第129話

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎


晴天のある日。


てんてこまい。


現在のサドラン帝国の状況はまさにこの言葉が当てはまる。


サドラン帝国は首都で迎え撃つという当初の作戦のとおり、首都にて戦力を結集させようとする。

しかし、当たり前だがすぐにとはいかない。

この世界は地球よりも巨大ゆえに単純に物理的に離れているというのもあるし、人の数が多い分、各所への報告だけでも一苦労である。

民主主義ではない分、上から下への命令という形で一気に話が伝わると言えども、物理的にかかる時間はどうしようもない。

これがもし、日本のような政治体制であればなおのこと手間取っていただろう。

下手をすれば年単位の時間を要したかもしれない。

エルル率いるドーラ達の攻撃が異様に早いのも、時間稼ぎを必要とするファクターの一つになる。


とかく。


とかく、住民の避難や戦力を集めるのにそれなりに時間を稼がなくてはならない。

そのために何度かしっかりとした軍事施設のある戦力の整った都市で、本格的な遅延戦闘を行わなくてはならなくなった。


そこで、サドラン帝国は首都で迎え撃つ前にそれなりに力を入れた戦闘を3度ほど行う作戦を計画。

そして、実施する。

その3度のうちの1つ。


超巨大都市ゴモラン。


都市周辺を包むように巨大な壁が聳え立ち、その壁にはたくさんの銃火器類が取り付けられている。

しかも、この壁は可動式であり、普段は交通の利便性を求めるがゆえに畳んであるそれは今や完全な臨戦態勢、すなわち許可無しにはネズミ1匹通れないように防壁が展開されていた。

そして、超巨大都市ゴモランは防御だけではない。

攻撃には都市内部に点在する高層ビル屋上に設置された大砲がある。

事前にそれを想定した上でビルが建設されているので大砲はその規模の割には非常に簡単に組み立てることが可能。

スピーディーなだけではなく少人数で行えるようになっている。

ゆえに短時間で大量の大砲を準備できるのだ。

しかも、大砲は一つ一つが電子制御可能な代物なため、いくつかの基本的な操作マニュアルを覚えるだけで、新兵であっても熟練の砲兵並みの働きを…否。

事前に観測できていれば飛んできたミサイルだって撃ち落とせる命中精度を誇る。


言うなれば。


都市そのものが疑似的な超巨大戦車と言っても良いかも知れない。

しかも、その戦車には様々な武装が付属している。

古来より巨大兵器技術を特に高めてきたサドラン帝国らしい戦闘形態であった。


さらに超巨大都市ゴモランは都市内部に軍事施設を作ったのではない。人口増加に伴い、軍事施設を基本に、後から一般家屋を追加した形である。

すなわち他の都市に比べて、避難のしやすさは段違いである。

なにせ軍事施設周りに住居があるのだ。

何かしらの戦闘時に民間人が邪魔になって戦えない、なんて間抜けなことにならないように避難専用通路が都市全域に血管のように細かく効率的に張り巡らされており、迅速な避難誘導をする前提の都市設計のお陰で民間人はすでに1人もいない状態である。


準備万端。


とは言い難いが、しかし、いつ来ても充分な戦闘は可能である。

そんな思いを汲み取ったのか。


「ガルシア元帥!敵影を確認しました」

「どっちだ!?」


この3回に分けた遅延戦闘の記念すべき第一回目は全軍において1番偉い階級である元帥の1人。

ガルシア元帥が指揮をとっている。

老齢でありながらも筋骨隆々な彼は声を張り上げて、敵影とやらが人腕ナマコかドーラかの確認を取った。


「黒竜は未だ確認できません!ナマコらしき巨大生物が三体!突っ込んできてます!!」

「黒竜はどこにいる?あれだけの巨体が探査機に引っかからないはずが…いや、まあいい。どのみちやることは変わらない。あの薄気味悪い巨大ナマコを潰せ!いちいち発砲許可なんざいらん!!ひたすら撃ちまくれ!」

「了解!」


エルルは一応、魔王蝶々を使って常に偵察を行なっている。

ゆえに超巨大都市ゴモランの様子を見て、『バッチリ準備の整った場所にドーラを突っ込ませてしまえば下手すると撃沈しかねない』と、再生力の高い人腕ナマコを突撃させることにした。


飛んでくるミサイルすら撃ち落とせる大砲だ。

次から次へと撃ち出される砲弾は土煙を上げて這い寄ってくる人腕ナマコたちを正確に打ち抜き、人腕ナマコの体液をぶち撒ける。

人腕ナマコの体に砲弾がぶつかり、炸裂。

すぐに穴は閉じても失った大量の体液は戻らない。


穴が空いた際に飛び散り、失った体液が彼らの体力を削っていく。


サドラン帝国に攻め入ってから、この都市にたどり着くまでにしっかりと日光を浴びて光合成をして蓄えたエネルギーで失った体液や、スキルでカバー出来ずに吹き飛んだ表皮などを新たに作り出すが、流石にこのまま的にされ続ければ、都市内部に入り込む前に討ち取られかねない。


「よしっ!見るからに進行速度が落ちたぞ!!一気に畳み掛けろ!!残弾なんざ気にするな!撃ち尽くせ!!遅延戦闘なんて言わず、ここで仕留め切るつもりで…」

「ガルシア元帥っ!3時方向から高エネルギー反応検知っ!!ドラゴンブレス来ます!!」

「ちぃっ!総員っ!耐ショック体勢を取れ!!防壁に搭載している障壁へとリソースを切り替えろ!急げっ!!」

「切り替え完了しま…ぐぅっ!!?」


もちろん、そうはさせまいと、エルルは人腕ナマコに対する想定以上の猛攻を見て、人腕ナマコによる死体の収集を断念。

ドーラのドラゴンブレスによって一掃することに決めた。

元々、超巨大都市ゴモランに搭載されている探査機はそこまで性能が高くはない。

超遠距離からのドラゴンブレスを不意打ち気味にくらう直前。


光が弾けた。

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