第八幕『防衛戦』
第261話-1 彼女は眼下にスケルトンの軍勢を見る
外郭と堡塁の組合せは帝国や連合王国の軍に対して、強力な防衛能力をミアンの街にもたらしてくれている。但しそれは、相手が大砲を用いた歩兵を主力とする軍隊で、こちらも相応の戦力を堡塁などに配置できればである。
『ミアン』の外城壁はさほど強力なものではなく、精々魔物や盗賊から街を護る程度の規模の物でしかなかった。街は水路で細分されており、容易には落される事はないだろうが、いつまでもその状態が続くとは思えない。『北の水都』とも呼ばれる街も食料が尽きれば留まることはできない。アンデッドの軍勢は補給を気にする必要はなく、また、休息も不要な厄介な軍隊なのだから、長期戦は不利となる。
カトリナ達ブルーム分隊が滞在しているミアンの街にアンデッドの軍勢が押し寄せているとアンゲラ城に救援要請が届いたのは前日の事であった。
アンゲラ城の騎士団はミアンを包囲する数百のアンデッドの軍勢を相手にするには全く数が不足している状態で、騎士学校の教官と生徒が一先ず増援として向かう事になった。
「こんなこともあろうかと……」
「リリアルのメンバーを呼び寄せておいてよかったと考えているわね」
「その通りよ」
今回に関しては、ほぼ討伐に参加可能な魔力持ちを全員呼び寄せている。街の中にいる限りにおいて十分活躍が期待できる。その間に、実際の相手を見て確認する必要があるだろう。
『ミアン』はランドルと王都の間に存在する最大の都市であり、また、連合王国の貿易の中継点としてとても栄えた街であった。繊維加工の工場が多く立ち並び染色を主に行っていた。人口は凡そ四万人、王国有数の都市である。
しかし、百年戦争の間、この地は多くの戦場となり周辺は連合王国軍の略奪を受け荒廃、ミアンもその影響を受け都市は衰退した。また、強化された外城壁の建築も大きな街の負担となっている。
戦争終了後、繊維製造の王国における中心的な場所という位置づけは変わっておらず、ランドル・ネデルの諸都市に繊維製造を占有されない為、王国としては見本市を同地で開催するなど、積極的に保護し、特別市として優遇もしている。
この街が破壊され、復興しつつある繊維工場が破壊されることは避けたいというのが念頭にあるのだ。
籠城できれば良いのだが、攻城兵器が無くとも強力なアンデッドの魔術師が存在すれば、城壁の破壊自体は容易であろう。侵入したアンデッドが、住民を更にアンデッド化し、街自体は容易に破壊されかねない。
であるなら、城壁に辿り着かれ城門を破壊される前に、野戦で倒したいところだが、外に出る戦力がない。市民兵は城壁の防衛は出来ても、外に出て野戦に参加するには練度が足らないし装備も合わない。そもそも、アンデッドを討伐できる魔銀の装備も魔力を有する者も全く不足しているのだ。
ほとんどの市民、兵士、騎士はアンデッドを見たことはない。また、討伐の方法も未知だと言える。レヴナント・グール・吸血鬼は首を斬り落とせば死ぬが、そもそも、ゾンビは兎も角、グールですら首を斬り落とすのは難しい。まして、吸血鬼は魔力を有する者でなければ身体的に追従できないだろう。
悪霊に操られたワイトや、魔術を用いるリッチなどは全く歯が立たない。生身の人間を相手にする上で堅固な城壁は有利だが、魔術師やアンデッドには障害物の一つにしかならないだろう。
「急ぎましょう。手遅れにならないうちに」
「先行するわよ!」
彼女と伯姪は学院を出発した魔装馬車に分乗したリリアル学院生が一足先にミアンに到着するものと理解している。
学院からミアンまでの距離は約200㎞、普通の軍隊なら七日程度かかる距離がある。が、魔装馬車であれば朝出れば夕方には間に合うだろう。王都からも同程度離れていることを考えると、リリアルが最も早く辿り着けるはずなのだ。
彼女は知らないが、ミアンからの伝令が王都に到着する前に、学院からの報告でミアン救援部隊が一日早く編成されることになっていた。
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