第165話-2 彼女は『伯爵様』と狼人の再会に立ち会う
お土産の彼女の魔力入りポーションを渡すと、早速、ワインで割って飲み始める伯爵。
『座って座って……あ、アドルフは床にね』
「ありがとうございます」
『……』
狼人はいわゆるお座り中である。
『最初の頃と比べると、魔力の濃度が上がったというか、サラサラさっぱりから濃厚な感じに変わってきたね。魔力の熟成のおかげかな?』
ポーションの飲み比べをしたことはないので何とも言えないが、効果は恐らく格段に上昇している。故に、彼女の作成するポーションはギルドに卸すことが出来なくなっている。効果が高すぎて品質的にNGなのだ。
「伯爵のお耳に入っているかもしれませんが、最近、帝国との境目がきな臭くなっているという事ですが、なにか御存知でしょうか」
噂に聞いた聖都での吸血鬼騒動、恐らくこの先彼女にも関わってくることになるだろう。帝国の事なら、伯爵の耳にも入っているかもしれない。
『商会の代理辺りからの報告では、あれだね、聖都に吸血鬼が現れているとか、国境沿いにスケルトンの兵士が出没しているとか……そんな感じかな。おかげで日が落ちてからの活動が停滞しているみたいだね。物も動かしにくくなっているし、治安も悪化している……と聞いてるよ』
物が動かなくなれば相対的に貧しくなる都市の下層民がいる。治安悪化はそのせいかもしれない。
『今のところ、帝国も国内での勢力争いがあるから、王国に攻め入るつもりはないみたいだけど、今後は不明だね』
「……といいますと……」
『帝国内の原神子教徒と連合王国が組んで、ネデル領を侵食しているんだよ。土地ではなく経済的な繋がりで帝国から切り離そうとしている。そこに対して軍事行動に皇帝が出る可能性があるね。主戦力は内海経由で神国軍を呼ぶみたいだけどね』
帝国内の勢力争いに、自分の本領である神国軍を投入するという事か。しかし、何故王国にちょっかいを出すのだろうか。
『干渉されたくないから、予防措置で王国と帝国の領境で魔物を使った事件を起こし、侵攻しにくくするということじゃないかな』
「なるほど。ドラゴン騒動を含めて一連の動きは帝国の使嗾の可能性が高いかもしれませんね」
『アドルフが無事に帝国領を通過できたのもその一連の工作かも知れないしね。ドラゴンが南都を破壊すれば、国内事情的に外征することは不可能になるだろうから、それは十分あり得るね』
法国の教皇の指示というよりは、元々王国南部に存在する親神国系の貴族とビジョンの宗教関係者の協力で『タラスクス』は南都に向けて放たれたのかもしれない。偶然にしては事件が連続しすぎている。
『偶然 調査に向かって、狼人もドラゴンも討伐成功して被害を出さないとか……かなり王国はリリアルの存在があって幸運だね。それこそ、神のお導きだね』
さらに魔狼・魔熊も投入し王国南部を麻痺させる可能性もあったわけで、南都に王都の騎士団が移動すれば、その間王国北部は戦力的に手薄になり、帝国はネデルやランドルで活動しやすくなるとうことなのだろう。
『あーあ、聖都周辺のアンデッド騒動に君が出かけていくとすると、帝国の工作員達はまた災難だね。とはいえ、放置する方がこちらは災難だし、美味しいものが王都に集まらなくなるのは困るから、できるだけ情報は提供することにするよ。まあ、美味しくなったポーションのお礼だね』
「協力感謝いたします」
彼女は伯爵様にお礼を言う、そのついででなんだけど、と伯爵は言葉を加える。
『リリアルでその子、預かってくれないかな。戦士としては悪くないし、子供たちの剣の稽古に丁度いいかなと思うんだ。なにより、屋敷が犬の毛で汚れるのは嫌だからね。折角の絨毯が犬の抜け毛だらけとか、女の子たちから苦情が殺到しかねないから。お願いだね☆』
『……わ、我主様……しょ、承知いたしました! 盟友関係になるリリアル男爵の騎士たちを、不肖! 戦士長アドルファ 一人前の戦士に鍛え上げて御覧にいれます!』
『まあ、たまには人間の姿で男爵のポーション持ってくればいいよ。その時は昼食くらい出してあげるからさ。いいかな、男爵?』
伯爵の提案は……悪くないのである。薄赤戦士を講師として招くとしても、総合的な冒険者の教官であり、戦士としては既に一線級ではない存在である。膝をこれ以上悪くすれば生活にも支障が出る。
対して狼人の戦士長は不老にして不死。寿命で死ぬことはなく、回復力も相当のもの……トロル並みである。剣や槍の稽古相手、指導者として優秀であるだろうし、彼女が不在の際、学院の守備を委ねる事も出来るだろう。もしかすると、吶喊する可能性もあるが、魔装鎧にバルディッシュでも装備させれば、騎士百人分くらいの活躍をするかもしれない。
「ではその提案お受けいたしますわ。アドルフ、これからは私の事を学院長と呼びなさい。あなたは、リリアル学院警備隊長兼、剣術講師に任じます」
『おお、感謝いたします学院長殿。我は命の限り学院を守ることをここに誓いますぞ!』
子犬形態から成人形態に移行し狼人は主と彼女の前で力強く宣言するのだが……
『アドルフ、全裸で意気込んでも恥ずかしいのではないか。特に、男爵はうら若き乙女だから。そういう行動は慎みなさい。私の街歩き用の衣装をあげるから、ちょっと待っててね』
全裸のWILD系おっさんが彼女の横で握りこぶしを突き上げているのを一切視線を正面から移さず、彼女は無視する事にしたのである。
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