第327話-2 彼女は新しい組み合わせを試みる
小屋の中を魔力走査で確認するが、特に大きな魔力を有する者はいない。
『なにする気だお前』
「こんなことよ」
『マジかよ』
彼女はこの戦いで、一つ試してみたいことがあった。
「見える!! 私にも見えるわ!!」
どこかの連隊長(大佐)のような事を言いながら、彼女は目隠しをした状態、正確には魔装布で顔を覆い、視覚を封じて小屋に飛込みグールの間を飛び回り切裂く。
魔力走査で相手の位置が分かり、更に、土魔術の効用で自然物、土や石、木や草の存在を魔力を用いて知覚することができるようになっている。つまり、真っ暗闇の森の中や自然洞窟などの中で、視力が無くとも地形や攻撃対象を把握することができるようになったのだ。
『まあ、良かったんじゃねぇの』
「ええ、当たらなければどうという事もないもの」
『だが、脚は飾りじゃねぇぞ。大事にしろ』
彼女の場合、魔力壁で飛んだり体を支える程度はできるが、流石に脚力を封じて戦うのはかなりの悪手だ。
Gaaa!!
Geeeaaaa!!
手足を切り落とし、更に首を落していく。一撃で斬り落とせないのは視覚を封じている為、安全マージンを取っている故だ。掴まれるのを避けるため、手なり足なり伸ばされるものを斬り飛ばし、近寄った上で首を刎ねる。
たちまち、地面は腕や首が転がり始める。脚を取られそうになって彼女は視覚を封じるのを止めた。
一旦、馬車に戻り、人狼の入っている樽を持ち出し、彼女はひょいと担いで来た道を戻る。そして、扉を開け放ち、樽の蓋を開ける。人狼は顔を出すと、残された片方の目で周囲を確認する。
そこには、十二体ほどのグールと対峙する四人組が見える。
『ひぃやははあぁぁぁぁ!! この数の
ダメージが深刻で人化をやめた途端に死にかねない人狼が、味方の優勢を確信して背後から喚き散らす。
半包囲で襲いかかるグールに、青目蒼髪が突進しハルバードを振り回し頭を叩き潰していく。
「シッ!!」
鋭い掛け声とともに、赤目蒼髪がグールの眼窩にスピアヘッドを叩き込み、脳を破壊するように手首を捻りかき回す。
接近してくるグールの頭を確実に吹き飛ばす碧目金髪。そして、弓では倒しにくいと判断した赤目銀髪が、聖別された片手剣で力任せにグールの首を刎ね飛ばしていく。
驚くほどの短時間で、人狼の確信していた優勢は消え失せる。
気が付くと既に十二体のグールはほぼ仕留められ、首をハルバードの斧で叩き斬られ止めを刺されているところだった。
『全滅……十二体のグールが三分と持たずに全滅……化け物か……』
「化け物はお前。ワン太二号」
「略して二号ですね」
必勝を確信していた人狼こと『ワン太二号』は、その情けない綽名に相応しい心折られた存在と化していた。
討伐依頼ではない為、査定の素材としてグールの死体全部と遺留品らしき装備を回収していく。
「この小さい魔法袋にしましょう」
『ああ、お前の持っているのはヤバいからな』
小さいと言っても、小屋ほどの収納能力があるので、四十体程度であれば十分に収納できる。この魔法袋は、比較的魔力の少ない碧目金髪の装備となる。
「丁度魔力を消費する物が欲しかったんですよ」
日々、ポーション作りと気配隠蔽などで魔力を使い続ける事で、魔力量極小から『小』にまで増やしてきた碧目金髪は、ここの所馬車の馭者も必ずしも務めておらず、魔力を消費する手段を求めていたのだ。
「そろそろ成長が止まる」
「誰がお肌の曲がり角よ。まだまだ若いわ私」
最年長であるが、未だ十七歳である。少女と言っても通じる年齢だが、見た目では既に女性の範疇に成長している。赤目銀髪の秘かな憧れの対象である。が、言い方は厳しい。ツンデレか。
ワン太二号を引きずり出し、尋問を始める事にする。
彼女の中には、ある確信が芽生えていた。この二つのメイン川が合流する場所にある『喰屍鬼溜』とでも呼べばよいのか、戦力を確保しつつ隠す設備を用意したのは誰かという問題だ。
『ファルツ辺境伯の領都がこの少し上流にあるよな』
帝国皇帝の総代官とでも言えばいいだろうか、メイン川中流域に多くの領地を有する選帝侯の一人。そして、領都『
ほど近い場所だ。
「辺境伯はガリガリの原神子教徒。ロタールは原神子教徒の牙城だというわね」
『皇帝臣下の騎士の不満を利用し、騎士の乱を起こさせたって話もある』
帝国騎士ジギンを指導者とするジギン団と称する小領主が決起し、メイン川上流から中流にかけての村落や都市を襲い、多大なる被害をもたらした。その後、ジギン団はトリエル攻略に失敗しその軍は崩壊。二年後、ジギン団の主だった領主が集まる地域にトリエル司教軍を中核とする討伐軍が派遣され、多くの反乱騎士が討伐されている。
『アンデッドの素材取り放題じゃねぇか』
「そうね。治安維持目的に山賊・盗賊に落ちた傭兵団を丸ごとグールに変え、そのグールを反原神子勢力の強い街に送り込む。メインツもトリエルもコロニアもメイン川の下流側にあるから、ここから一日程度で送り込めるわね」
彼女の独り言のように聞こえる「ファルツ辺境伯によるグール襲撃計画」
を聞いたワン太二号は、分かりやすく片方の目を泳がせている。
『知らねぇ! 俺はなーんも知らねぇ!!』
「自白乙」
「解りやすいね。まあ、言いたくなるまで聖別したナイフを体に刺し続けてもいいだろうな」
「それはいいね。ニ十本は行けるでしょう!!」
「人狼さんのちょっといいとこ見てみたい……ですね。男気ナイフ刺し」
金髪の美女がいい笑顔で聖別されたバゼラードを握り、その刃先をそっと人狼の胸に当てると、人狼は大声で泣きごとを並べ始めた。
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