第108話-2 彼女と騎士隊長はベルモントで再会する

 騎士隊長は捕縛した連合王国兵を尋問するため、一旦王都に戻ることになった。その間に、騎士団の小隊長と盗賊と接敵した場所、拠点などを案内し、学院生はポーション・薬作りに専念した。


 行商の期間が終了し、商人と彼らはルーンの街に戻ることになった。


「ポーションと傷薬ありがとね。これ、お昼にみんなで食べな」


 女将が別れ際にお弁当を持たせてくれた。彼女たちは礼を言うと、「またおいで」と笑顔で手を振り挨拶をされた。


「では参りましょうか」


 商人は声を掛け、荷馬車には赤目蒼髪と赤目銀髪が乗り、彼女と青目蒼髪は馬で移動することになる。帰りも周辺の調査にも馬がある方が便利であるので、王都に戻るまでは鹵獲した馬をそのまま使用することにしたのである。


 商人はホクホク顔で「今頃ルーンの街では色んなクラーケン料理が並んでいるでしょうね」と、ルーンの街の様子を想像し伝えてくる。馬に乗り前を見つつ、イカ味のタコをどんな料理にするのか少々考えてしまうのだ。


『肉に味があんまりないから、タレつけて串焼きか、干物も悪くねえな』

「大味で水っぽい肉なのではないかしら。イカですものね」


 馬でポクポクと馬車と並び歩を進める彼女たちなのである。





 予想外に売れてしまったため、他の行商先に立ち寄ることなく、その日の夕方にはルーンに到着することになった。馬を預け、伯姪たちが宿泊する宿へと向かう。通りには『焼きたてクラーケンあります』とか、『クラーケン焼き二本で銅貨10枚』と絵が描かれている。


「商魂たくましいわね」

「久しぶりだって聞いてますから、ちょっとしたお祭り騒ぎですね」


 青目蒼髪が声を掛けてくる。二人で並んでいると「お似合い」と言われなくもないナイスなガイに成長しつつある少年だ。茶目栗毛が線の細い印象を受ける優し気な少年であるのに対し、青目蒼髪はクールでやや怜悧な印象を与える少年だ。体つきも筋肉質なのは、鍛えているからでもある。


 茶目栗毛は様々な仕事に擬態する必要性から、筋肉を必要以上に付けないようにしている面もある。恐らく、一期生でパーティーを組むなら盾役になるのは彼だろう。


「そろそろ宿ですけど……あ、なんか前でやってますね」


 宿でも屋台を出しているようで、道行く人に串焼きを勧め、中で食事でもさせようというのだろうか。


「ねえねえ、もう一本買わない?」

「何本買わせる気なんだ。うー じゃあもう一本」

「まりどありー」


 どう見ても赤毛娘です、本当にありがとございます。横で伯姪も一緒に売り子をしている。何やってんの!!


「あ、お帰り~」

「……随分楽しそうじゃない」

「おかげさまでね。討伐、上手くいったみたいね」


 ニコニコと笑顔でテンションが高い返事が聞こえてくる。一旦、チーム・アリーはチェックインをして落ち着くことにする。夕食時には伯姪たちが呼びに来て、久しぶりに全員で食事をとることになっているのだ。





「……なにか申し訳ないわね」

「私たちの労働に対する報酬ですもの、遠慮する方が失礼よ」

「それに、私たち討伐に対する報酬みたいなものですから、どんどん食べましょう!!」


 赤毛娘、君は参加してないよねと思うのである。


 宿が出してくれた夕食は……クラーケンの満漢全席とでも言えばいいのだろうか……何から何までクラーケン尽くしであった。スープからサラダから、イネから採れる『ライ』を使った粥のような『リゾト』なる料理も出てきたのだが……


「全部同じ味ね」

「まあ、クラーケン自体の味がほとんどないからね」

「飽きるわー ほんとに飽きるわー」


 クラーケン、大して美味しいわけではない。馬鹿でかいイカタコというだけであって、珍しさ、ご祝儀的な買われ方に過ぎないということが良く理解できた。


「そういえば、クラーケン討伐の前に、山賊を退治したのだけれど」

「また……まあ、治安がいいわけではないから当然なのかもね」

「それが、連合王国の偽装兵だったの。それで、王都の騎士団に連絡したところ、護衛隊長さんが派遣されて来たのよ。今回の件で、ルーンにも騎士団の駐屯地を建設することになるようね」


 伯姪に、掻い摘んで騎士隊長であるところの元護衛隊長と話した件について説明する。


「なるほどね。まあ、ちょっと王都とは空気が違うわよね。なにか、他人事めいているというのかな」


 伯姪の指摘はもっともだ。人が攫われたりゴブリンが討伐されていなかったり、冒険者が失踪したり連合王国の陰がチラチラしていたとしても、基本的には我関せずの雰囲気なのだ。


「気分はいまだに連合王国人ってところなのかもね。ここの上の方はさ」

「連合王国と繋がっても意味ないのに……詳細がないのかしらね」

「そういえば、連合王国と帝国領の北ランドルとの結びつきが強くなっている関係で、ルーンの取引量は右肩下がりなんだそうよ」


 それはそうであろう。それまでは、同じ国の中ということで、大陸と連合王国の両方で商売ができたものが、別の国になり、尚且つ取引先としては優先されるのは帝国領の同じ原神子教徒の多い北ランドルの商人となっているのだから。


「王国の中で商売する気がないのかしらね」

「中継貿易で稼げる時代じゃないのにね。ニースはまだ法国ってトレンドの先進地域と接しているから、王国・王都と商売になるけれど、原神子教徒の連合王国じゃあね……」

「帝国内の商人に勝てないというわけね」


 勝てないから、人攫いをはじめ外患誘致としか思われない後ろ暗いことも手掛けるという事なのであろうか。であれば、商売人としては先はないのではないかと彼女は思うのである。


 王国・王都の表玄関として王都の経済力が高まればルーンの経済力にも影響があるのだろうが、王国と強く結びつく意思がないことがこの場合問題なのだろう。連合王国は戻ってくることは考えにくいのだから、王国の一部として共に繁栄していく意思が必要なのだろう。


「それで、騎士団はどうするつもりなのかしらね」

「それは、少し私に考えがあるの。その前に、常時受付の害獣討伐をしながら、ルーン周辺の地理を把握しようかと思うのだけれど、どうかしら?」


 伯姪は何となく理解できたようで、さっそく明日から行動に移ろうと提案する。


「ニースにはお爺様の城塞があるわよね。つまり、そういう事なのでしょ?」

「ふふ、そうね。何も、この街の中に王都の騎士団が常駐する必要はないのだから、そういう考え方もありなのよね」


 ルーンを守りつつ、その内部を監視する場所というものを外部に建設するというのは、悪くない考えなのではないかと彼女は考えるのである。


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