第十幕『レンヌの醜鬼』
第281話-1 彼女は王女殿下のお迎えを頼まれる
王宮からの呼び出し。それは王妃様からのものであった。
「あら、今日は騎士学校の制服なのかしらー」
王妃様は相変わらずのテンションであり、緊急性のある内容ではなさそうだと二人は安心した。呼び出しの要件について尋ねると、王女殿下の護衛の任務を騎士学校の研修として依頼しているのだと告げられた。
「今、レンヌに滞在しているのよー」
魔装馬車の導入で、今まで以上に頻繁に王女殿下はレンヌ大公子に会うようになっているのだという。それは良いことなのだろう。婚約者のいない二人には少々腹立たしいのかもしれないが。
「二人は、以前レンヌに侍女として同行してもらったじゃない? 面識のある者が護衛につく方がいいと思うのよ。それに、立派になった二人の姿を大公に見せたいというのもあるわー」
どうやら、騎士学校にいるギュイエ公爵カトリナも大公に引き合わせたいと考えているようで、彼女たち主従に冒険者経験のある騎士を馭者に起用して迎えに送りたいというのである。
「正直、馬車の速度が速いから、普通の騎士だと無理なのよねー」
「行きはどうされたのですか?」
王女殿下は川下りが気に入っており、船での移動を主にされたのだという。迎えは陸路を魔装馬車で移動し、帰りの護衛を頼みたいということのようだ。
「騎士は余り多く連れて行きたくないのよー かえって目立つからねー」
騎馬で二人、馬車に同乗する者が馭者二人に騎士二人という配分を考えているのだという。
「では、私たちにカトリナ様主従、冒険者経験のある魔騎士二名で編成することになると思いますが、よろしいでしょうか」
「ええ。絞り込まれるわよねー」
またもやヴァイとジェラルドになるのだろうか。もしくはアンドレか。
二人は王妃様に明日にでも迎えに立つと承諾し、一旦、騎士学校へと戻る事にした。遠征から即、レンヌに向かうのは少々難しいからである。
「王女殿下のお迎えの護衛か……ふむ、良かろう」
「アリー、今回俺は辞退させてくれ。奥さんの具合が悪いんだ」
ジェラルドはしばらく家を空けている間に、アメリアが体調を崩しているという事で、傍についてやりたいのだという。代わりに、アンドレに馭者を依頼することにする。
「六人で王女殿下の護衛か。大丈夫なのか」
「魔装馬車に追いつける物はそうそういないわ。殿下の魔力でかなりの防御能力と速度を維持できるからね」
「馭者は大変なのか?」
「風がね。防風に優れたコートの着用、腕は革の分厚い手袋を用意して欲しいわね。凍死するわよ」
「……まじか……」
彼女くらい魔力があれば、魔力壁で風除け代わりに展開も出来るだろうが、普通の魔力持ちではあっという間に魔力が枯渇してしまう。
「明日、朝にここを発って王宮で馬車を受領してレンヌに向かう事になるから、そのつもりで準備をお願いするわ」
「わかった。行きは魔装馬車一台でいくのだろうな」
「私たち四人が中に乗り込んで、ヴァイとアンドレが馭者役をこなしてもらうわ。初めての魔装馬車に慣れてもらわなければね」
魔装馬車で無理をすれば一日でレンヌの領都に到着する事は可能だが、中で一泊を入れて移動することになりそうである。ロマンデと王都圏の出入り口に相当する「ラマン」での宿泊を予定している。
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