第八幕『従僕セバス』

第059話-1 彼女は歩人の育成を始める

「……以上の罪状を持って、斬首刑と処す!!」

「「「Woooo!!」」」


 あれから1週間ほどたち、首領への尋問も速やかに行われた結果、依頼人の名前すら本人からは確認が取れず、書類関係からヌーベ公の関係者が仲介して依頼したようであるが、取引した商人の名前程度しか判明しなかったのである。



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 さて、ブルグント公爵領内で発生した事件に関しては、基本的に領主が裁判権を有しているので問題ないのだ。つまり、ブルグント公爵領内において、全ての判断は公爵次第でどうとでもなってしまう。王国内であってもだ。


 今回の事件、様々な帳簿が揃っているものの、名前は基本暗号化されており、それが誰なのかは一切……なんとなくしかわからないのである。とはいえ、契約書の類は「仮名」とはいかないため、いつ・何人・幾らで引き渡したかに関しての証拠は残っている。


 その金はどこに消えたのかに関しては不明であり、取引は首領と商人の契約でしかない。首領とヌーベ公の傭兵契約は確認できたが、その仕事は国境警備に相当する内容でしかないため、山賊のたぐいの仕事に関しては首領独断による犯行としか断定できないのである。


『公爵も馬鹿じゃねえ。言葉で承認したとしても、証言であって証拠ではない。まして、山賊の首領の証言と、公爵の証言では重みが違う』

「最低でも、貴族の証言でなければね」

『難しいでしょう。子飼いの家臣の中で貴族のものに証言をさせる……などというのは。一蓮托生でございますからな』


 公爵の家臣に伯爵以下のものがそれなりにいるが、重要な仕事を任されているというのは、完全に共犯者でしかないのである。


 商人も恐らくは、今まで取引のあったものは斬られるだろう。そもそも、奴隷契約といっても、永遠に奴隷にできる事は無く、借金を負わされて数年の有期契約。それも、様々な待遇を守らねばならないのが本来の扱いなのだ。


 それが、敵国の捕虜扱いであったり、犯罪奴隷であれば話が異なる。故に、王国の外に連れ出すことが有効になるし、奴隷商人も、容認してキックバックを受け取るものも利益が大きいのである。


『サラセン人と戦争している頃は、あいつらの奴隷もいたから、割と、異教徒の奴隷は安くてこき使えるみたいな感じだったけど、今は無理だもんな』


 魔術師として寿命を迎える頃、魔剣はそういう状況だったのだという。ロマン人の一党からすると、王国の民も異教徒扱いなのだろうから、その辺り、躊躇がないのかもしれない。


「はっきり敵とわからない分、厄介ね」

『ですな。協力者も王国内にそれなりにいるでしょうから。ブルグント以外の被害が出ていない近隣領主は協力している可能性もございますね』


 王都に戻り、商業ギルドでギルドに加盟している小規模な商人の失踪事件など、確認する必要があるかもしれない。


「……で、俺も冒険者登録しなきゃなんだよな……」

『歩人、我が主に対して無礼だぞ。改めよ!』


 油断すると、三十過ぎのガキオヤジが生意気な言い回しをし始める。騎士の誓いに背くわけではないので、放置する。どの道、後で彼女の祖母のしつけ教室で矯正されるのである。



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