クズになりました


 涙が凍りそうなほど寒い夜。時計の針が12時を過ぎた。あの人のことだけを考えながら彼氏と電話する。涙を悟られないよう、気持ちが溢れないよう、馬鹿みたいに笑った。


 あぁ、こんなクズな私なら、あの人は振り向いてくれたのかな。


 今となっては分からない。あの人はもう飛び降りたのだから。それも、あの人が2番目に愛したであろう人と。


 付き合ってはいけない職業ランキング上位にバンドマンがある。それを理解していてもなお、私はあの人を追いかけた。ファンとしてではなく、宗教として。


「それでさ、春休み入ったら旅行にでも行こうよ。高3なったらいろいろ忙しくなるだろうからさ」


「うん。そうだね」


 一方的な会話と適当な相槌。私は彼の顔が好みなだけで、それ以外に興味なんかなくて、彼の優しさは私の存在価値であり存在証明でしかない。比べて、私はあの人の考え方はもちろん、行動理念や善悪の基準、言葉の選択までも知ろうと、あの人に執着していた。


 あの人を好きになったのは高1の終わり頃。生きているのが嫌になり、モンエナ片手に夜道を歩いていると、突然声をかけられた。なぁ、俺を殺してくれ。でなければ、おまえを殺す、と。今でもはっきりと覚えている。


 私は恐怖よりも先に、この世が終わらせたいという気持ちが勝り、私を殺してください、と即答してしまった。


 あの人は汚物を見るような目を私に向け、おまえみたいな優しいやつは嫌いだ、と吐き捨てて去って行った。その時のあの人の目は私の学校生活よりも輝いていた。


 それからというもの、あの人のことを調べに調べ、住所、職業、年齢、趣味、好きな食べ物など。


 それからは毎回あの人のライブを見に行き、終われば挨拶をするため帰りを待ち伏せした。しかし、毎度、私を無視して行ってしまうのだ。それがどうしてなのか考えた。たくさん考えた。両親が門限を守らなかった私を怒っている時もひたすら考えた。


 そうして出た答えは、私が優しいから、だった。クズになれば彼は振り向いてくれるかもしれない。そう思った私は、まず、理不尽に怒ってくる姉を殴った。それから、クラスメイトの女子が好きな人を先に取って、捨てた。次に、あの人の恋人を貶めた。


 次こそは、次こそは……と、思っていた矢先、あの人は他の女と自殺した。


 今日はあの人の命日であり、世界が滅びへと進んだ日。思い出すだけで胸が痛く、彼氏の声なんてどうでもよかった。というか、何もかもが無意味で、どうでもよくなった。


「ごめん、別れよう」


 私は電話を切って、彼氏のLINEとTwitterをブロックし、スマホを閉じた。


 目を覚ましたら、あの人がいる世界になっていますように。


 そう願って睡眠薬を過剰に飲み込んだ。

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