第170話-2 彼女は副元帥に任命される


「まあ、素敵だったわー 手に手を取って、王国の平和のためにー」

「本当に、あの場で手を取りあえば完璧でしたのにー残念ですわー」


 はい、王妃様と王女様です。折角だからという事で、リリアルの新人騎士と彼女が王妃様のサロンにお呼ばれしております。


「最初で最後じゃなかったかもね」

「……とても深く沈むソファ……凄い……」


 侍女・女騎士教育をびっちり受けた二人は問題ないのだが、やはり無理な者は無理なのである。とはいえ、寛いだ雰囲気なので問題ないよね、と思う事にした。


「元帥杖、あ、副元帥杖だったわね。どう? あなたの雰囲気にあう様にデザインを考えたのだけれど?」

「とてもありがたく思っております王妃様」

「ふふ、ハートの形のヘッドも良かったんだけれど、陛下がそれはって言われてね。小ぶりで飾り多めというところで妥協させられたのよ~」

「わたくしは、王家の色合いの青と黄色のリボンを付けようと提案したのですが、お兄様に駄目だと言われてしまいました。ですが……ここに用意がありますわ!」


 これは、リボンを結べという事だと理解した彼女は、恭しくリボンを受け取り、蝶結びで副元帥杖にリボンを付けた。


「やはり……似合っておりますわ……」

「とってもー でも、式典でつけていたら多分、処分を受けるからここだけにしてもらいましょうねー」


 当たり前だと思いつつも、リボン自体はとても素敵な物であったので、彼女なりに身に着けさせていただく事にしようと思うのである。


「皆さん、素敵な騎士姿ですわ!」

「これで、あなたも騎士服を仕立てられるわね~」

「「「「えっ」」」」


 王女殿下がリリアルの騎士服を着るというのは、彼ら彼女らは初耳であったのである。


「わたくし、リリアルの名誉学院生ですの。皆さまと同じ騎士の制服を着て共にありたいのですわ!!」


 気持ちは大変ありがたいので、制服ぐらい喜んで……と言いたいのだが、どうなのだろう。


「すごく素敵だと思います殿下」

「……いいと思う……是非……」

「歓迎いたしますわ殿下」


 女の子五人が揃って笑顔になるのは……なかなかの眼福である。数が合わない

……なんてことはありません。


「今度は、あの馬車でリリアルまでドライブしましょうね」

「完成が待ち遠しいですわ!」


 魔装二輪馬車のことである。兎馬車の乗り心地に関して、リリアルの騎士

達から話を聞いて、とても王女様はご機嫌となる。何しろ、王都の中であれば

さほど馬車も揺れないが、郊外になれば路面は荒れているところもあり、レンヌ

の帰り道は大変だったと思い出話に花が咲き始める。


「あの時は大変でしたわ」

「それでも、王家の馬車はだいぶ乗り心地は良くなってるのよー」


 王妃様のコメントに固まる王女殿下。実際、普通の馬車であればばね等

ついていないので、地面の凹凸に合わせて激しく揺れるのである。外から

見えない以上のメリットはないと言えるだろうか。歩くよりは疲れないが、楽

と言えるほど乗り心地が良くない。


 魔装馬車であれば、長い時間移動しても疲れにくくなるだろうし、王妃様王女様

の足を延ばす場所も王都の外へと広がる……護衛をする近衛は仕事が増えるだ

ろうが……それは関知しないし、したくない。


「そういえば、元帥さんがあとで呼びに来るみたいよー」


 何気ない一言、王太子殿下から何か話があるという事のようだ。すると、侍女

から王太子の訪問を告げる声が聞こえた。


「副元帥、今後の二人の関係について、話し合わねばならないね」

「……承知いたしました……」


 なんだか王女殿下、勘違いしてらっしゃいませんか! 王妃様のニヤニヤは

確信犯ですね。彼女はひとまずリリアル学院生を下がらせ、門近くの待合所にて

待機させるように手配すると、王太子に伴われ、執務室へと移動することに

なった。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「お疲れのところ済まないね副元帥」

「……いえ、それでご用件とはどのような内容でしょうか」

「元帥になると元帥府というものは作れる。自分が指揮を執るもう一つの

王宮だね。主に軍事面だけどね」


 王太子殿下曰く、元帥府に招く人材をどのように考えるか意見が欲しいと

言うのである。


「私自身、経験も余りない未熟者ですので、宰相閣下や騎士団長様のような

経験豊かな方の意見を聞く方がよろしいのではないでしょうか」

「いや、それはいつでもできる事だろ? 君の意見を聞きたいのさ」


 彼女は考えて、一つの提案をすることにした。


「退役した軍人の方達で実戦経験のある方達を相談役としておそばに置かれる

のはいかがでしょうか」

「……どういう意味かな?」


 彼女はサボア領の騎士団再編の為、先のニース辺境伯が一肌脱ぐことになる

きっかけの話をすることにした。治めている領内の緊急事態に即応できる

騎士がおらず、公爵自身も決断も判断も出来なかったことをである。


「なるほど。つまり、戦争から遠ざかっているからこそ、実際の戦場で苦労した

先人から学べと」

「はい。恐らく、召集の在り方、訓練の優先順位、徴兵された兵士の心のケア

の方法、行軍時の注意、野営のノウハウ、食料の調達や現地での住民の

協力者の作り方など、細部の知識が不足しているはずです」


 王太子は深くうなずく。


「実際、冒険者としてまた、教育者として活動している君の視点は得難いもの

だね。大変参考になったよ。それと、他にも人材の活用方法に気がついたら

教えてもらえると助かる」


 本気で自身が取り組むつもりであるという事を理解した彼女は、今一つ、

彼女なりの意見を加える。


「帝国の傭兵隊長経験者で引退した者を軍事顧問として招聘するのはどうでしょう」

「……それは……何故だ」


 彼女曰く、直接戦力を投入して争う可能性がある大国は帝国と考える事。

大陸での戦争の大半は帝国出身の傭兵隊長が関わっていること。そして何より……


「彼らの商売敵のことは良く知っているはずです。それに、傭兵は契約を守り

ますから、お金を支払っている間は安心して元帥閣下の為に知恵を貸すでしょう」


 王太子は再び深くうなずいたのである。

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