第319話-2 彼女は中古の武器を買う
一旦、黄金の蛙亭に戻り、魔法袋に購入した武器を収納する。
「この剣、作りが雑だね」
「護拳がただのS字のフックだからねぇ。まあ、重さ的には振りやすいし、叩きつけるにも突き刺すにも良いバランスだね。古の帝国の兵士が装備していたグラディウスってこんな感じかもね」
剣の大きさは同じ程度。歩兵が密集隊形で接近し、相手の腹を突くように使う剣だと言われる。パイクの戦列同士がぶつかり合うと、押し合いで接近した兵士同士が、この幅広の直剣で刺し合うのは似ているかもしれない。
「リリアル向きじゃないよね」
「密集しない。正面から突き刺さない。魔力が纏えない。でも、帝国の冒険者なら持っていても不思議じゃない」
「御土産にするしかないかもな。工房の人達によ」
「怒りだすんじゃない? こんな雑な剣ってさ」
「あり得る」
今回は、剣は修復せずに、ハルバードとオウル・パイクという、今や廃れた金属の細長い釘のような穂先を持つ槍を装備する事にした。
「刺さると痛そう」
吸血鬼や
「お待たせ。なに、いい掘り出し物あった?」
黄金の蛙亭でオリヴィの戻りを待っていた彼女たちの所に現れるなり、仕舞いかけた武器を見ながら、其々の使われ方と修復箇所、その方法についてオリヴィが解説し始めた。
「これは、折れるよ。ここ、ヒビが入っている」
「あっ、本当だ」
「この手の剣は見た目の良さで作られるから、長持ちしないんだよね。
装備している兵士と同じだね」
という感じで、辛辣である。オリヴィの見立てにおいて、今の装備で問題はないだろうという。
「傭兵の受け皿として存在する冒険者ギルドだけれど、装備を見て専業か兼業か見分けているというのもあるわね」
帝国傭兵のキーアイテムであるツヴァイハンダーやカッツバルゲルを身につけた冒険者より、スピアやショートソードのような普遍的装備に革鎧のような装備を持つ者を護衛や指名依頼の対象にする依頼人が多いという。
「冒険者ギルドはあくまでも抑止効果しかないのよね。本当に冒険者が依頼人を裏切ろうと思えばいくらでもできるし、逃げるのも簡単。帝国はそういう意味であまり冒険者には住みやすい場所ではないわね」
「でも、オリヴィさんは帝国で冒険者を続けているんですよね?」
赤目蒼髪が思わず口に出した後「しまった」という顔になる。それは、何らかの訳があるって決まっているではないかと気が付いたからだ。
「冒険者をするのは手段であって目的ではないからね」
深く答えずに、そういって話を終わらせたのである。
土魔術による武器の補修の件は一先ず後回しとし、先にドレスの仕立てに向かう事になる。今回は、四人分仕立てねばならないし、彼女の着る分は複数枚必要になるので、それなりに時間がかかるだろう。
「既製服はないのでしょうか?」
「値段の割に間に合わせ以上のものじゃないからおすすめはしない。それに、最初に伝手ができるのに半月とか一月はかかるでしょう?」
その間、リ・アトリエはトリエルで依頼を受けたらどうかとオリヴィは提案をする。
「通いにしては遠い……でもないか」
「この街では目立ってしまったからね。でも、トリエルの冒険者ギルドでは王国のライセンスの更新は出来ないからしかたがないの」
所謂、商人同盟ギルドの主だった加盟都市でなければ手続きができず、この近辺ではメインツかコロニアになってしまうという。
「この街が一番マシなのでここに決めたんだけど、トリエルの方が依頼の質が良いと思うわ」
「何故?」
「メインツには冒険者が集まるから依頼も集まるの。でも、トリエルに出される依頼も少なくない。トリエルは冒険者自体が少ないから、星三のパーティーなら競争もないし恨まれもしない」
例えば、髭面おじさんのパーティーと依頼の競合になれば、最初の遺恨が尾を引いてトラブルになるかもしれない。
「それに、護衛然とあなた達がメインツにいるより、少し離れた方がアリサ様も仕事がしやすいでしょうね」
四人と行動を共にする事で、彼女自体も目立ってしまったり、トラブルに巻込まれるかもしれない。トラブル持ちの王国商人と関わりたいと思う商人は多くはないだろう。
「じゃあ、明日からトリエルへGO」
「了解。魔装馬車ならひとっ走りだし、四人で馬車で野営するのもいいかもな」
「アンディさんは勿論、見張担当だから」
「当然」
男一人となる青目蒼髪『アンディ』は、魔装馬車の床下ということで妥協する事になった。それでも一人だけ外……
「まあ、ほら、いいことあるぞそのうち……」
「セバスの言葉に説得力皆無だぞ」
「……言うな……悲しくなるじゃねぇか……」
歩人は色々やらかして、里の若い未婚の女性全員にお断りされた悲しい過去がある。青目蒼髪は一期生の中では弄られキャラだが、意外と他のリリアルの女性には人気がある。茶目栗毛は愛想は良いが賢そうで声をかけにくいのだが、青目蒼髪は頼み事は断らないし女性に対する配慮もできる。王国の正式な騎士であることからも、将来有望と思われてもおかしくない優良物件である。本人はさほど理解していないが。
オリヴィのおすすめの『エルネスタ』というお店。彼女がメインツを初めて訪れた時から世話になっているお店で、半既製品もあるので、急に必要になった場合、短い時間で補正をして仕上げて貰えることもあり便利なのだという。
いつも、祖母と付き合いのあるクチュリエに頼んでいる彼女からすると、少々緊張する状況でもあった。
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