第325話-2 彼女は『狩狼官』と対立する


 人狼となれば、戦場で無双するのは簡単な事だろう。完全鎧を身に付ければ中身も良く分からない。紋章だけで見分けるのであれば、手柄を確認させるのも難しくはない。


「で、次は牙で勝負かしら」

『馬鹿が、生身の人間が人狼に叶うわけないだろう。絶対に許さん!!』


 人狼、ライカンスロープ、ルー・ガルー、ウェアウルフ等と呼ばれる狼に変化する事の出来る人喰鬼オーガというのが一番近い表現だろうか。オーガ並みの腕力に鎧に匹敵する体毛を有し、魔術を扱い、狼を統率する。


 強力な噛みつき、爪による攻撃、狼の俊敏性や聴覚嗅覚の能力など、オーガ以上に厄介な相手でもある。


 だがしかし、吸血鬼のように食屍鬼を量産するわけでもなく、月齢による能力の増減があるとは言うものの、単体なのでリリアル的にはそれほど問題ではない……と人狼以外の全員が考えている。


『はあ、先ずはお前からだ、自称男爵のお嬢ちゃん……ぎゃあああああ!!!』


 人狼は自分の周りに形成されている『魔力壁』が見えていない無かったようだ。その魔力は彼女の物であり、当然『聖』なる加護がある。傷ついた左手で触れれば、体内に思い切り打撃が加わるし、破壊しようとすれば、更に傷つくだろう。


『なんだぁぁぁ!! ふざ……いっでえぇぇぇ!!!』


 POW!!

 Baannn!!

 目の前の彼女から、魔銀の弾丸が短銃から発射され、更に、背後の碧目金髪から魔装銃で狙撃される。胸に二つの穴が穿たれ、その傷が……みるみるうちに……みるみるうちに再生されない。


『Gaa!! ナゼ!! ナゼ再生シナイィィィィ!!!』


 魔銀の弾丸の傷は再生されない、若しくは再生されにくい。まして、その弾丸に魔力を込めたのは『聖女』である彼女だ。


『Gaaa!!!』


 遅れて弓を取り出した赤目銀髪が、背後から、魔銀矢を連射!! 肩や背中に次々と魔銀の鏃が命中、小さく破裂しながら命中する。


 魔力壁を解除すると、左右からハルバードの打撃がフラフラとしている人狼に命中する。腕を振り回し、回避しようとするが……


『Giiiii!!』


 膝から下を彼女の剣で寸断され、バランスを崩し転倒。その倒れた体に、ハルバードの打撃が次々と命中していく。


『ナンデ……ナンデジャァァァァァ!!』

「私たち、魔装騎士だからね」

『ナンダソレハァ……』


 既に体の彼方此方を寸断されている人狼だが、まだまだ元気そうである。既に右手首から先、左肩の付け根、右膝下、左太腿から先はない。右目も潰えている。


「魔物狩専門の騎士団よ。いつの間にやらね」

「魔術師って魔物狩る仕事じゃないんですよネ本当は」

「別にいい。部屋の中で魔法陣の研究とか無理」

「冒険者っつーか、まあそういう感じだな。国から給料出るし身分もある」

「国のお抱え冒険者っていうのがしっくりきます」

「「「それだ!!(じゃねぇよ……でございます皆様)」」」


 リリアル学院は、国営冒険者の育成機関と考えると、割と近い気もする。冒険者の仕事をあまり取り上げるのは問題だが、冒険者の依頼の範疇を越える魔物退治はリリアルに基本的に流れてくるので間違いない。


『聞ィテネエゾォォォ……』

「聞かれていないからね。こんな小娘の男爵なんて、この辺りじゃリリアル男爵しかいないじゃない?」

「まあ、おっさんの敗因は、森の中でイキリ過ぎた事だな。世界に広く目を向けて情報収集しないとな……来世では」

『Guuuuuu……』


 尋問をするにしてもどこか拠点が欲しいわねと思いつつ、オリヴィに相談し、この人狼の尋問を速やかに行うべきかと彼女は考えているのだが、エッセに向かったオリヴィが戻るまでの間、人狼をどう保管するか考える必要がある。


「どうしましょうか……」

『こんな時こそ、年寄りに知恵を借りればいい』


『魔剣』のアドバイスで彼女は閃いた。人狼を魔装網で縛り上げ、従者は放置。討伐した狼を回収し、常時討伐扱いで処理することにする。そして、一先ず、素材採取で薬草を沢山出来る限り集める事にする。


 暫くこの辺りには、誰も近寄らないので、根こそぎでも構わない気がするからだ。



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