第303話-2 彼女は久しぶりに王都の武具屋を訪れる


「魔装頭巾な、外からはそうと分からないように偽装した奴、一応作って見たけど、あんま良くないかもしれないけど……」


 学院に戻り、癖毛に話をすると、一応サンプルはあるという。魔装布に外側に普通の頭巾を被せたものだが……ボリューミーである。


「被り心地が悪いわ」

「……だよな。いいアイデアが無いかな……」

「魔装網にして、薄い布で挟み込んで頭巾型に成型するとか?」

「「「それだ(ね)(な)!」」」


 赤目銀髪の呟きに、癖毛と彼女と歩人が声を揃える。





 結論的に言えば、魔装網で内側にネット上のキャップを形成して被る事で、ある程度の衝撃を吸収できるように作る事にした。インナーキャップとでも言うのか。


「これ、野営の時に頭冷やさなくていいわ」

「それは良いな。頭を冷やすと、体温を維持するのが難しくなる。見た目は華奢だが、グレートヘルムくらいの強度はあるし、文句ないな」


 グレートヘルムとは所謂『バケツ』のような形をした古い兜の事である。聖征に参加した騎士の兜を想像すれば大きく間違わないだろう。


「なかなかいい。流石私のアイディア」

「まあな。インナーキャップにするってのは正直思いつかなかった」

「これ、色々使い回しできるから良いよね。上手くすれば、革の盾とかに被せても使えるかもだし」

「「「それだ(ね)(かな)!」」」


 赤目蒼髪の呟きに、癖毛と彼女と薬師娘が声を揃える。


「魔銀の盾目立ちますからね」

「でも、ボスの部分だけにして外側は革を張るとかすれば目立たないんじゃないかな。ボス以外は消耗品だし。壊れるし」

「その方が目立たないかもしれないわね。大きな盾には魔装網、基本は魔銀ボスのバックラーで対応しましょう」

「「「はい!!」」」

「……それなじゃないんだな……」


 遠征チームはどこか旅行気分で浮かれている気がするのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 二期生も一週間ほどたち、学院のスケジュールにも慣れてきたようでなによりである。


 食事の量も味も今まで経験したことの無いような……毎日がお祝いのような食事。そして、フィナンシェのような貴族でなければ口にできないようなお菓子が普通に供されるので「今日は何かのお祭りですか?」と先輩たちに聞いてしまう事もあったりする。


 とは言え、覚える事ばかり慣れない事ばかりであり、四分の一人前程度の彼らにとっては物凄いプレッシャーを感じていたりする。


「お、覚えられない……」

「怒られる……かな……」

「……出来ないっていっていいのか……」


 村長の孫は比較的色々な仕事を祖父に頼まれ、仕事の種類の多さを認識していたが、孤児・下働きの経験しかない他の子達は、あまりの仕事の多さに……いささか涙目である。


「でも、これガイダンス……こんな仕事があるんだよって説明だから。その中で、段階とか適正に応じて仕事を与えていくことになるのね。でも、自分の仕事しか知らない奴って『俺の仕事が一番重要』って勘違いして、周りの人の事を考えなかったり、反対に『私の仕事って誰でもできる仕事』って思って言うべき事を言えなかったりするのも困るの」


 藍目水髪、最近、自分の言葉で考えを伝えることが出来るようになりつつある。苦労はさせてみるものだ。


「だから、自分の仕事の周りの仕事も理解して、手伝ったり助け合ったりするってことがリリアルでは大切なの。冒険だってそうだよ。一人で無双するのは院長先生くらいのもの」

「「「「「……一人で無双してるんだ(のか)(よね)……」」」」」


 常に背後の仲間に気を配り、周りに気を配る。手柄を立てるために無暗に突進する事は、仲間を危険にさらすことになる。二期生は魔力の少ない子ばかりなのでその心配はないが、魔力量が多ければ、魔力頼みに暴走する未熟な者もあらわれる。


 近衛の貴族の息子などにミアン防衛戦でも見られた現象で、そのことが危険を生んでいた。


「まあ、だから、全部できる必要も、一度に覚える必要もないんだよ。来週から午前中は座学で基本的な学院生としての読み書き計算にその他の知識を勉強して、午後からは班に別れて様々な作業を順番に覚えてもらうことになるからね」


 午前中は頭を、午後が体と魔力を使い全身を育成するのがリリアル流の学習方法だ。


「えーと、た、例えば?」

「魔力を流して、薬草を育てる……とかだね」

「ま、魔力って薬草に効くんですか?」

「うん、治癒の効果が上がったり、それから、病気や虫の害に強くなる感じがするね。畑を仕切って比べてみたけど、効果はあるよ」

「へ、へー」


 魔力があるという事が、何の役に立つのか今一つピント来ていない子達に、藍目水髪が簡単に説明する。


「例えば、セイはサボア公の屋敷で毎日洗濯する仕事をしていたんだよね?」

「は、はい!! わたし、洗濯婦でした!!」


 突然名前を呼ばれた灰目黒髪は大いに驚く。黒目黒髪程ではないが、彼女の外見から、魔力に恵まれた体質であることが察することが出来る。黒に近い灰色や濃紺の目や髪を持つ者は、魔力に優れている傾向があるからだ。


「彼女はこの九人の中で唯一魔力量『中』なのね。生まれつきの体質もあるけれど、この洗濯をし続けていたことも魔力量が増えた原因だと考えられているんだよ」

「……へ……そうなんですか……洗濯すると魔力が増える……とか?」


 言葉を区切り藍目水髪は説明する。


「小さい女の子にとって、水を含んだ布を洗うって凄く力が必要だと思うんだよね。公爵家には沢山の使用人や騎士、勿論御当主もいるわけで、毎日朝から晩まで洗濯していたんでしょ?」

「は、はい。明るくなってから暗くなるまで、ずっと洗濯していました!!」

「そうすると凄く疲れるじゃない」

「はい。でも、体か慣れてくると、段々疲れを感じなくなってくるんです。それに、なんだか、体がポカポカしてきて、子供の頃は病気になったりしたこともありましたが、お屋敷に奉公に出てからは、毎日すごく調子がいいんです」


 灰目黒髪が両腕を持ち上げ、力持ちのようなポーズをする。


「うん、それが魔力を使って身体強化している状態だよ」

「……知らない間に……」

「そう。疲れて自分の知らない間に、魔力で体を支えていたんだと思う。使えば使うほど今の年齢なら魔力はどんどん増えるし、使い方が上手になれば、少ない魔力でも効率よく使うことが出来るようになるの。だから、学院で一番最初にやる事はね……」


 藍目水髪は申し訳なさそうに眉尻を下げ「疲れ果てるまで仕事をする事」

とこれからの九人の行く末を教えた。


 その後ろで彼女は大きく頷いた。




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