第113話

時間を少しだけ巻き戻そう。


サドラン皇帝達が会議を始める直前ごろ。

会議室に火急の知らせが届いた時刻より4時間ほど前の時間のことである。


サドラン帝国の最南下の位置にある大都市カルーマリア跡地。

今は懐かしき、魔王ヨトウガによって1番初めに壊滅的被害を受けた街であり、サドラン帝国において1番外縁部に位置する大都市だった場所である。

しかし復興作業は殆ど行われていなかった。

なぜならば復興のための資材や人材を送り込むにあたって、より近い位置に存在する超大都市アズール跡地から優先して復旧作業が行われていたためだ。

やりやすい方からやる。

当たり前の道理である。


とは言えただの廃墟街と化した大都市カルーマリア跡地に誰もいないというわけではない。


エルルが魔王ヨトウガに襲わないようにして、聖女達に保護をさせていた子供たちは既に避難させてあるため、民間人は1人もいないのだが、魔王ヨトウガに関する何らかの発見ないしは再度の発生があるかもしれないことへの警戒やら対処のために軍人達と十数人の研究員がいくらか住む、といより駐在しているのだ。

東京以上の人口密度を誇っていた巨大都市の一つの実に侘しい変わりようにカルーマリア跡地に滞在することになった軍人達は頭を抱えたという。


そしてそこから少し離れた位置、街の全景の一部が分かるくらいに距離が離れた位置に不審な人影が。


2つの人影があった。


「それじゃあ、闇太郎、よろしくね」

「ふっ、エルルよ。俺を頼るとはなかなかどうして慧眼だな。褒めてつかわす」


1人は久しぶりの登場、ダンジョンの奥で埃をかぶっていた魔王エルルちゃん。

醤油を作るためのタネ菌を入手するべく、プラベリアから東に向かった先にある黄泉国に行くとき以来の出番である。

今まで魔王に任せきりで、偵察用の魔王である魔王蝶々越しにちらほら様子を見るだけであったエルルが本体ではないとは言えどもこの場にいるということから、今回のエルルの人類の間引きへの本意気具合が察せる。

もう1人は闇太郎と呼ばれた14歳頃の少年だ。

この場にいるのだから彼もまたエルルが生み出した魔王の一種である。

ステータスは以下のようになっている。


名前 カード召喚士

個体名 闇太郎

生物強度 38

スキル カード召喚 カード送還 カード魔法 ショットガンシャッフル


エルルの住むプラベリアから魔王を創り出して人類に攻め込ませる場合、プラベリアが大陸中央に位置してるという地理条件からエルル、ないしは発生源のあたりをつけるくらいは出来る様になるかもしれない。

各地を偵察する魔王蝶々の視界をを介して魔王を創り出すことは可能であるが、魔王を使い捨てないことにしたエルルからすれば、その手段は取れない。

少なくともにっちもさっちも行かなくなるくらい追い詰められるまでは。

特に今回の攻勢にて間引きを頼むことになる魔王は魔王種の中でも1番デカい。

プラベリアのダンジョンから出したら、絶対に誰かしらには目撃されてその情報が各国に拡散からの、プラベリアに何かがあるぞ?と不審に思われるのが目に見えている。


さて、どうしたものかと。


魔法がある惑星なのだから一瞬で目的地に辿り着くような魔法、ファンタジーもののアニメや漫画でよく見る転移魔法が使えないだろうか?

ゲーム風に言うならファストトラベルとかワープとかできないか?

それらの手段を使えるサポート専門の魔王を創れないだろうか?

その考えから生み出されたのがカード召喚士の闇太郎であった。


魔力が許す限り、自分の想像のままに魔法が使えるようになるカード魔法スキルによる転移魔法で2人はここに一瞬で移動してきた…と言いたいところなのだが転移魔法は魔力消費量が多く、自分の位置と移動したい場所との距離が離れれば離れるほどに、さらには転移させる質量が多ければ多いほど必要な魔力が跳ね上がる。

それが1人分ならまだしも、2人分の転移魔法なんてなおさら闇太郎には使えなかった。

闇太郎の容量キャパシティではそこまで自由、かつ強力な転移魔法スキルは付与できなかったのである。

つまりはここに来たのは魔王エルルちゃんのスキルを介してのエルル本体が持つ転移スキルによる物だったりするが閑話休題。


本題に入るが闇太郎の得意とすることは自分が転移することではない。

他者の転移である。

他者のみしか転移できないという明確な限界を設けることによって、スキルに必要な容量を目減りさせた結果、彼は転移させる対象の質量、距離を完全に無視して自らの近くに他者を召喚、すなわち転移させることが出来るようになったのだ。

しかもその際に使用されるエネルギー、すなわち魔力は普通の転移に比べて少なく済む。


そう言うスキルを闇太郎は持っていた。


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