コンビニにて:第2話
風呂上がりにシャツ一枚じゃ流石に寒かった
つい先日まではあんなに蒸し暑くて寝苦しかったのに
コンビニの前まで来るとちょうど店内から太った中年が出てくるところだった
明るい店内からは自動ドアのガラスの反射で外にいる私が見えていないかもしれない
たった今底を尽いた洗顔を買うだけだからと、化粧どころか下着も着けずに出て来てしまったし
私の統計上、男女問わず太っている人は総じて避けるコトをしない
自動ドアが開いた瞬間に鉢合わせになろうがお構いなしに突進してくるコトだろう
自動ドアの出入口から一歩横に下がって中年が出ていくのを待たない理由はひとつもなかった
自動ドアが開き、私の視界をガラスの扉が横切る
その中年は私を待たせているコトにすら気付いていないようで、ガサゴソと音をたてながらビニール袋の中に手を突っ込み、買ったばかりの何かを探してまさぐっている
つまり、ちんたらと出入口を塞いでいる
私の目の前で一度は止まったガラスの扉が自動的に閉じようとしたがその中年をセンサーで感知して再び開く
動いたり止まったりしている自動ドアのガラスの扉に何かが貼り付いているコトに気付いた
動いていた扉が止まる反動で微かに揺れている
目を凝らして見ると、それは一匹のキリギリスだった
こんな都会にもキリギリスがいるんだ
仲間はいるのだろうか?
冬に向けて恋をして種を残さなければいけない時期なのに
ところでキリギリスはどうやって求愛するのだろう?
やはり秋の虫だけあって夕暮れ時から鳴き声を発して雌の気を引くのだろうか
店内に入り、私は洗顔を求めて化粧品の棚へと向かった
予定外の外泊などで間に合わせの化粧品を必要としてる客の足元を見ているのは分かっている
コンビニの化粧品は安っぽい上にコンパクト等と称して量も少なく割高な設定になっている
ブランドや質に拘りはないので化粧品メーカーの売り場に立ち寄るコトもないし、安物で構わないなら薬局やスーパーの方が安いのも承知だ
ただ、家を出て30秒の距離にある隣のビルのコンビニで購入出来ると云う利便性を差し引くと、私にとってこの洗顔の値段は決して高くはないと思っている
そもそも生物は雄が求愛をして雌を獲得するのが世の常で
着飾った翼を広げて魅せたり雄々しいポーズや時には決闘をして自分の強さを誇示したり
そうだ、キリギリスでさえ鳴き声を発して求愛をするとしたら、それは雄だと思う
なぜ人間だけが、雌の方が化粧をして雄の目を引かなければならないのだろう?
そんなくだらないコトを考えながら私はコンビニの隣の自宅に戻り冷蔵庫を開けた
小皿に一匙のマーマレードを乗せて、その脇にそっとキリギリスを置いてみた
キリギリスは自分で小皿に上がり、マーマレードを舐め始めた
明日はもうちょっとマトモな物を買ってきて食べさせてあげるからね、おやすみ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます