第186話-1 彼女はデビュタントの前に実家に戻る
聖都の吸血鬼討伐で消耗したポーションや装備の補充に学院生は掛かり切りである。彼女も報告書を作成し、吸血鬼に関して知り得た情報を騎士団経由で報告することにそれなりに時間を取られている。
「ねえ、時間よそろそろ」
「ええ、今行くわ」
デビュタント用のドレスの最終調整にクチュリエが学院に到着する時間に気が付くとなっていた。彼女の私室は学院長室と同じ三階にあり、伯姪とは同室になっている。実際は、伯姪は赤毛娘たちと同じ部屋住みでドレスなどの貴族令嬢用品を置くためのクローゼット扱いではあるが。
仕上がったドレスは彼女の好みからすると少女趣味風であり、あまり個人的には好きではないのだが、スポンサーである王妃様の希望に沿わないわけにはいかず、清楚で可愛らしいドレスとなっている。
「いかがでしょうか。これで苦しいところはございませんでしょうか?」
サイズ的には問題がなく、若干胸が苦しい……ということはない。全然ない。
「私はもう少し胸周りに余裕が欲しいわね」
「成長期でしょうか。採寸したときより幾分サイズアップされているかもしれません。少し出しましょう」
伯姪は胸が苦しいらしい。何故だろうと彼女は世の不公平を嘆くのである。
彼女のドレスは白を基調に銀と黄色を刺し色としたパフスリーブのフルレングスのドレス。白い手袋にリリアルブルーの髪飾りでまとめている。胸元にはサファイアブルーの飾りが配されている。
「無難かしらね」
「あなたらしいと思うわ。私はたぶんその色をきると地味にしか見えないけれど、あなたが着ると、白雪姫っぽいイメージよ」
「少女趣味っぽいという事かしら」
「いいえ、王女様ポイってこと」
褒めてるのよ! と伯姪は付け加える。
伯姪は白と明るめのオレンジを基調として、黄色のリボンをドンとウエストに配した胸がある人用のデザインである。リボンがあってその上の胸がスッキリしているとお子様仕様になってしまう。
彼女はアップだが、伯姪は左右でまとめている髪型のアレンジである。
「まあ、頭が大きく見えないようにするのも大変よね」
彼女はクール系、伯姪はパッション系なので髪型もドレスの配色も対照的である。多分、声を掛けられやすいのは伯姪の方であり、可愛らしい雰囲気が強い。彼女は……高嶺の花というか『聖女』っぽいのである。
「でも、さっさと終わらせてしまいたいわね」
「そちらは、騎士団長さんがエスコートして下さるのでしょう」
「そうそう。馬車はニース商会が手配するのか王都の辺境伯邸の物を使うのか分からないけれど、迎えには来てくれるみたい」
彼女の中でそういえば……と思う事がある。
「王太子殿下のエスコートなのよね私……」
「王妃様かご本人に確認してみなさいよ。まあ、しにくいけど」
他にあてがない場合、父親である子爵にエスコートを頼むことにするのだろうか。それはそれで晴れがましい気持ちになるのだが。
「父ともしばらく話していないから、ゆっくりこの機会に話すのもいいかもしれないわね」
「そうね。いつでも会えると思うと会わないものよね。久しぶりのニースで家族とゆっくりあってなんとなく思い出したわ。まさか、王都……の傍でこんなに長く生活するとは思わなかったし、騎士になる夢が王都で叶うとは夢にも思わない事だものね……あなたに比べればささやかな変化だけれど」
「……やめて。冗談でも『聖女様』とか言わないで」
「勿論言わないわよ、聖女様」
ニヤニヤとからかう伯姪だが、背後のお針子の女性たちから「やっぱり」とか『聖女様のドレスをお仕立てできるなんて……』みたいな声が聞こえてくるので本気で勘弁してもらいたいのだ。
しばらく確認をすると、「一両日中にはお納め出来ると思います」と言い、クチュリエ一行は学院を去って行った。
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