第169話-2 彼女は聖都の潜入調査の依頼を受ける
とはいえ、実体のない霊体のアンデッドも理解しておく必要があるだろう。むしろ、有名なのはこっちなのである。幽霊のいる屋敷みたいなものは王都でもそれなりに存在する。大体、理不尽な貴族に殺された使用人や出入り商人の霊なのだが。
『実体を失っている時点で、アンデッドとしてはあまり強くない』
個人の人格を残している『ゴースト』は魂そのものの霊体。場合によっては意思の疎通もでき、よほどの事でない限り長くその場にとどまることはできない。そのまま天の国に行くことになる。
『死体の周りに残っていることもあるから、話を聞いたりすることもできるな』
「どうやって?」
『聖職者にお願いするのが簡単かもな。能力騙る僧侶もいるからその辺見極めも必要だな』
降霊術なるもので、死んだ人間と会話できると騙り詐取する犯罪者もいる。教会にも……ゲフンゲフンである。
『だがな、「レイス」ってのは生霊、つまり生身の人間から霊体だけが離れている状態だ。実体のある生きた人間から放たれた霊体だから力が大きい。それに、霊体だけ飛び出すほどの魔力を有している。とても危険な術者だと言える』
そういえば、彼女が子供のころ夜中に姉が屋敷をうろついていたことを思い出し『すわレイスか!』と思ったのだが……
『あいつは夜中に盗み食いしていただけだ。魔力を使って足音たたないように若干浮遊してだな……魔力の無駄遣いしやがって』
流石我姉、子供の頃から全くブレない。
『ファントム』は幻と言う意味であり、『ゴースト』がその場に居座ったまま存在が希薄化している者を示す。その場所に固執する理由があったのだが、人格が希薄化しているため既にその理由も覚えていないので、会話や交渉も出来ない代わりに、『ゴースト』より力は弱く存在だけがあるといえるだろうか。
ただし、精神衰弱中の者に憑依し操ることもあるので注意が必要だ。
『問題なのは、その霊の周りに同じような恨みを持つ霊が集まり集合体になった場合……だな』
これを『スペクター』という。言葉そのものは『恐怖心』という程度の意味だが、霊体のみとなった深い恨みを持つ存在が周りの同じ感情を持つ霊を吸収し純化した意志の塊とでも言えばいいだろうか……とても危険だ。
『あいつら、まず純粋な意志の塊だから会話も一方通行になる。会話じゃねぇな、集まった核の人格の持つ強固な意志だけを押し付けてくる。そんで、核となる奴は大概大きな魔力を持っていて死んだ奴が多い。だから、霊を集める事も出来るし、生きている奴の魂・魔力を奪う事も出来る』
ファントムと似ているようだが、遥かに恐ろしいアンデッドが『スペクター』である。物理的な壁はすり抜けるし、魔力を纏わない武器でのダメージも与えることはできない。
『魔銀製の武器なら普通に倒せる。但し、壁抜け上等だから注意が必要だ。まあ、魔力持ちだから「走査」で見つけるのは簡単だがな』
突然現れたとしても、魔装衣であれば弾いてしまうのでリリアル生には問題ない事だろう。
『ウィル・オ・ウィスプ』という墓地に現れるいわゆる『人魂』も存在する。纏わりついて人を道に迷わせたり、昏倒させることもあるが、悪意あるゴーストといった程度の存在だろうか。
『ジャック・オ・ランタン』と称される魔物も同様の亜種だ。
とはいえ、今回のターゲットは「吸血鬼」とそれに類する実体のある魔物。
『多分、下位の吸血鬼なら、あれだろうブラッド・サッカーだろ?』
「その、『ブラッド・サッカー』って吸血鬼と何が違うのかしら?」
『魔剣』曰く、血を啜るものという意味から転じて吸血鬼なのだと言うが、確かヒルの類もそう呼ばれているのではなかったかと彼女は思い出す。
『吸血鬼の中でも奴らは最弱。変身することも霧となることもできず、太陽の光に魔銀の武器、十字架や聖水だって大の苦手だ。とは言え、吸血することで仲間を増やすことは可能で、まあ、いうなれば吸血鬼界では最底辺。見習冒険者や落ちぶれた傭兵崩れの山賊みたいなもんだな』
「それでも、普通の民にとってはとても危険ね」
『力は強いし、気が付かなければ不意打ちで襲われてお仲間にされちまう。何より、増やすのが簡単で使い捨ての魔物だな』
「……そんなものを王国に放す輩がいると言いたいわけね」
『まあな。流石に騎士団が常駐する王都やその近郊、公爵家の所領ではちょっと無理だが、帝国領との境界辺りの自由都市の近郊の村なんかじゃ、定期的にブラッド・サッカーの発生があるんだ』
交易ルートから外れた寒村では、村が丸ごと吸血鬼となっていても、その事に気が付くのは……税の徴収に役人が来るまでそのまま放置ということはよくあるのだそうだ。
『ブラッド・サッカーは知性はほぼないからな。吸血衝動だけで生きているから……生きてる分けねぇな、活動しているから魔獣のような扱いで檻にでも入れて暗幕かけて移動させて、夜にこっそり村の傍で解き放つなんてこともしているんだろうぜ』
騎士や兵士である必要はなく、老人でも活性化して戦力となるので侮れないのだという。
「まあ、魔力垂れ流しているような奴には触れられないから問題ないけどな。リリアルのガキンチョどもなんかは近づけないくらいだろうな」
『魔力と言うのは聖なるものなのかしらね』
と言うよりは、お前の加護のせいだと『魔剣』はいいたいのだが、黙っている事にした。
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