第314話-2 彼女は冒険者ギルドのお約束を見る


「お疲れ様。のどが渇いたでしょう。新しい飲み物を注文しましょう」


「俺が奢るぞ。儲けさせてもらったからな」


「それは私もですよ。ですが、腕相撲ですんで良かったです」


「ビルがいるから揉めないと思った」




 赤目銀髪も帝国の冒険者として有名なビルの連れが理不尽な真似をされるとは思っていなかったようだ。そして、腕相撲の勝ち負けで遺恨になることも無いだろうという読みもある。




「あら、すっかりいいところ見逃しちゃったみたいね」


「お帰りなさいヴィー。どうでしたか?」


「まあ、ちょっと実力見たいそうよ。明日改めて午前中にギルドに来て欲しいという事になったわ」




 大司教からの手紙と山賊討伐の実績が事実なら、問題なく星三等級で三人を認めるという事なのだが、腕前を確認しなければ認められないという。




「悪い事ではないでしょう。推薦状や実績というものはお金で買える場合もありますから。責任者として、実力不足の冒険者を実際の能力より高い等級で承認し、受領した依頼を失敗させた場合の責任問題になり兼ねませんから」


「……私って信用ないのかな」


「ええ、恐らく指名依頼を蹴っている事に対する嫌がらせだと思いますよ」




 ビルがいい笑顔で返す。等級が上がり、貴族並みの扱いを受けているオリヴィだが、指名依頼を断る事も少なくない。それこそ、二回に一回は必ず断る。断らないのは、連続して断ると降格になりそうなときだけである。




「いきなり星三というのは、ギルマスも躊躇する?」


「護衛依頼を受けられる等級なら何でもいいんだけどな俺達」


「アリア様から依頼を受けるだけですからね。指名依頼にしてもらって、帝国内にいる間中、定額って感じで優先で受ける特約でもつければいいでしょう」




 帝国にいる間、依頼の優先権を持って護衛をする。護衛の仕事がない場合に限り依頼を別途受ける事ができるというような内容になるだろうか。




「それなら断っても降格にならない?」


「ならないわね。あくまでも先に契約した依頼の内容が優先だから、断るのではなく依頼の受注中だからという理由が付くわね」


「どの道、継続して帝国で活動するつもりがないから気にしないでもいいのでしょうか?」


「いや、一回取得したら次回も実績引継ぎで紐づけされるだろうから、受けないといけない事もあるんじゃないかな」




 この四人で帝国でパーティーとして活動してもらう事は大いにあり得るので、降格は避けてもらいたいと思うのである。指名依頼以外の依頼を受注してしまえば連続拒否はリセットされるので、指名依頼を断ったのち、簡単な依頼をこなしておけばいいとオリヴィが助言する。




「明日はどんな感じなんでしょか」


「おそらくは模擬戦を一人づつ熟すと思うわ」




 リリアルは個々人の戦闘力をあまり考慮していない。コンビネーションが前提の組合せなので、模擬戦に関してはあまり良い結果が考えられない。




「カエラちゃんは星一で通ると思うわ。でも、一応受けてくれると、星二になるかな」


「えー どうしましょう……」




 碧目金髪は冒険者としての経験は少ないものの、学院内で後輩の薬師を指導したり集団を生かすのが得意な存在である。二期生がパーティーを組む場合は、指揮官として配置することも考えている。同じレベルの初心者の中に、魔力量は少なめでも、視野の広い人の教育に長けた人間を加えて摩擦を減らそうと彼女は考えていた。




 戦闘に直接参加する前衛タイプの伯姪よりも、後方で指揮を執る銃手の方が適役ではないかと考えたためだ。ちなみに、赤毛娘は斥候を兼ねるため、指揮役は不適格と判断している。口下手なところもマイナスだろうか。




「銃の腕を見て貰えば良いのではないかしら」


「冒険者で銃の扱いってどうなるんでしょうね」




 碧目金髪には、彼女が以前使っていた短銃を譲っている。魔銀製の銃身の物を今回使うようになった為だ。




「短銃を使った近接戦闘ならどう?」


「うーん、気配隠蔽してから、死角から撃ち込む感じでしょうか」




 碧目金髪はそれほど格闘が得意というわけでは……ない……全然ない。




「あなた、護身はなかなかの腕前じゃない。思い切ってぶん殴ってみれば?」


「おまえじゃねーんだから辞めろください」




 ギャーギャーと騒ぎ始める蒼髪バディ。思いのほか喉が渇いていたようで、果実水をジョッキで飲み始める赤目銀髪。徐々に冒険者食堂が込み始めたのを見て、オリヴィが「宿に戻りましょう」と声を掛けた。










 結局、掛け金の配当で膨らんだ財布の行き先は、明日のランチで使うことになった。勿論、冒険者ギルドの食堂以外での食事となるだろう。




「宿の食事もかなり美味しいのよね」


「そこがヴィーも気に入っているからこその定宿ですから」




 定宿組の黄金の蛙亭自慢を聞きつつ、その店に魚の塩漬けを卸していたという話を聞きつつ、帝国の冒険者というのは思いのほか色々な仕事をしているのだと彼女は思ったのである。




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