第九幕『オリヴィ』
第270話-1 彼女は帝国の魔術師と会う
リリアルのツー・マンセルを二つ組み合わせた四人で魔力壁を展開しつつ、アンデッドの集団にぶちあたる戦い方を見た市民兵の誰かが呟いた『煉瓦を投げつけるようだな』という言葉から出た『
魔力の壁を維持するだけの練度と魔力量、戦いを継続することができる意思と戦闘技術、そして、それを実行可能な魔術師を『騎士』として四人以上同時に投入できるという贅沢を他の組織では行うことが出来ないからだ。
リリアルは『孤児』『女性』という弱者の中からリリアル男爵(とその『魔剣』)が拾い上げた謂わば想定外の集団からの育成で形成された戦闘団であり、終始冒険者・魔術師としての任務を遂行するために王国内を転戦している緊急派遣組織でもある。
平素、魔術の研究のために時間を注ぎ、尚且つ、余程の危機状況でも発生しない限り戦場に立つことのない魔術師からすれば、実戦に慣れ親しんだリリアルの魔術師は『異端』に見える事だろう。
曰く、「才能の無駄遣い」だと。
『だとよ。お前どう思う』
「自分の価値観を他人に押し付けるな……かしらね」
その話を耳にした時、彼女はそう思った。孤児院を訪れた時、今のリリアル生たちからは考えられないほど目には不安が宿っていた。食事も少なく、最低限衛生的にされた粗末な衣服を身に纏い、何とか毎日を生きる事しか考えられなかったからだろうか。
「そもそも、大半が恵まれた身分出身の貴族の息子で、子供の頃から魔術師の才能を愛でられて生きてきた人間に『才能』なんて軽々しく口にしてほしくないものね」
『お、おう……』
彼女自身は魔力の才能を持ちながら、それを「あの日」まで知る事はなかった。それはそれで構わない。そういう生き方だって悪いものでは無かったと今ではそう思える。むしろ、良かった気さえする。
「あの子達は、自分たちの生まれ育った孤児院の仲間の生活をよくするため、自分たちのような親のいない子を少しでも減らせるならと冒険者として、魔術師として頑張ろうと思ってい生きて今に至るわけでしょう。何も無駄などではないわ。むしろ、魔術を研究にだけ用いている方が無駄よ」
『それを言うな。まあ、全部が無駄じゃねぇ。無駄をやめてしまえば、大事な物も育たなくなるからな』
そんなことは理解している。言いたいのは、自分たちは有為で、お前らは無為だという態度の尊大さなのだが、貴族の中でも更に特権意識を持つ宮廷魔術師共にはそれを望むのは残酷なことなのかもしれない。
「しょぼい魔術なんて、道具の進歩で無効になるのに可哀そうね」
『それも言わないでやれ。今までの成功体験を捨てられる奴ってのは希少価値なんだよ。特に、支配階級では特にそうだ』
特権を持ち、それを代々受け継いできたものにそれは顕著なのだろう。貴族の生まれで魔術師として幼少の頃から育成されていれば、それはさらに堅固なものとなろう。
『厄介なことだな』
「これほど、ミアンに魔術師がいないで良かったと思う事はないわ」
王太子経由で伝えられた王都の増援の中に、魔術師が加わるか否かで紛糾しているという話を聞き、彼女はそんなことを考えていた。
「正直、アンデッド対策で欲しいのは浄化能力なので、魔術師より歩兵が重要なのよね」
『まあな。スケルトンじゃ、魔術師の得意な攻撃はあんまり有効じゃないからな』
これまで「戦力」として誇ってきた『火』の系統の魔法も、『銃』で代替可能となりつつあり、また、骨相手では火炎系の魔術の効果も今一つであるからなおさらだ。
彼女は「出しゃばりの評論家は来なくていいのよ」と内心思っていた。
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