第268話-2 彼女は北門城外に王太子を送り届ける
北門の正面から一キロほど離れた城外の病院に仮の指揮所が設置されていた。王太子が到着した時点で、稼働時間の短い魔導騎士を投入するという件に関して騎士団と魔導騎士団の間で激しく意見が対立していたのは言うまでもない。
「殿下!! よくぞご無事で!!」
王太子の登場に、指揮所の空気が変わる。上位者が現れ、自分たちで判断する必要性が低下したからだ。
その背後には四人の少年少女。騎士団、聖都の聖騎士はその姿を知っているが、魔装騎士団はそれを知らない。
「従者は下がれ。これから殿下と共にミアン奪還の会議を始める!!」
魔装騎士団の部隊長と思われる騎士が、リリアルメンバーにそう宣言をすると、王太子が困ったような表情になる。
「んー 訂正しておこうか。彼女はリリアル男爵、王国副元帥にして、このミアン『防衛』作戦の主要な参加者であり戦力だ。その他の三人はリリアルの正騎士だ。少々若すぎるがね」
赤毛娘が威圧するように「にしし」を笑う。
「リリアル男爵です。包囲されている敵戦力のこちらで把握している情報をお伝えするために参上しております」
王太子の「お守り」とはさすがに言えない。
「それに、ミアンは占領されておりませんし、既に西門側の討伐並びに掃討は完了しております。残る戦力は三方。川で隔てられた東門正面のアンデッド・ナイト並びにポーンは約千の戦力を有しており、これは城内の戦力で対応します」
「……千……」
「北門、南門にはスケルトンが約三千、その他指揮戦力としてのアンデッドナイトらが百前後存在します。スケルトンは問題なく討伐できるかと思いますが、アンデッド・ナイトは『ワイト』の能力を有する強化されたスケルトンであると認識していただければと思います。通常の攻撃ではダメージを与えられず、魔力を持ったものでなければダメージを与える事は出来ないと思われます」
彼女が滔々と説明し、指揮所の隊長・騎士たちが静かに拝聴する形になる。そして、役割と今後の増援が到着するまでの各自の役割を王太子殿下が指示する事となる。
「……では、皆の意見を聞きたい」
騎士団・騎士学校の関係者は王都からの増援到着後に速やかに決戦に移行できるように周囲の監視と情報収集を王太子殿下の下で行い、指揮所の機能の充実を提案する。これは間違っていないだろう。
聖騎士は、アンデッド・ナイトらの『斬首作戦』を実行したい旨を提案。スケルトン兵の中に紛れ込んでいる可能性もあり、発見できればという条件を付ける事になる。
魔導騎士は、稼働時間の制限もあり、スケルトン相手に討伐を行い、出来る限り討伐したのち、一度『アンゲラ』に帰還し整備を行いたい旨を伝える。
「魔導騎士四体で、北門側のスケルトンは粗方討伐できるかと思われます」
「そうか、私も魔導騎士の活躍を間近で見てみたいものだな。早速、命じてもらえるだろうか」
「ははっ!!」
魔導騎士隊長は踵を返すと、足早に指揮所を退出していく。彼女は内心何か思惑があると考えている王太子の顔をジロリと睨む。
「何をお考えでしょうか殿下」
「早期に問題点は把握しておきたいからね」
王太子は魔剣士・魔騎士の稼働時間が十数分と短い事と比較し、数時間の継続的な戦闘の行える魔導騎士鎧の効果をそれなりに評価している。
とは言え、例えば、身体強化し魔装衣を纏った『彼女』『赤毛娘』と比べればただの腕っぷしの強い騎士に過ぎないと考えているのだ。
「魔力を身体強化全振りにして、魔石ブーストした動く鎧みたいなもんだから、突破してきた敵を抑え込むには良いかもしれないけれど、楔の先端を担うにはちょっと役不足だと思うんだよね」
「リリアルも防御的な集団ですから、それは同じでは?」
王太子はニヤニヤと笑い、首を横に振る。
「確かに、外部に打って出る組織ではないが、その討伐はかなり前のめりの戦い方をするのが君のリリアルだろ?」
