アイスを舐める


 夏も終わるというのに、俺の恋は終わらない。溶け落ちたアイスみたいに地面にへばりついてなかなか取れない。


 四ヶ月前、好きな人に恋人ができた。相手は二つ上の先輩で、文芸部に入ったのをきっかけに仲良くなって付き合ったのだ。俺はその一部始終を隣で眺めることしかできなかった。


 高校生の恋愛なんて三ヶ月もしたら倦怠期が来て別れる、なんて友達が励ましてくれたけど、逆にそんな上手くいくことはなかった。


「そういや、今日で四ヶ月だよな。おめでと」


 部室には俺と真理の二人だけ。オレンジの教室がやけに目に染みて、ヒグラシの鳴き声を忘れる。それなのに、どうして他人の記念日なんて覚えているのだろう、覚えていることを口に出すのだろう。アイスを頭からかぶりたい。


「えっ、覚えてたの? ありがとう」


 特にそれ以外のものはない。言葉も感情も衝動も。


「……今月の部誌に出す作品読んだ?」


 期待はしていないし、したくもない。俺は自分の書きたいものを書いただけで、それ以上の意味はない。


「うん。すごい良かった」


 どこか期待していた気持ちが気体となって教室に溶けていった。アイスでもこんな溶け方はしない。


「あいするだけ見たら可愛げのあるタイトルなのに、中身はすごく激しい内容で。あいするって言うのは、アイスを舐めるの略だよね?」


「よく分かったな。遺った気持ちを舐め取りたい、味わいたいって矛盾した感じ」


「そう……だよね」


 真理は顔を伏せた。流石に『あいする』が俺たちの比喩であることを理解していたようだ。だからといって何かできるはずもない。


 俺は独りよがりで一方的な告白をした。返事も要求せず、相手の考えも受け付けない、ただの自慰行為にも等しい告白をしたのだ。


 窓の反射で微かに映る彼女の困り顔をあいする。

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