第126話

「人間もよくやりますねぇ」


聖女アリアの呟き。

全くもって同意である。

魔王エルルちゃん一行、もとい僕たちは快進撃を続けていた。

ただ、その侵攻は当初予定していたものより些か以上に遅れが見られる。


一番の理由は、増やせるなら増やしておきたい魔王という名の戦力確保のためにドーラの攻撃で纏めて消しとばすという行為を控えているからというのがある。

超大都市アイヌゥとか呼ばれていた街を消し飛ばす前に避難民を使って創り出した新規の魔王は結果的に3体創り出せた。

その名も人腕ナマコ。

詳細はこんな感じ。


名前 人腕ナマコ×3

個体名 なし

生物強度 91

スキル 超再生 超光合成 麻酔息 貯蓄嚢 魔王式キャッチ結合組織


3体の人腕ナマコは人間の死体という名の材料を効率よく集めるための魔王として生み出した。

過剰なくらいに攻撃力の高いドーラがいるので、あとは囮役ないしは肉壁役の魔王がいれば良いかなと判断してのことであり、出来るならばより沢山の魔王を用意しようと考えての死体集め専用の魔王である。

聖女達にも出来なくはないが、やはり専用に生み出した方がいいかと考えて創り出した人腕ナマコの見た目は非常に…アレである。

日本で食用にもされていた普通のナマコの体表面に、超光合成スキルのせいなのか緑色になった人の腕が毛のようにビッチリ生えている巨大ナマコという感じで、生み出した僕自身、なかなかどうして人の恐怖心を抉る見た目だなと感じる。

戦いには見た目でビビらせることも必要かなと考えての異様な見た目であるが、さすがにこの見た目で知性があったら、それを気にしたりしそうなので、あえて知性は宿らないように創ってある。名前が無しなのはそのためだ。


スキル構成は死ににくさを重視。

戦闘よりも人の死体、というか生きている人を体表についている人腕によって捉えて体内に回収、麻酔息によって眠るように意識を消失、痛みを感じないようにしてから、体内の筋肉でミンチ状にし、大きな肉塊として一塊の糞のようにひり出すか貯蓄囊スキルによって体内に蓄えられるようになっている。


内臓はあくまで、人を回収、加工するためのものであり、超光合成スキルによって生きるための食事を必要としないというのも人腕ナマコの特徴の一つとなる。


歩く際にはベルトコンベアのように体表が頭部分から肛門側に送り込まれ、この際に体表の人腕に掴まれた人間も一緒に巻き込まれて、肛門側から内臓に、そして頭側から肉塊として排泄、ないしは体内に貯蓄されるようになっているのだが…ううむ。


創っておいて今更だけど、魔王というよりは地球外生命体というか、ちょっと違う感じのアレな生き物が出来てしまった。

真緑な見た目も相まって実に気色悪い。

まあ、些か見た目はアレでも機能性は抜群。超再生スキルと、再生に必要なエネルギーとして超光合成スキルがある人腕ナマコは肉壁としても優秀だろう。


この調子で魔王を増やして侵攻速度も増して、侵攻のたびに新しい魔王を生み出してさらに侵攻速度を増して…というサイクルが早くも乱れ始めたのは大都市アイヌゥを陥落させて二つ目くらいの都市からだ。

一つ目の都市はやたらと散発的に攻めてきて、無駄な抵抗してるなと哀れに思いながらも、あまり防御力が高くはないドーラは無視するわけにもいかずにちまちま倒し、街を1匹の人腕ナマコの貯蓄囊が一杯になるまで襲わせたところで終わり。

貯蓄囊には約10万人分の死体、という言い方改め『御遺体』…を収めることが可能なので、まあ、当座はこれくらいあれば十分だろうと残りはドーラで消し飛ばず。

貯蓄囊に溜め込んだ御遺体は何かあった時に状況に合わせた魔王が生み出せるように取っておくとする。


次の都市まで行く…まあ、地球よりも遥かに広い世界であるがゆえにこの移動に時間がかかるという部分も侵攻が遅い理由の一つである。

ドーラは体質上、地上で活動するのが非常に苦手ゆえに空飛ぶ生き物のわりに移動速度が遅いのもまた理由だ。


できれば電光石火で攻め落としたいところ。


我ながら思うのだが、ドーラは下手な兵器よりも兵器してるまさに魔王な存在である。

なんせ都市を簡単に消し飛ばせるのだから、地球におけるミサイルを始めとする巨大兵器なんざ目じゃないくらいの超兵器である。

彼女の存在を他国が知れば、確実に脅威に思うはず。


地球よりも遥かに大きなこの惑星は、大きい分、重力が地球よりも強く、通信のための電波を飛ばしてくれる人工衛星が打ち上げるだけのエンジンが作れないのか、軌道衛生上に上手く乗せられないのか、人工衛星は存在しないらしい。

ゆえに携帯のような手軽な通信技術は少なくとも民間には存在せず、衛星写真でドーラの情報が各国に広まるという心配もいらない。

いらないが、しかし、それは連絡手段が無いことを意味するわけではない。

多少のタイムラグはあってもドーラの存在は各国に知られてしまうだろう。

ドーラのことを知った他国の人間が、サドラン帝国内で被害が収まっているうちに援軍を出して潰した方が良くない?と考える可能性は十分にある。

そうなった時に現戦力でなんとかなるかは分からない。

いや、おそらくは負ける。


だからこそ極力急いで、ぱっぱと攻め込んだのだが…二つ目の都市でもまた散発的に戦力を送り込んできた。

無視するわけにもいかないドーラはそれに時間を取られるわけで…


一つ目の都市ではやぶれかぶれの特攻と思って哀れに思っていたのだが、何かしらの時間稼ぎの可能性が高い気がしてきた。


人腕ナマコだけ先行させるか?

それとも人腕ナマコから得られた御遺体肉塊から新たな魔王を生み出して、それに攻め込ませようか?

いや、生み出したところで結局はドーラの移動速度の遅さは変わらない。

多少侵攻速度を高めるためだけに使うのは勿体無い気がする。

切り札として御遺体は取っておきたい。


悩みに悩み抜く。

結果、じっくり時間をかけて焦らずに攻め込むことにする。

兵は拙速を尊ぶとは言うが、その兵は兵ならぬ王である。

兵ならぬ魔王であればどっしり構えてじっくり攻略するのが王道。

焦って攻め込むと思わぬ反撃に遭いそうな気がする。

人類を舐めてはいけない。

今まで創った魔王は全て倒されているのだ。

しっかり、キッチリ、足並み揃えて攻め込むのが1番良い。はず。

などと嘯きつつも、実際のところはあまりに苛烈に攻め込むのが可哀想だと感じた部分もある。

結局のところは殺さなければならないのだからその同情は無意味なのだけれど。

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