第043話-1 彼女は孤児院に住み込む
『主、大荷物でございますな』
『自分で作れねえもんは買うしかねえもんな』
彼女は今、伯姪を連れ王都で『リリアル学院』で使用する薬研などの調合機材を購入中なのである。
『乳鉢は人数分いるもんな……』
「それ以外にも色々必要よ」
錬金術用に大鍋や蒸留器なども必要だ。これは人数分は必要ないのでそれほどでもないが、大きいしお高い。秤はかなり高価だ。とはいえ、魔法袋のおかげで運ぶのはだいぶ楽ではある。
最初に行うのは薬師の勉強と、魔力の練成になる。最初のメンバーは全員魔力がある程度ある者を選抜したので、彼女と同じルートで教育を行うことにした。
『まあ、俺がサポートしてやるから、問題ねえよ』
魔力持ちである伯姪だが、量が少ないので魔剣の声が聞こえないのはここだけの話である。機会があれば、魔剣の存在についても説明する必要があるかもしれないが、今のところはそのままにしておく。
『主、しばらくはあの別邸に住み込むのでございますね』
「おじい様たちが来るタイミングで、一回王都に戻らなきゃだわ」
「もちろんそのつもりよ」
そのタイミングと女僧の騎士学校の卒業もあるので、例の依頼は伯姪と薄赤パーティーを誘い受けたいと考えている……ヌーベへの潜入だ。
「ヌーベの人攫い討伐の依頼……一緒に来てもらえるかしら?」
「あなた一人で行かせるわけないじゃない。勿論行くわよ」
「そう……ありがとう……」
「どういたしまして。それに……今度は何が出るのか楽しみじゃない」
ヌーベ領は情報封鎖されているに等しい場所。まともに中に入れるか調べてみる必要はある。商人に偽装するか、旅芸人になるか……いずれにしても、ある程度人数がいた方が良いだろう。
「折角だから、私も薬師の勉強しようかな」
「そうしてもらえると助かるわ。それに、騎士としても応急手当の知識として薬草や薬の知識は有用よ。身につけられる方が良いわね」
「そうね。剣を交えるだけが仕事じゃないもんね」
という感じで、伯姪も薬師のまねごとをすることになったのである。
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本来なら大荷物なのであるが、新しい魔法袋の収納力で彼女と伯姪は騎馬で移動することができる。王都からの移動時間が大幅に短縮できるのは良いことである。馬は、警邏の騎士団に王妃様経由で貸し出しの依頼が出されているので問題ないようだ。
「騎士団の駐屯所の件、許可出たみたいね」
「ええ、未来の魔術師の卵の養成所で王妃様王女様の肝いりですもの、考慮していただけたみたいね」
警邏の正規部隊とは別に王都の南門門衛を務める小隊のローテーションに加えられている様である。
「食事もあるし、子供たちもいるしね。犯罪者が近づかなければちょっとした休暇みたいな場所よね」
「ふふ、そう思ってもらえるといいのだけれどね」
王妃様の別邸として与えられたものなので、警備自体はやりやすいはずなのだが、何事も完全という事は無いから心配はそれなりにある。
「自己防衛できるように、子供たちを育てるのが最優先ね」
「難しいわよ。半年くらいは様子を見ながらね。魔力を体感して、それを使いこなすまで多分時間がかかるわ」
王女殿下も伯姪もある程度健康で、それなりに教育を受けた女性だ。一方、孤児たちはまず食事を十分とって新しい環境になれ、将来の事を自分で考えられるところから始まる。
「魔力とか魔術って、その人の意思が発現に左右するの。だから、いままでのように、上の人に従うだけではなかなかね」
「じゃあ、薬師の勉強優先だね」
「そう。一つ一つ、簡単なことから身に着けて、自信を持ってもらうことが大事だと思うの。そうすると、自分の意思が育ってくるから……」
彼女は自分が子爵家でそうであったことを思い出して、そう伝えるのである。薬師の仕事をし、薬を売ったお金を家に納めると、なんだかとても大人になった気がして自信がついたのである。
「みんなで生活していくことにまずは慣れましょう」
『リリアル学院』に到着したときに、彼女は焦りは禁物と自分に言い聞かせるのであった。
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