第131話

「緊急の警報が!?」


都市内部にある監視システムが、すぐに忍び寄る何かを認識して警告を発する。

それを見たオペレーターの1人がおもわず驚きの声を上げた。


「今度は何だ!?」

「新手です!

今までに確認されたことのない新種の化け物が街に侵入しました!!」


すぐさま指令室の中央に位置する大きなメインモニターに化け物の姿が映し出された。


「な、なんだこいつは?」

「手や頭が異様に大きく、奇妙な見た目をしている人型の…なんだ?見たことがないな?」

ゴブリンの一種か?」

「なんだと!?どこからだ!?どこからどんな奴が侵入しやがったっ!?」

「どうやら壁をよじのぼり、侵入した模様です!!」

「ちぃっ!すぐに余剰戦力を向かわせろ!!」


彼らの見た化け物とはエルルが新たに作り出した魔王のホムンクルス。その分身体である。

それが3体。

都市内部に侵入していた。

なぜ3体しかいないのかといえば、エネルギー効率化スキルがあれど一度に分裂できるのは2回のみ。

それ以上は何かしらの食べ物を食べてエネルギーを補充しなくてはならない。

エルルが生み出した大元の本体が1回分裂することで、合計2体に。

分裂した個体の体内エネルギーは分裂を1回分使って分裂した本体のそのままの状態、すなわち1回分の分裂ができる。

大元の個体と分身体合わせて、2体のホムンクルスがそれぞれ一回づつ分裂することで4体となり、4体のうち1体だけはエルル達と後方に待機。

ゆえの3体という数である。


一応は忍び寄る形で侵入した3体であるが、厳重な警戒体勢ゆえに監視カメラがしっかり機能し、効果を発揮したためにすぐに3体は発見された。

当然ながら放置されるはずがない。

このタイミングでの侵入となれば黒竜と何かしらの関連があると考えるのが自然。

ガルシア元帥は即座にこの人型の化け物を殺す命令をくだした。

その命令を受けて20人ほどの歩兵が向かうこととなる。


「司令本部に通達。侵入者がいると思われる区画に到着した。これより掃討作戦を開始する」

『了解、健闘を祈る』

「いくぞ!」


監視カメラによれば

一体は家屋内へ。

一体は街の通路を堂々と歩き。

一体は大きな百貨店へと足を踏み入れている。


いったいなにが目的やら通路を歩いている個体はひとまず放置して、彼らから1番近い、家屋内へと侵入した個体の元に向かった。

相手は未知の敵である。

下手に戦力を分けることはせずに、20人の兵士たちは侵入した家屋の周囲を散開、包囲。

そのうちの5人が家屋内へと突入する。

家屋は3階建ての一軒家であり、敷地面積もそこそこ大きい。

出来れば先手を打ちたかった彼らは相手に気づかれぬよう、極力音を立てずに入り込み、一階を探索する。

しかし


「1階には敵影なし」


5人のうち、リーダーがハンドサインでその旨を共有。

何が目的か、幾つかの棚が漁られていたが、侵入者の猿らしき人型はいない。

慎重に2階へと向かう。


家屋の持ち主はすでに避難済みゆえに人の気配はせず、強引にこじ開けられた玄関扉や漁られた棚がなかったら侵入者がいるとは分からなかったほどに気配がしない。

家主が避難する際に窓に雨戸を下ろしたらしく、明るい日中にもかかわらず家の中は真っ暗である。

息を潜めて待ち構えていると考えるのが普通だ。

音を立てないように侵入したがあまり意味は無かったようである。

完全な先手は取れそうにないが、音によってこちらの数や動きは把握されていない。と思いたいところ。


「2階へいく」

「了解」


再度、ハンドサインで2階に行くことを示し、1人の隊員が二階への階段へと向かう。

それに警戒しながら続く隊員たち。

玄関近くは明るくとも、二階への階段は完全に真っ暗だ。

彼らの装備する防護ヘルメットに搭載されている簡易的な暗視装置では光量が足りずに視界の確保が不十分。

