第230話-1 彼女はカトゥで討伐の説明を受ける
翌朝も修道士たちは食事をしないものの、騎士達のために特別に朝食が振舞われる。貴族や聖職者は一日二食であるが、体を使う騎士はそれでは体がもたないからである。
「……昨日の輝いて見えた海の幸が、今ではすっかり萎れて見えるわ……」
「それ、塩漬けだからじゃない?」
再び魔物討伐に巻き込まれることで、心がすっかり萎れている彼女に、伯姪が「諦めさない」とばかりに話をする。
「アンデッドね。実体がある高位の者って何かしらね」
武装している時点で、元傭兵が部隊ごとグール化した集団を思い出す。
「グールの集団なら『赤』等級でもおかしくないわね」
「でもさ、餌はどうなっているのかしら? 死肉が必要なら城に籠っているのはおかしいじゃない?」
聖都でのグールは彼女たちの到着の少し前にグール化したものであり、それほど日が経っていなかったこともある。傭兵団は商人から補給を受けていたようであるし、村人も同様だった。また、街道を荒らしていた元冒険者の隷属種吸血鬼に率いられたグールは討伐前には普通に商人や旅人を襲っていた。
「ふふふ、なかなか興味深いですわ!!」
「……朝から話しかけないで、そのなんちゃって令嬢口調で」
「む、失礼ではないか!」
「その口調を続ける方が失礼じゃない。普通にしなさいよいい加減」
伯姪と彼女に冷たくつき放たれ「何故だ!!」と言い放つカトリナ……
「王女殿下のパチモンじゃなくって、オリジナルな自分を目指しなさい」
「一理ある。確かに、今のままではいけないと思ってはいたのだ」
そもそも、幼女から少女になりつつある王女殿下と、社交界でも注目される美貌と騎士としての体面を持つカトリナが同じことをしている時点でおかしいと何故周りは諫めないのだろうか。
「……言い出したら聞かないのです。そもそも、友達もおりませんし……」
「そ、それは言ってはいけないことではないか!」
カトリナ、友達がいないらしい。いたとしても、身分差があるので否定的なことは言いにくいのである。てか、言わない。怖いもん。
「騎士としてもですわ調は違和感あるでしょう。雰囲気ともあっていないし」
「騎士の時は冒険者の口調で良いんじゃない? その方が似合っているし」
「そうか。似合うならその通りにしよう」
「……同じ分隊の皆さんもホッとするかと存じます」
「カミラ……言うべきことを言って諫めるのもあなたの仕事じゃない?」
「いえ、空回りしているのが見ていて微笑ましいのです」
うん、知ってた、面白がってるの。
騎乗し周囲を警戒しているふりをしつつ、彼女は依頼内容の魔物について考えていた。武装したアンデッドらしき存在。そして、グールではない。それは一体何に当たるのだろう。
『いくつか想像できるが、どれも強力な魔物だぞ』
『魔剣』が思考に沈む彼女に話しかける。
「例えば?」
『武装しているという事で可能性が高いのは「バロウ・ワイト」だな』
バロウ・ワイトは略して『ワイト』とも呼ばれ、高貴な者の死体に死霊を取りつかせて生まれるアンデッドである。その姿はぼんやりとした光に包まれているという。触れられると生命力や魔力を吸い取られるとされる。
『あとは「デュラハン」だが、首なし騎士の姿をした「妖精」なんだ。だから、アンデッドではないけれど、かなり強力な存在だ。単体で普通は出て来るし、謎々めいたことを問いかけてきたりする。連合王国でみられるんだが、呼び出したのかもしれねぇ』
曰く、ワイトなら死霊術師、デュラハンなら精霊術師の可能性もあるだろうという。だが、既にその場所に術師はおらず退去している可能性も高い。
『ワイト』とは、古い物語にも登場する邪悪な存在であり、ワイトは自身がワイトと化す者を捕まえるとも言われる。本質は悪霊のとりついたゾンビであるが、その脅威度は段違いだろう。
その声で人を眠らせ、その視線は人を動けなくするとも言う。
「……アンデッド故に冒険者で魔力持ちを抽出したわけね」
『その程度のことは理解しているんだろう。冒険者で魔術師を入れたパーティーが生き残って討伐失敗の報告が上がったんだろうな』
聖職者のいないパーティーでは勝ち目がなく、魔術師でも牽制程度にしか恐らくはならない。
『聖女様の力が必要だって事だろうな』
「……私は『聖女』ではないわ……」
『残念ながら、お前は既に、いろんな人から信仰され始めている。それに、シスターとして認識もされてるだろ? 実際に修道女みたいな生活してるじゃねぇか』
生活自体は……全くその通りなので、身綺麗であるとは自分自身思う。『魔剣』曰く、彼女と伯姪そして……彼女の姉にも魔力に『聖』なる力が及び始めているという。
『このまま続けていくと、間違いなく『聖人』になるなお前。信仰心ってのは神様に向けていく前に、その近くになる身近な存在に集まるわけだ。見えない神様より、見える恩人に向かう。それがお前だ』
リリアルで孤児を救い、様々な場所で魔物を討伐し貴族を諫め、アンデッドとなった者を浄化(という名の焼却)をした。その辺りで、魔力に『聖』なる力を帯び始めているのだという。
『リリアルの魔術師娘たちはみんな『聖女』となる資格があるからな。孤児ってのは『親がいない』わけだろ? 神の子に近いわけじゃねぇの』
聖母は……という話になるわけだが、孤児は母親までいないわけだから神様に近いと言えば近い存在なのかもしれない。それならそれで構わないが。「あの子たちは普通に幸せになれればいいのよ」
『騎士爵持ちの魔術師が普通の幸せってのは……結構難しいぞ』
「いいのよ、リリアルの関係者だったら理解もあるし、身内で合う人がいればそれでいいじゃない」
騎士爵は一代貴族なので表向き爵位は継承されない。普通は、騎士を目指し、騎士に叙せられれば継いだようになるものだ。騎士の年金もそれなりに貰えるであろうし、無駄遣いしなければ第二の人生を始めるくらいの資金は貯められる。それを持参金にして嫁入りも悪くない。魔術師であるのだから、それなりに需要はあるのだ。
『お前だけだよ、大変なのは』
「……修道女になるしかないわね……」
『意外と悪くねぇ。食事の回数が少ないのは気になるけどな』
冬は一食になる……それは勘弁してほしい気もする。
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