第168話-1 彼女はリリアルの騎士制服を着て再び王宮を訪れる

 仮縫いから本縫いまではそれほど時間がかからずに済んでいる。本日は騎士服を着用した彼女が王宮に呼ばれている。理由は……


「……騎士学校に入校……ですか」

「そうなのー あなたも男爵家の当主として正式な騎士の教育を受けておいた方が将来的には良いと思うのー」


 話があるというので王妃様に呼び出され聞くところによると、彼女と伯姪に揃って『騎士学校』への半年間の入学を奨める話であった。


「リリアルも落ち着いたでしょうし、今の子たちの教育は確認とアドバイス程度で新人さんが来るまではちょっと余裕があるでしょ?」


 魔術師二期生は半年後の入学であるので、確かにその通りなのだ。薬師過程は一期生と卒院したリリアルOBの薬師が施療院に常駐しているので、指導をさせることは難しくない。適切な時期ではある。


「この後、間が空くと幼年学校卒の子たちと年齢が離れて関係が築きにくくなるかもしれないからねー」


 幼年学校を卒業した15歳から最低半年部隊勤務を行ったのち、再度騎士学校に入校し卒業後晴れて正式な騎士としてスタートするのが貴族出身の騎士の在り方なのだそうである。


 騎士学校半年の教育期間というのは、年の前半が一般の従騎士からの昇格組・所謂平民の教育、後半が幼年学校卒のものの半年部隊勤務を行った後の就学コースとなっているので、それぞれ奇数・偶数期卒で出身が分かる仕組みなのだという。身分をそれとなく判別できるところが貴族らしい。


「平民の皆さんと同じ方が……」

「駄目よ。あなたが将来、貴族として生きていくのに必要な知己をえる機会なのですから。騎士団の同年代に知己を持たないのは、リリアルにとって良くないわ。力を見せて、信頼関係を築いてほしいのよ」


 貴族の社交で情報交換や取引による信頼は得られるだろうが、『同じ釜の飯を食う関係』というものは築けない。


 ところが、この身分差の弊害をかんがみて、彼女たちの参加する「期」からは、貴族と平民を半数ずつ入れることになるのだという。本当に、止めていただきたい自分の「期」で実験するのは。


「平民コースには学院の騎士に育成する子を通わせるとして、あなたが教育内容を理解していないのはハンディにもなるでしょう。先ずは、二人が経験すべき内容なのよ」


 平民は騎士団入団後、騎士見習い・従騎士という下働きを経て二十歳以降の入校が多い。茶目栗毛あたりは優秀なのだが、年齢的には数年後が相応しいだろう。赤毛娘は十年後くらいか。


「承知いたしました。平日は騎士学校、週末はリリアルで執務という形で務めたいと思います」

「えー お休みして同窓生と交流とか必要じゃないかしら? あなたのお祖母様や執事に任せても大丈夫よー」

「……では、隔週で行おうかと思います」

「そうねー みんなもあなたの顔を見たいでしょうし、それならいいわー」


 騎士学校は実は王都から南に下った場所にあり、馬車で約一日、リリアルからなら半日の距離なのだ。馬ならその半分といったところだろうか。通うのは難しいが、週末仕事をするには問題ないだろう。


 そして伯姪は婿探しにノリノリになるのだろうが、騎士になる貴族は上位貴族の次男以下か下位貴族が多いので、その辺り問題がないのかどうかは疑問であったりする。





「それにしても、その制服、とてもいいわね。どうも近衛の赤い制服とか騎士団の地味な紺色の制服はやぼったいじゃない?」

「お母様、わたくしもリリアルの制服を着てみたいですわ~」


 王女様……あなたは護衛対象なので、護衛の服を着てはいけません。


「あらー それは素敵じゃない~ 私たちも揃いで作ってもらえるかしら~」


 確か以前、揃いのローブを送った気がするのだが、騎士の制服って必要なのだろうかと彼女は思うのである。


「あら、わたしたちもリリアル学院の一員ですわ」

「ええ、あなたは名誉学院生ね~」


 いや、リリアルの制服は騎士服とは違うでしょうと思うのだが、理屈ではないのだろうと確信する。とはいえ……


「軍服の仕立屋ですので、お二人に会わせる場所が難しいです。王宮には入ることができないかと」

「あらー 大丈夫よー 陛下も、息子ちゃんもちゃんと騎士の服はあるもの。色合わせをして、王宮の制服職人さんにお願いすれば同じようにしてくれるのではないかしらー」


 なるほど、その方が向こうも手間がかからずに済むことだろうし、領分を犯して王宮の仕立て職人の反感を買うのもばかげた話である。


「では、仕立屋に手紙を書きますので、王宮の仕立て職人と仕様の摺合せをして頂くように手配いただければと思います」


 王宮の仕立職人当てに連絡を入れ、制服の打ち合わせをする時間と場所を決めさせればいいだろう。


「ですが、リリアルの制服もかなり急がせて仕立てておりますので、叙勲式の後での手配でよろしいでしょうか」

「もちろんですわ!」


 王女様は元気よく、王妃様はニッコリと笑顔で同意してくれた。



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