も無駄にならないだろう。


「馬上で、竜を倒した魔装銃を撃つのもありでしょうか?」


 『魔装笛』と称する大口径の魔装銃。その威力は小口径の大砲並みと言える。魔装銃の三十倍の威力でドラゴンもビックリ。


「なら、私と貴方でタンデムもありかもね」

「それも良い。遠間で『魔装笛』、接近したら弓と剣で攻撃できる」

「女の子二人なら、馬も軽いだろうからいけそう!!」


 赤目娘な二人がタンデムを希望。赤目蒼髪が騎手を務め、片手剣を用いて斬り込む。後ろの席で『魔装笛』の立射から、弓へと切り替えて騎兵の列や歩兵の陣に向かう。


 槍兵は鎧も簡素で盾を持たないので、弓も効果があるし、密集していれば『魔装笛』の射撃で大きなダメージを与えられるだろう。


『魔鉛弾は必須だな。魔銀製や魔水晶よりもコストが安いし効果もある』

「わかっているわよ。問題の笛が用意できるかね」


 馬鎧は大きさもある事を考えると、短期間で用意する事は困難かもしれない。先ずは前面だけを用意すべきかもしれない。『笛』は用意できるだろう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る