思わず舌打ちしたくなるのを抑えて、彼らは階段を登り終えた。

幸い、敵影はいまだ見当たらない。


できれば家屋の外から戦車砲などで家ごと吹き飛ばしたいところであるが、残念ながら戦車は全て黒い竜、もといドーラへの攻撃に使用中。

家屋を吹き飛ばせるレベルの爆発物も、後方の街へ移送済みないしはこれまた、ドーラの足止めとして使用するために前線の部隊に回収されている。

ゆえに携行火器を携えての白兵戦によって、魔王のホムンクルスを倒すしかなかった。


「2階も敵影なし」

「了解」


慎重に探索した結果、2階にも敵は居なかった。

となれば。


自然、5人はさらなる緊張を強いられる。

もはや3階にいることは間違いないからだ。

初めて見る得体の知れない生き物との接敵はもう間近。

銃を構えながら、3階へと向かおうとした瞬間、彼らの背後から轟音が鳴り響いた。

すぐさま振り返り、銃を向ける一同。


3階の床をぶち抜いて現れたのは、魔王のホムンクルス。

ようやく敵を視認した5人はすぐさま引き金を引いた。


「やろーおっくぉろしてやらーっ!!」

「撃ちまくれ!!」

「死に晒せぇえええっ!!」


5人は即座に発砲。

彼らの持つ銃から火が吹き、銃弾の雨がホムンクルスへと向かう。

しかし、それをなんの気にもせず、ホムンクルスは先頭にいた兵士へとその巨大な手を振るう。


「ぐぎぃっ!?」


それを食らった兵士は吹き飛び、家に備え付けられていたであろうクローゼットのドアをぶち破って、派手に突っ込み沈黙する。


「くそっ!巨獣用アサルトライフルだぞ!?まるで通用しないなんてどんな悪夢だ!!」


魔王のホムンクルスの急所は骨のような外骨格によって覆われており、銃の効果はいまひとつ。であれば。


「やむを得ないっ!魔榴弾を使う!伏せろ!!」


1人の兵士が手榴弾の魔法技術使用版である魔榴弾を投げる。

魔榴弾は内部に込めた魔力燃料と火薬燃料が同時に爆発する爆発物の一種である。

爆発による衝撃と、燃料を覆っていた外層の金属が散らばることで範囲攻撃を行う兵装の一つは見事にホムンクルスの足元にて爆発、命中する。

僅かながらにホムンクルスの動きを止めた。

家屋内という狭い場所で爆発物を使えば自分達も巻き込みかねないが、メインウェポンである銃が通用しない現状では致し方ない。

幸い、魔榴弾で傷を負った味方はいなかった。

魔榴弾にて、動きを止めた隙に4人はすぐさま家屋内から脱出を開始する。

追ってくるなら外で待機してる味方と集中砲火で仕留め、そうでないなら態勢を立て直してこちらのタイミングで一気に攻めればいい。


「1人がやられた!生死不明!その上、ライフルの効果が薄い!撤退を開始する!!」

『了解しました。応援は必要ですか?』

「ああ!火力がいる!今持ってるライフルじゃあ、殺せないとまでは言わないが急所らしき部位には弾が通用しない!無駄な犠牲がっ」

「ぎゅあぁっ!?」

「ちっ!また1人やられた!とにかく支援を求む!」

『…支援火器を持たせた兵を10名、あらたに送ります。それでどうにかしてください。これ以上は黒龍との前線に差し障りがあります』

「了解っ!!」


支援火器の内容にもよるが、家屋の外からどうにかこうにか始末する手段を…と考えたところで


「なんだと?!」


目の前で崩れ落ちる天井。

そこには魔王のホムンクルスがいた。

だが、おかしい。

魔王のホムンクルスは背後にいたはず。

今も背後から迫る足音が聞こえる。

では目の前のこいつは…


「くそ!情報部は何してるんだ!!2体いるなんて聞いてねぇぞ!!」


2体目の魔王のホムンクルスが立ち塞がる。


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