第111話-2 彼女は廃墟の村と不穏な噂を耳にする
いくつかの村を回り、ゴブリンの出現状況を調査してその日一日は終わって行った。村々では『冒険者としてゴブリンや狼がいれば討伐する』と告げると、大変喜ばれると同時に、様々な情報を得ることができた。
一つは、ここ一年ほどの間冒険者ギルドに討伐依頼を出しても、中々受けてもらえなかったり、受けたとしても冒険者が村に来ることが減ってしまったという事。
一つは、村には近づかないものの、ローレ川沿いを覆面を付けた正体のわからない武装した騎兵が頻繁に移動していることを見かける事。特に、夜に鎧の音、馬のいななきや蹄の音が聞こえるという。
一つは、いくつかの村で若い女性が失踪している。駆け落ちというわけでもなく、都会にあこがれてというわけでもなく畑仕事に向かったり、ルーンの街に行った帰りに行方不明になっているという。
また、いくつかの小さな村が廃村になっているのだという。いつの間にかに。何かが起こっていることは確実で、誰が何を行っているのかも薄々見当はつく。
代官であるルーンの貴族の家令や執事が村を訪れた際に、同じ話をするのだが、『調べる』とだけ言われ、その後何の音さたの無いこともお約束だ。同じ王国であるはずなのに、何かおかしなことがこの一年少々の間に起こっている。
彼女は王都の人攫い村を潰した結果、ルーン周辺で無理やり帳尻を合わせた結果なのではないかと考えている。王都の数十分の一の人口しかいない城塞都市のルーンで人を攫うのは無理がある。それに、人攫いに協力する商人の追及もあるので、今までのように協力を表だってすることはできない。
それ故、直接的に連合王国の兵士が野盗の振りをし、ルーン近郊の村をターゲットにして活動することになったのではないかと考えるのだ。
「人がいなくなって、ゴブリン村になっているとか……ありえないわよね」
「まあ、油断しているから簡単討伐ですけどね」
村々で聞いたように、小さな集落が無人化し、ゴブリンの小集団が住みついている場合もあり、既に、二つの無人集落でゴブリン討伐を行っている。
ゴブリンは村の家屋や倉庫の中に潜んでいて、周囲に人の気配が近づくと襲いかかってきたり、家の中で待ち構えていたりした。討伐した後、家の中を一通り確認すると、ゴブリンどもに多少荒らされているが生活用品は手つかずであり、引き払って移住したようには思われなかった。
ゴブリンの存在は『猫』の偵察に、『結界』を応用した索敵法で魔力を有している存在を察知しているため、特に危険はなかった。勿論、屋内に侵入する際には前面に結界を展開し、ゴブリンの不意打ちを防いでいることは言うまでもない。
ただし、狼などの魔力を有さない獣に関しては判らないため、気配隠蔽しつつ、村の中を確認して回ったのは言うまでもない。
「食料と馬に馬車の類はまるでないね」
「連れ去る際に利用したのかしらね」
生活用具はそのままで、人と移動手段だけがなくなっているという事はそういう事なのだろう。
「新しく村を築くなら、ある程度の規模で自衛できる形にしなければならないわね」
「大昔のロマン人襲撃時代の村ってことよね」
現実問題としてロマン人という移動する略奪民族は建国し、海の向こうで好き勝手王国にちょっかいを出しているのだから、何も変わっていないと言ってもいいだろう。
問題が発生したのは三つ目の無人の村を調査したときの事である。前の二つと同じように住民と移動手段がなくなっており、同じことが行われた可能性があった。
異なっていたのは、ゴブリンも狼もおらず別のものが存在したことだろうか。最初、屋内に入った時見かけた老人は、初めての生き残りかと思われた。
「大丈夫ですか。生きてますか」
『大丈夫ですか、生きているなら答えなさい』
その老人からは魔力が感じられている。魔術師か魔力保有者の一般人かは判らないが普通の人間ではない。
話しかけても反応がなく、死んで間もない遺体なのかと考え始めていた時、不意に老人の体が立ち上がった。こちらを向いた老人の顔を見て彼女たちは絶句した。
「ねえ、あの顔色の悪さと目の感じ……」
「わからないわ。眼病を患って白濁しているだけかもしれないじゃない」
顔色は土気色、そして目は白濁。正直、生者のように感じることはできない容姿をしている。再び、声を掛け反応を探るが帰ってきた返答は……
『Gwoooo……Gwo!!』
明らかに人間の声とは思えない咆哮。一旦、全員屋外に退避し様子を確認することにした。今までとは異なる存在を簡単に討伐するだけで終わらせることはできないと感じていたからだ。
『同じような魔力の反応が何箇所か確認できています主』
『死んでるのか生きてるのかはっきりしねぇな。まるで、伯爵たちみたいだぞ』
『魔剣』の告げる『伯爵』とは、レヴナントもとい、エルダーリッチである帝国貴族の『伯爵』のことを意味している。とはいえ、彼女の知る王都のそれらとはかなりの違いを感じる。
「先ずは、向き合ってみましょうか。気乗りはしないけれどね」
伯姪と彼女は再び建物の中に入り、茶目栗毛と青目蒼髪は背後を警戒するのである。
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