第061話-1 彼女は歩人の冒険者登録する
「随分と珍しい供を連れているじゃないか。名前をお言い」
「はっ、歩人のビト=セバスと申します。お嬢様に山賊の砦から救助していただき、騎士の誓いを立てたものでございます」
あれから1週間、学院の仕事にも慣れ、一応、人様の前に出してもおかしくない程度に教育できたとして、本日は王都で所用を済ませにやってきた彼女である。
「お婆様、この者は私の男爵家の執事として育てようと思っております。歩人の里長の息子として人間社会で経験を積むために王国に参りましたものですので、それなりに教育を授けるつもりでございます」
「そう、それは殊勝な心がけね。私のできる範囲であれば、この者の教育を行うのも吝かではありません」
この一言をいただく為に、今日はここにやってきたのである。
「ありがたいことでございます。それで、実はリリアル学院のことでご相談がございます」
「貴方の爵位を賜った際の領地になると聞いています」
「はい。ゆくゆくは学院を中心とした街として、王都の開発の一助となる領地にしたいと考えております」
「……素晴らしいわ、王家の心に叶う行いでしょう。我が子爵家の使命である王都の育成に一族として加わるという事ですね」
お婆様は「王家」「子爵家」大事な方であるので、この辺りの言い回しがとても大切なのだ。
「わかりました。子爵家の分家筋として男爵家を切り盛りする執事にふさわしい教育を私が責任をもって授けましょう」
「私も、心の荷が下りた心地でございますわ」
「子爵も何か考えていたようですが、なにぶん小さな家、難しいようでした。自ら才ある者を見出してきたのであれば、育てればよいこと。その時は、周りの大人を頼ればよいでしょう」
「ご厚情、痛み入ります」
とても他人行儀なのだが、貴族の当主としてはこんなもんなのだ。彼女は既に子爵令嬢ではなく、騎士爵として世間では扱わねばならないのだから。
「こちらも受け入れの準備が必要です。整い次第、学院に連絡をいれます」
「はい。こちらで準備すべきものを後日、ご連絡くださいませ」
という事で、歩人の死刑執行命令書にめでたくサインがなされたのである。
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さて、お婆様の家にしばらく住み込んで執事としての立ち回りに関し直接教育を受けることになる歩人。
「あの、あのでございます、お嬢様」
「何かしらセバス」
「かなり、厳しい方なのでございましょうか?」
「そうね。かなり厳しいわ。あなたの心がへし折れるまで、駄目出しされるわ。でも、安心しなさい。明けない夜も、止まない雨もないから……ね?」
可愛らしく小首をかしげるのだが、そうじゃねえと歩人は思うのである。
「次はどちらに」
「もちろん、冒険者ギルドよ」
祖母の住むアパルトマンは山の手、ギルドは下町にあるのでそれなりに歩くのである。美少女と美少年(中身は中年)の二人が並び歩くのは、とても視線を集める。
今まで小汚い野宿を繰り返した歩人……おまけに毛むくじゃらの脚をもつ姿の時は嫌そうな視線しか感じなかったのだが……
「お、おい」
「……何かしら……」
「お嬢様……なんだか見られたり、キャアキャア言われてるんだが」
「……あなた、馬子にも衣裳という言葉御存知かしら」
彼は『仕立て屋が人物を作る』という言葉を知っていた。人は見た目が九割ともいう。
「見た目が良くなったんで、反応が変わったという事だ……でしょうか」
「そうよ。おばあ様が問題ないとお墨付きをいただける所作や行動ができれば、更に変わるわ。あなたの印象が、歩人全体のイメージを変えるの。現状では、ゴブリンと変わらないもの」
「……え?」
「だから、ゴブリンも歩人も同じようなものだと思われているわよ。接触した場合、戦闘になる事が多いでしょ」
「あー 確かに。脅かして追い出すからな。まあ、殺したりしないけどな」
「それでも、死の危険を感じていれば同じ事よ。誤解を解かなければだめよ。その為には、王侯貴族と接してもおかしくない所作・言動が必要。ゴブリンに貴族の執事が務まるわけがないのだから、そこで王国における歩人の印象が大きく変わる」
「その印象を変えた俺は『歩人界の英雄……かしらね』……悪くねえ。いや最高だぜ!」
そもそも、ゴブリン扱いの方を問題視するべきなのだが、人と接点のない彼らには必要性がないのだろう。
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