クリスマスプレゼント


 またフラれた。クリスマス前なら成功率が高くなると聞いたのだが、僕には関係の無い話であったようだ。陰キャで、学級カーストも底辺、冴えない顔のこの僕には。


 コミュ障というわけではない。むしろ会話は好きな方だし、得意だと思っている。それなのに友達の1人すらいない。他の人が僕を避けるようにしてるのは、僕がアニメ好きだからであると思っている。もしかしたら学力の問題もあるかもしれない。確かに、勉強もスポーツもできない。しかし、性格に関しては良い方だと思っている。まぁ、まともに人と関わることが無い僕の性格なんて誰も知らないだろうけど。


 僕は親の顔を見たことが無かった。生まれてすぐに捨てられたらしく、誰からも愛されたことが無い。だから寂しかったのだ。友達が欲しかった。欲を言えば愛が欲しい。


 クリスマスが近づくたびに辛くなる。周りのカップルを見てはため息をついた。



 クリスマス当日になり、装飾の施された帰路を独りで歩く。クリスマスというのに午前中は学校。本当なら家に篭っていたかったのだが、世界はそう甘くなかった。


 冷たく白い粒が雨のように降り注ぐ。僕の体に張り付いては溶け、体温は下がる一方。周りにはカップルか集団しかいない。出来る限り俯き、何も視界に入れないようにする。


「トモキ」


 後ろから名前を呼ばれた気がした。こんな日に僕に話しかける人なんているはずがない。空耳だろうと無視した。


「ねぇ、トモキ」


 2度目の呼びかけと同時に肩を叩かれる。さすがにこれをスルーするわけにはいかなかった。


 振り返ると、クラスメイトのミカがいる。


「何?」


 期待なんてしてはいけない。だから少しぶっきら棒に反応した。彼女は可愛い。それ故に期待出来なかったのだ。


「急だけど、今日予定空いてる?」


「うん。空いてるけど、バイトの交代はする気ないよ」


「えっと、そうじゃなくて……。一緒にどこか行かない?」


 彼女は今日1人の身なのだろうか。こんな美少女が僕に話しかけること自体、何か裏があるに違いない。


「その……前に告白してくれた時、驚きすぎて付き合うの断ったけど、よく考えたら付き合ってもいいのかなって思って」


 疑いの心は一瞬にして晴れる。さっきまで憎たらしかったカップルが、その辺に落ちているただの小石に見えてきた。


「そうなのか。じゃあ、改めて。ミカのこと好きです。付き合ってくれませんか?」


「はい」


 ニヤニヤが止まらない。今までの劣等感は忘れ、この後のことで頭がいっぱいになった。街中で響くクリスマスソングが楽しそうに踊る。


 俯いていて気がつかなかったが、僕達2人は大きなクリスマスツリーの下にいた。


「私ね、出かける前に渡したいプレゼントがあるんだ」


 そう言ってミカは赤いマフラーをかけ直し、バックをあさる。彼女は約30センチ空いた距離を埋めるように1歩、足を踏み出した。それと同時にバックから鋭く光る包丁が姿を現わす。


「メリークリスマス!」


 取り出された包丁は服を貫き、僕の腹に突き刺さった。ミカは僕に抱きついて囁く。


「あなたが愛情の次に欲しがっていた『死』のプレゼントだよ」


「うぐっ……」


 彼女の言う通り、僕は死にたかった。好きな人に殺されるなんてこの上ない喜びだ。最後に彼女から抱かれ、殺されるという幸せをどう表現していいのか分からない。


 僕は誰かから愛をもらうのは無理だったようだ。サンタさんでも愛をプレゼントすることは出来なかったのだから。


「ありがとうミカ、好きだよ……」


 掠れて消えそうな声は彼女に届いていただろうか。そんなことを思いながら抱き返した。


 勢いよく腹から刃物が引き抜かれ、血が飛び散る。白く綺麗な新雪は真っ赤に染まった。


 意識はどんどん遠くなり、やがて消えた。



***



「なぁ、聞いたか?」


 休み時間になり、ある男子グループの1人が他のメンバーに質問する。


「聞いたよ、あれだろ? トモキが自殺したって話」


「あー、それなら俺も聞いた。確か、クリスマスツリーの下で独り言呟きながらナイフで自分の腹を刺したって。その時ミカの名前を呼んでたらしいよ」


 質問した男子の表情が歪んだ。


「え、マジか……。トモキさ、ミカに何度も告白してはフラれてたんだよ……」

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