第331話-2 彼女はオリヴィと吸血鬼について考える



 オリヴィの説明を聞き終え、彼女とリリアルメンバーは少々途方に暮れる事になった。一体二体ではなく、想像以上の吸血鬼があちらこちらに潜伏しているとすれば、正直手が出せないしキリがない。


 吸血鬼だけでなく、その協力者を含め帝国の様々な都市にしっかりと根付いているとすれば、その存在自体が帝国の一部と言えない事もない。


「マジかぁ」

「ええ、マジよ。こちらにちょっかい出してくる吸血鬼を討伐するのは問題無いとしても、潜んでいる者は正直判らない」


 例えば『枯黒病』にしても考えられるのは、病気ではなく吸血鬼により殺された存在が混ざっているのではないかという疑いだ。都市の半数、若しくは三分の一に及ぶ人が短い間に次々と亡くなる。その間、都市は封鎖され、病人は打ち捨てられる。死体は焼かれるから、証拠も残らない。


「自分が欲する魔力持ちを病気に罹患したという建前で拉致し、その餌食にするなんて容易だからね」

「確かに。市の運営に関わる役職者の中に紛れ込んでいれば、自分のいいように人を動かせるかもしれません」


 吸血鬼の活動が、様々な事件の背後に存在する可能性について考える。


「吸血鬼に飼われているみたいで不愉快」


 赤目銀髪は顔を顰めつつものを言い、それに対して青目蒼髪が反応する。


「ああ、マジであのギルマスは潰してぇな」

「ちょ、待ちなさいよ。あの人は吸血鬼じゃないでしょう? それに、一度潰してるじゃない私たち」

「「「確かに」」」

 

 吸血鬼対策に関しては緊急性が高くない……というよりも、お互いに出方を確認するという段階に過ぎない。相手が反応するまで、恐らくは時間がかかるであろうし、何よりも吸血鬼は連携したり共同で何かをすることがあまりない。


「縦社会で命令系統がはっきりしているから、横の連携も取らない事がほとんどね」

「ですので、各個撃破するのは容易ですが、一網打尽にはならないのです」


 メインツ周辺に存在する吸血鬼は貴種ではないと考えているオリヴィ達は、相手が攻撃してくるまでは放置で良いのではと考えている。


「一般的な住民を直接襲う事は無いのよ。魔力無しの人間には興味がないから当然ね」

「なら、私たちは狙われてもおかしくないですよね」


 碧目金髪の指摘に、剣呑な雰囲気が広がる。特に歩人。オリヴィも同意する。


「そうそう。メインツの冒険者は減ると困るし、魔力持ちは希少だから避けるように命じられているんじゃないかな。でも、余所者なら話は別って事になると思うわ」

「美味しそうに見えるように精々動き回ろうぜ」

「一人にならないようにしましょう。先生以外」

「お、おう」


 歩人は単独になりがちなので特に注意が必要なのだが、誰も注目せず、何となく答えてしまう。もう少しおじさんに優しさを与えて欲しいものである。





 借りた家に関しては、この辺りでありふれた『木骨造』と呼ばれる建物である。王国ではコロンバージュColombages、帝国ではファッハFachヴェルクハウスwerkhausと呼ばれる。


 木造の柱に斜めや横の骨組みを入れ、その間を煉瓦や漆喰で埋めていく壁が特徴的な建物で、山国、その周辺の帝国から王国の都市に多く見られる構造の建物だ。丁寧に使えば数百年もつと言われており、初期の都市建設の頃から残る建物もある。


「斜めに入っている木の柱が可愛いですよね」


 王都ではあまり見ないデザインの建物なので、リリアルメンバーは異国情緒を感じているようだ。


「木造より耐火性に優れているし、断熱もそこそこ有効でしょうね」

「つまり、街中で火事が起こっても燃え広がりにくく、冬の寒さに室内の熱が外に逃げにくいという事ですね」


 そうとも言う。石造りほどコストが掛からず、耐火性があるというのは都市の建物として有用なのだと思われる。リリアルの寮にも生かせるのではないかと彼女は考えていた。


「三階建てで屋根裏と地下階もあるから、収納含めて結構広いですよね」

「一人一部屋!!」

「死ぬぞ。二人一部屋か三人一部屋だろ?」


 部屋割りは黄金の蛙亭滞在時と同じになるようである。一階と地下階に錬金工房と台所を設置。二階に食堂とリリアル生の寝室。三階に客室と彼女の寝室兼執務室を設置する事になるだろうか。


「男は小屋裏部屋」

「「……なんでだよ……」」


 結論的には、客室を小屋裏にして三階に男用の部屋を階段フロアを挟んで彼女の寝室と反対側に設ける予定にした。二・三階の部屋には専用のバス・トイレが付くのは、とても歓迎できる事であった。


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