第208話-2 彼女は公爵令嬢の依頼を受ける
さて、金曜日の最終講義が終わると、彼女と伯姪はリリアルに戻る為、迎えの馬車待ちをすることになる。
「さて、明日はギルドで登録でしょ?」
「それは、私と学院生で済ませるわ。あなたは、学院の方をお願いしたいのだけれど、良いかしら」
「そうね。二人で冒険者ギルドと武具屋に行くのもなんだしね。カトリナたちは王都の屋敷に戻るのかな」
「ええ、現地集合して日曜日は家族と過ごす為に残るそうよ」
公爵家も娘が騎士学校にずっといるという状況を可とはしないだろう。社交もあるだろうし、公爵家の仕事もそれなりにあると思われる。
「お迎えに伺いました先生」
歩人ではなく二輪馬車の御者は茶目栗毛であった。昨日の駄目だしが効いたのか「代わってくれ」と言われたらしい。
「さて、ではお願いしようかしら」
「お腹減ってるから急ぎましょう!」
二輪馬車は騎士学校から見える範囲では通常の速度で走っていたが、視界から消えるや否や急速に加速する。
明日の同行者は侍従のトレーニングも受けている茶目栗毛を指名することにしている。既に、簡単に明日の予定に関しては告げているのだ。
「同じ従者でも、セバスはねぇ」
「不敬罪で処刑されかねないもの。あなたも明日、どのような活動を彼がしていたかよく見極めてちょうだい」
「最優先かもね。まあ、今までも討伐で学院を空けている事はあったけれど、魔術師見習の子達も同行だったから、今みたいなのは初めてだしね。あいつの事だから、生徒に仕事振って自分はお使いだけでプラプラしてそうじゃない?」
全然信用されていない中身おじさんの歩人であった。
夕食をリリアルメンバーと久しぶりに共にする。メニューは何時ものスープにパンと肉のソテーにサラダといった簡単なものである。
「騎士学校のボリューム飯はやっぱりないわねー」
「半分でちょうどいいくらいなのだけれど……」
「何それ、食べてみたいあたし☆」
赤毛娘、よく食べる子は興味津々である。二期生の男子も加わり、使用人の中にも男性が増えつつあるので、メニューを少し変える必要があるのかもしれないと思いつつ、騎士学校のレシピを手に入れようかと考えた。
「それを考えると、別棟生活は当然かもしれないわ」
「食堂であれは無理かもしれないわね」
カトリナ姫が食堂に並ぶとか……無理でしょう。因みにランチは軽食を持ち込ませて食堂の専用席で使用人たちが給仕をします。
「騎士学校とか、行ってみたいよね~♡」
「騎士爵の子達は年齢が達すれば行くことになるわよ」
赤毛娘は大喜びであるし、青目蒼髪もマッチョな兄貴と知り合えるということでテンションが上がる。黒目黒髪は……赤毛娘に振り回されることが確定なのでげんなりしている。
「女性は少ないし、貴族扱いなので二人一部屋でお風呂もトイレもついているからプライバシー的には問題ないと思うわ」
「そうそう。応接セットも備わってるから、結構夜は充実してるんじゃない?」
「……部屋でお茶会ができる……お洒落……」
「なら、行ってもいいかもね?」
赤目銀髪と赤目蒼髪は四人部屋から二人部屋になるので歓迎の模様である。将来的には、騎士爵持ちは別棟にテラスハウジングのような建築物を敷地の外に建てる事も考えて良いかもしれない。
「ルーンの新市街を参考にして、将来的には学生以外もリリアルに住める場所を設けたいわね」
「騎士様は高給取りだから、御家賃ガッポリ頂いて高級メゾネットにでも住んで貰いましょうかね」
戸建風の集合住宅で、石造もしくは煉瓦造であれば、防護施設としても活用できるかもしれない。将来的には家族で住むことも考えると、小さな庭などもあると良いかもしれない。
「夢は広がるわね!!」
「私たちのではないけれどね……」
王都の再開発で構築される予定の『ロワイヤル広場』は広場を囲むようにテラスハウジングが立ち並ぶ事になっており、新しい名所となる予定だ。
「でも、その広場、何に使うの。王室の広場って名前じゃない」
「噂だと、王太子殿下の御成婚のお披露目の為の広場らしいです」
使用人見習の一人がそう告げる。彼女のいた孤児院は再開発でその広場を設ける為に移転となったという事だ。
「墓地の跡地利用に、新しい広場を作って新築のモダンな住宅を建てると。益々、王都は住みやすくなるから悪い事ではないわね」
「ええ。万が一の時の兵士溜まりや、火災の時の避難場所にもなるわね」
「……まあ、そうなんだけどね……」
都市計画一家の子女としては、どうしても実務的に考えてしまうのである。
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さて、翌日、茶目栗毛と彼女は兎馬車に乗り、久しぶりの普通の冒険者衣装で冒険者ギルドを目指す事になる。少し早めに移動をし、馬車を預けたり、事前にギルドの中に変化がないかどうか確認をする予定である。
受付に彼女が一緒に立つと目立ってしまうので、受付の付添は茶目栗毛に頼むことにしている。
「公爵令嬢と子爵令嬢。登録名はどうされますか」
「そうね、打ち合わせしていないのだったけれど、登録前に簡単に話しておきましょうか」
本名そのものであると、公爵令嬢と周りに気が付かれないとも限らない。いや、あのオーラは必ず気が付かれるだろう。何らかの偽装も必要な気がする。冒険者は悪役令嬢風か、男装麗人風かどちらで押すのだろう。前者であれば、早々に否定しておこうと彼女は決意していた。
冒険者ギルドの食堂兼酒場に座り待ち合わせの時間まで暇をつぶす。依頼内容にも特に大きな変化はなく、素材採取をして、狼とゴブリンを狩れば薄黄まで半年程度で何とかなりそうである。出来れば、オークかオーガでも倒しておくとなお良いのだが。王都近郊ではなく、ロマンデかレンヌに近い場所まで移動しないと王都近郊では難しいかもしれない。
冒険者ギルドの入口付近が騒がしくなる。どうやら、四頭立ての豪華な箱馬車から、二人の令嬢が降り立ったという事である。
「失敗したわね」
「……公爵令嬢ですから……」
入口のドアの両サイドを数人の従者が堅めた状態で、中央を男装の麗人とメイド服の侍女が一直線にこちらに向かい歩いてくる。
「おはようアリー! 今日は良い冒険者日和だな!!」
いや、注目に注目を重ねないでもらいたいと思いつつ、今だ気配隠蔽が身に付かないカトリナであると認識するのであった。
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