春は行く


「もうすぐ着くよ」


 恋人に会うため、雨の中を傘も差さずにいく。


 歩く度にスニーカーから水が溢れる。その不快感が生きている証拠だ。


 雨音にも負けないくらいの音量で警報が鳴る。赤の点滅に反応して遮断桿が降りてきた。


「ずっと一緒にいてくれ」


 彼の言葉が脳裏を過ぎる。これで7回目だ。ラッキーセブンということに違いない。


 灰になった彼へ。石とされた彼へ。私は、私の全てをあなたに捧げます。生きた証は安い石でいいから、野次馬ではなく、彼に包まれて祝ってもらうのだ。


 私は遮断桿の下をくぐり抜け、迫り来る電車の前で立ち止まり、願う。


 どうか、彼に会えますように――

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