第129話-2 彼女は南都に仲間と旅立つ
カンパニアは王都ほど大きな街でもなく、また城壁で囲まれていることもない。王都が王宮と貴族の為の街であり、その商会の主な仕事が貴族の需要にこたえる為であることを考えると、カンパニアは商都とでもいうべき場所なのだろう。
「王都を経由してルーンまでここから船で下れるのよね」
「帝国から運び込まれた物資やシャンパーワインもここから船で王都に運ばれるのよ」
王国周辺は河川を利用した水運に恵まれているので、川を下ったり遡ったりしつつ時には運河を掘削し船で物を運ぶことが多い。おかげで、その昔、海から遡ってくるロマン人の軍勢に内陸でも被害を出している。
カンパニアも二度、王都が襲われたときと同じ時期に焼かれて廃墟となった時期がある。もっとも、二度目の襲撃はカンパニア司教が指揮を執り撃退することができたのだが。
翌日の出立を考えディジョンに近い南側の馬車が預けられる場所に宿定める。姉は既に別行動で街に入り次第「ちょっと出かけてくるから、冒険者ギルドに伝言残してね!」と去って行った。
初めての街で自由行動も悪くないかと思い、それぞれ自由行動を許可することにした。彼女は伯姪と冒険者ギルドに向かうことにする。冒険者ギルドもまた宿の近く南側にあったので、それほど移動に時間はかからなかった。
王都よりこじんまりはしているものの、依頼はそれなりに多いようであり、依頼票の掲示してある板を二人で確認しようと移動する。王都のギルドには二人を見知っているものも多く、近寄る者もそれほどいないのだが、ここは初めての場所であり、身なりの良い美少女二人が冒険者のように帯剣し入ってくるなり依頼を確認し始めたので、少々注目されている。
「……やはり多いわね護衛依頼」
「帝国まで移動したり、あとはこの先、やっぱり山賊出ているみたいね相変わらず」
彼女たちが向かう先、ブルグントの領都へと至る街道にも小規模ではあるが山賊がいるようなのだ。
「討伐はしない?」
「誰が依頼するのかという問題はあるわね。恐らく、護衛が付くような商人は見逃し、規模の小さな商人や旅人を襲っているのではないかしら」
つまり、被害が出ても訴える者がいないからそのまま放置されているということなのだろうか。王都の騎士団もこの先は王領と公爵領・伯爵領の狭間なので山野に分け入り討伐することもできないし、そもそも、騎士団が出張るような規模でもないのだ。
「衛兵は街を守るだけだし、行き来する弱い人たちが被害者ってわけね」
山賊ももしかすると周辺の食い詰めた元農民かもしれないが、人を襲う決断をした時点で王国の民ではないと彼女は考えた。
「行きがけに仕留めてしまいましょうか」
「……また?」
心外だと思うが、確かに出かけた先で依頼と関係ないことを手がけている自負はある。
「小規模な山賊なら、いい練習相手になるじゃない」
「それもどうかと思うけどね」
二人は笑っていると、冒険者らしきおじさんが声を掛けてきた。この時間、既に新たに討伐依頼を受ける者もおらず、冒険者は恐らく二人を「護衛の依頼をしようかどうか迷っている貴族の子女」もしくは、「同じ方向に護衛を依頼している商人に同行を求めようと情報収集している」と考えたのだろう。
「お嬢ちゃんたちがどこまで行くつもりなんだ。良ければ護衛の依頼を承るぞ」
と言う。二人は、そうではなく護衛の依頼の出ている方向と山賊の討伐依頼がないかどうか見に来たのだと話す。
「まさか、二人で山賊討伐の依頼を受ける気じゃないよな」
「依頼自体は出ていないので受けることはできません。注意の情報がディジョンの道程にあったので、それを確認しただけですよ」
なら護衛をと話をするのだが……ギルド受付も忙しいようで特になにもしてくれそうにもないので、伯姪が冒険者プレートを見せる。
「これでもそこそこ王都では有名な冒険者なの」
「『薄赤』って、その年ですげぇな。そうか、悪いことしたな。もし、必要なら声を掛けてくれるとありがたい。力になる」
「ええ、ありがとう」
『薄青』のプレートを彼女が見せると……色々面倒なことになりかねないので、こういう場合は伯姪の対応となる。
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受付嬢の中で何人かは二人をチラチラと見ていたのだが、自分たちの仕事が忙しく、誰も声を掛けてくる事は無かった。自意識過剰かと思ったが、なにか面倒な依頼を頼まれかねないと察し、二人は外に出た。
「そういえば……『あー 何だ二人とも待っててくれたんだー☆』……違うわよ」
ギルドに伝言を残すことを忘れて出てきた彼女が戻ろうかと考えていたところ、用事を済ませた姉が現れたのである。
「用事はもう済んだのでしょうか」
「うん、大体ね。ほら、ニース商会って法国と王国の間の通商が主な仕事だから、法国と直接取引のある帝国と王国経由でやり取りする必要ないじゃない。だから、支店を設置するかどうか現地調査を依頼していたんだよ。その確認を終えたわけ」
カンパニアは王国北部の商業的十字路を形成している場所であり、王国の中央部と北部、南部と帝国西部を結ぶ場所にある。姉の言うところでは、連絡所程度で十分だというのだ。
「人は置くけど、王都の店の出先機関かな。ここでやるべきことは王都でも出来るし、その逆はないからね」
「そういえば、最近、錬金術の応用でワインから作るお酒があるそうですね」
「あーそれね。まあ、リリアルに絡んでもらうかもしれないから、ちょっと食事でもしながら話そうか」
夕食は各自が好きにとっていいとしてあるので、多くは宿で夕食を取るかもしれないが、三人はシャンパー料理の店とやらに足を向けるのである。
街の酒場兼食堂とは少々異なる食事と会話を楽しむためのレストランで三人は食事を楽しむことにした。名物は『アンドゥイエット』という腸詰料理だというので、それを食べることにした。
「時期的にはやはり冬のものかしらね」
「でも、このハーブの代わりに薬草を入れて、猪の腸を使えば……なんか体によさそうな料理ができるんじゃない?」
常に学院の事を考えてしまうのが二人であり、横で姉がそんな二人に苦笑する。
「シャンパーのワインを安く買えるとする。それは、味はいまいちなんだけど、アルコールとしては問題ないんだ。それを船で王都に運んでリリアルに持ち込む。そこで、錬金術で使う蒸留器を使ってワインを精製すると……」
「とても濃いお酒ができるわね。その安物のワインが、特別なお酒になるという事でいいのかしら」
「あー それって エリクサーに似ているわね」
「……エリクサー?」
「今回の調査依頼を受けている修道院跡で元々作られていたもの。蒸留したアルコールに薬草などの成分を加えたものと言われている万能回復薬のことです」
姉は「お酒飲んで回復とか……まんま酒飲みの戯言だけど、どう思う?」
と彼女に聞いてくるので、修道院の調査する際に資料が見つかれば良いのだけれどと答えることにする。
『あれ、簡単にゃできないぞ。作れなくもないけどな』
『魔剣』の呟きに、何かまた面倒なことが起こるのではないかと不安になるのである。
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