第183話-2 彼女は森の中の石の砦に吸血鬼を叩きのめす


 中庭のグールは姉と『猫』が倒したグールを歩人が首を刎ね、それを弓で赤目銀髪が援護するという中で、ほぼ終了している。


「さて、親玉ちゃんはどこですか~」

「ビビッてねぇでさっさと出てこいやぁぁぁ!!」


 姉の後ろで歩人がイキっている……


『お前ら、生きて帰れると思うな』


 礼拝堂の扉が開き、中からオーガと見間違うような大男が現れる。でも、今昼間だよねと誰もが思うのであるが……


『今までお前たちが相手をしてきた吸血鬼は所詮隷属種。吸血鬼の中でも最弱……』


 その主はお前なんだろ?と思いつつ姉が反撃する。


「ああ、女取られて怒ってるんだ。ダメでしょ! 自分だけ助かろうとか思って隠れてるのは感心しないぞ!! もう、君の存在にお姉さんがっかりだよ」

「「「「あー がっかりー」」」」


 リリアル女子たちが声を揃える。煽って逃げ出さないようにしているのだ。


『ばばば、バッカ言ってんじゃねえ!! 俺は逃げも隠れも「してたよね」「うん、礼拝堂に隠れてたじゃん」「嘘つき発見」「嘘つきは吸血鬼の始まり」「吸血鬼が一匹いたら、百匹いると思え?」……ふ、ふ、ふ、ふざけるな!!!』

「ふざけているのはあんたたち、帝国の馬鹿どもでしょ?」


 伯姪も参加。グールの斬りおとされた頭を傭兵隊長らしき吸血鬼に叩きつけ「あんたの部下になにした?」と怒鳴りつける。


『おお、その事か。吾輩の吸血鬼道の供にするべく、吸血鬼化しようとしたのだが何故か皆グール化したのだよ』

「……騙されて隷属種になってるとか」

「やっぱ、男に噛まれるとかキモいじゃないですか。見た目オーガだし」

「吸血鬼って血を吸うオーガでしょ? オーガ頭悪いし、見たままじゃん」

『わ、吾輩は馬鹿ではない!!!!』


 いや、吸血鬼化失敗するとか、図星を言われてキレるとか馬鹿に違いありません。





 このまま生かして捕縛するには、やはり、手足を切り落とすしかないが、従属種の能力は未知数。オーガ並みなら……


「結界を展開して抑え込むから、手足を切り落としてもらおうかしら」

「「「はい!(おー!)」」」


 魔力に自信のある蒼髪ペアと姉が参加。彼女が傭兵隊長の周りに結界を展開する。


『ほお、中々優秀な魔術師がいるみたいだな。ホレ!!』


 結界が音を立てて崩れ落ちる。三角形三面の結界の一面を拳で叩き割る事に成功したようだ。


『フハハハハハ!!! どうした、こんなものか王国の精兵は!!!』


 勝ち誇る姿に若干イラっとした彼女は、四面の結界を発動させ、その一面を徐々に押し付けていく。


『なんだ、同じことを形を変えても……』


 ゴン ゴン  ゴン  ゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!


『な、何で砕けん!』

「魔力の量を調節したの。隷属種の凡そ五倍も結界強度を上げれば問題ないみたい。これなら数体同時に対応できそうね。お仲間の騎士さんはどうしたのかしら。見捨てられたの?」


 あえて煽る様に言ってみたのだが、傭兵隊長からは何も返ってこない。もしかすると、その辺りの情報を口にできないように操作されているのかもしれない。


「そろそろ、斬り落としてちょうだい姉さん」


 結界越しに魔力を纏った仮想の刃で両手両足を同時に三人で切り落とす。姉は笑顔で両手に魔銀斧を持って結界ごと叩き切った。


「うん、結界ごと斬れたね……」

「すごい姐さん……」

「まだまだだぞ妹ちゃん!!」

「姉さん……魔力のゴリ押しは相変わらずの暴力ね……」

『Gwaaaaaaa!!!!』


 大声を上げる吸血鬼なのだが、痛みはほぼないはずなのである。怒号なのだろう。


「静かになさい、臭い口を塞ぐわよ」


 彼女は自らの魔装布のスカーフをほどくと、従属種の傭兵隊長の口にねじ込み、ついでに魔力を流し込む。傭兵隊長はエビ反りになり痙攣している。ころがったまま雷にでも打たれたようにである。


「ついでに、話を聞くのに目は不要ね。魅了の危険もゼロではないから……」


 魔銀製のサクスで両目を抉り出し、魔力もちょろっと流し込んでおく」


『!!!!!!』

「男の子は我慢するものってお母さまに言われなかったかしら?」


 膝の後ろを蹴り飛ばし、跪かせる。


「先生、このスカーフをどうぞ」

「ありがとう。ちょっと手伝ってもらえるかしら」


魔装手袋に魔力を流しつつ吸血鬼を俯せに転がしスカーフで縛り上げた。 チョッピり腕が残っていて良かったと彼女は思った。


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