第133話

「ようやくかっ!」

「遅れて申し訳ありませんっ!!」

「いや、現状では致し方ないのは分かっている。支援火器の詳細を頼む」

「はっ!」


頼もしい援軍の登場だ。

当初の話では10名だったはずだが、多少の無理を通したのか15名の兵士が合流。

そして、彼らが持つ武器はさらに強力なものであった。


「グレネードランチャーに固定式機銃、軽機関銃とはなかなか奮発してくれたみたいだな?すでに首都の方へ運びこまれて設置ないしはバラバラにされて弾に変えられているものかと思ったが…」


15名の兵士達が持つ重火器類は後方へ回収されて、ドーラへの対策用に設置兵器ないしは別の兵器の素材に変えられるはずだったものだ。

緊急時故に、既存の兵器を素材にドーラ達に通用するであろう巨大弾薬や巨大武器の原料として回収されているはずの武器類がこんなにもあるとは思わなかった。


「まあ、ドタバタしてましたからね。回収を免れたやつが存在してたってことですよ」


援軍部隊の隊長がそんなことを言った。


「…それだけ兵器類の管理が杜撰だったということか。これは軍法会議ものだぞ。どこのどいつだ。サボッていたやつは」

「まあまあ、今回はその雑な仕事ぶりが功を奏したんですから…」

「……ったく、この手でぶん殴れないのが残念だ。礼を言えないこともな」

「……まぁ…絶対に死ぬとは決まってはいませんし…」

「…すまない。…そう、だな。何はともあれ目の前の化け物を片付けてからの話だ。すぐに配置につけ。弾薬の量はどれくらいだ?」

「半日は戦えますよ」

「……いくらなんでも杜撰が過ぎるな」

「…ははは」


などと隊長同士が話している間に、部隊員が家屋を包囲するように配置についていく。


「とはいえ、弾薬を気にしなくて済むのはありがたい。それだけあるなら外から家屋ごと吹き飛ばす形でも問題なさそうだ」

「中に取り残された隊員はどうしますか?いまだ生きている可能性はありますが…」

「…現状を鑑みるに救出している余裕はない。弾薬や火器が沢山あってもそれを扱う人員数は限られているんだ。狭い家屋内での戦闘はさらなる人的被害をもたらす可能性が高い。弾薬以上に貴重な人員を削られるわけにはいかん。彼らには申し訳ないが……見捨てるのがベストだろう」

「仕方ありません、か」

「ああ。どのみち早いか遅いかの違いだ。先に逝くことになる彼らには、あの世で謝ることにするさ」

「…まあ…そう、ですね。配置に付き終えたみたいです…構えっ!!」


設置した組み立て式機関銃が、グレネードランチャーが、軽機関銃が、号令によって一斉に家屋へと向けられる。


「撃て!!」


発射命令と同時に様々な弾が家屋にぶちあたり、壁が崩れて、屋根が弾け飛び、骨組みとなっていた鉄骨がひしゃげて剥き出しになりながら、家だった物が壊れて、倒壊していく。

と、同時に。


「なっ!?飛び出してきたぞ!!」

「慌てるな!控えのライフル部隊に任せろ!!致命傷は与えられずとも動きを抑制するくらいはできるはずだ!冷静に対処しろ!!」


2体の魔王のホムンクルスが飛び出して、襲い掛かろうとするも、さすがに包囲された状態で四方八方からの銃弾にはなすすべなく。

急所をカバーする骨のような外骨格はすぐに削れ、割れていき、そうでない場所は銃弾によってズタズタになり、その頃には軽機関銃やグレネードランチャーも攻撃に加わることで2体のホムンクルスたちはあっさりと倒れ伏していく。


「止めっ!」


銃弾の雨が止まり、倒れ伏した魔王のホムンクルスの死体が二つ。

ぴくりとも動かない。


「…いけ」

「…了解」


完全に死んだのかを確認するため、数人の兵士がゆっくり近づいていく。


「……っ」


銃を構えながら、いつでも撃てるように、ゆっくりと、じりじりと近づき、近くまで寄る。

恐る恐る足でこづく。

変わらず動かない。

呼吸もしていないように見える。

2体とも確実に仕留めたようだ。

念の為、さらに何度か小突いてみるも、やはり動くことはない。

死んだふりということなく、ホラー映画のように急に動き出すということもない。


「…クリア」

「のようだな。よし、撤収するぞ!もう一体の方へ向かう!!急げ!!」

「了解!!」


そして、彼らは次のホムンクルスの元へ向かう。

しかし、彼らが去ってから10分ほどが経過した時、瓦礫と化した家屋だった物から何かが這い出てきた。


「ぉぽっ」


そしてその何かは放置されたホムンクルスの死体を食べ、自らの両手を頭蓋骨のように顔を覆う外骨格の両眼部分に引っ掛けて、引っ張る。

すると、裂けていくチーズのように体の中心から真っ二つに、かつ分かれた断面から即座に新たな体が生えてくる。


「ぉぽっ」

「おぽっ」


さらに分かれて。


「ぉぽっ」

「おぽっ」

「おっぽ」

「おぽぅっ」


それぞれがさらに分かれる。


「ぉぽっ」

「おぽっ」

「おっぽ」

「おぽぅっ」

「おぽぽ」

「ぉぽっぽっぽ」

「ぉぽぽぽ」

「おぽうぽうっ」


合計8体となった魔王のホムンクルスは奇妙な鳴き声を発しながら街の中心部へと向かっていく。


「ぉぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽっ」


道中で食べられそうなものを見かけたそばから口に入れ、分裂を繰り返しながら。

彼らは足を止めずに突き進む。

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魔王クリエイター 百合之花 @Yurinohana

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