「当然です。王国と王都を脅かす者に裁きの鉄槌を下すのが役目ですので」
「そうそう、そこまで魔導騎士は強力じゃないからね。四体でタラスクスも多分討伐できないよ。あくまで長時間身体強化のできる騎士だからね」
装備の充実と、討伐慣れしてきた彼女たちからすると、その辺りの自己客観化が出来ていないのかもしれない。
「大体、今回も西門のスケルトン二千くらいはリリアル単独で討伐だよね」
「「「……え……」」」
「半分くらい魔猪ですけどね」
「「「……え!!」」」
王太子は「それでも」と付け加え、ワイト擬き四十を半時ほどで殲滅させたメンバーに付いても付け加える。聖魔装を用いたとはいえ、魔物の討伐慣れしているリリアル騎士でなければ、相当後れを取ったであろうと。
「グールよりは骸骨の方が気が楽だもん」
「あれはないよね。見た目は顔色の悪い普通の人に見えるから」
「女子供までグールだもんな。首を刎ねるだけの仕事でも、ちょっとくるものがあったな。家族や恋人同士のグールとかな」
「「「……」」」
騎士たちは、少年少女が彼らの知らないところで様々な辛苦を舐めていることをこの時初めて知るのであった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
指揮所に魔導騎士隊長が戻ってきた。王太子に出撃準備が完了した旨を報告するためにである。
「では、折角だから皆も観戦してもらおうか」
「有難き光栄でございます!!」
スケルトン三千と、魔導騎士四体。これが問題なく達成できたとすれば、彼女たちリリアル騎士は二人で魔導騎士一体分の戦力に相当するものと考えてよいのだろうか。
「なんか、面白そうなことが起こる気配☆」
「いや、絶対面倒ごとに巻きこまれるだろ……これ」
赤毛娘が呟き、青目蒼髪が反論する。仲の良い兄妹のようで微笑ましい。
「先生」
赤目蒼髪がいつでもフォローできるように待機すべきかと目で確認してくるので彼女は頷く。恐らく、彼らは根本的な間違いを犯すはずだ。
魔導騎士が四体横隊でジリジリと南門正面の街道を直進する。街道上には無数のスケルトン。そして、遠目では分かりにくいが、ワイト擬きが混ざっている。西門は独立した部隊として後方で待機していたが、あれは、王都からの増援を遮断する為の配置であったのかもしれない。
「接敵します!」
魔導騎士隊長が王太子に声を掛ける。無数の白い骨の壁が、四体の魔導騎士と対峙し、やがて接触する。片手に長大なランス状の長柄武器を持ち、突き払いながら四体は前進を続ける。その歩みは留まることなく、寄せるスケルトン達が次々に突き飛ばされ薙ぎ払われる。
「「おおぉぉ!!」」
観戦する騎士達から感嘆の声があがる。
スケルトンの壁を押し、前に進む魔導騎士。その背後を取り囲むように両翼を伸ばしたスケルトンの集団が背後の街道へと到達する。
「……不味くないか……」
「え、いや、そんな、はずは……」
魔導騎士隊長が困惑している。魔導騎士が戦場に現れ、戦列に突入すれば、兵士は壊乱し馬は逃げまどい、瞬く間に戦列が崩壊するのだ。マスケットの弾丸も、ハルバードの矛先も通用せず、まるで鎧を身に着けてないかのように動き回る魔導騎士に「敵わぬ」と見た敵兵士の士気が崩壊し、やがて全軍へと波及する事になる。
「そんなわけないじゃんね。相手はアンデッドなんだからさ」
赤毛娘が呟く。アンデッドの魔物に恐怖心など存在しないからだ。
「四人で攻めるなら、ダイヤモンド型のフォーメーションで先頭が穿ち、左右と背後がそれをフォローしつつッて感じっすかね」
恐怖に逃げない魔物には、攻撃一辺倒ではなく相応の対応がある。リリアル生には当たり前のことが魔導騎士には理解できていなかった。
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