第112話

「さて。皆様、十分に情報の共有、考察、対策などを話し合われたと思います。ここで一度総括しましょう」


司会役のアルブマが話の締めにかかる。


「まずこの巨大生物についてですが、かろうじて焼け残った残骸を調べた研究班によりますと、菌類であったことが分かりました。つまり非常に巨大な質量になるまでに繁殖し続けたカビ、ないしはキノコだったというわけです」

「そしてそれが復興しかけていた街を攻撃しようとした…そうなるわけだな」


確認のようにサドラン皇帝が尋ねる。

それにアルブマは頷き返しながら


「はい。そして、それが街を襲おうとしたことから何かしらの襲う理由があったことが分かります」

「研究班曰く、残骸から読み取れた遺伝情報から菌類でありながら、かなり高い知性を持つ可能性が高いとのことだったか」

「しかし、やはり違和感は拭えないな。キノコ風情が知性を持ち、さらには人間に対して悪意を持って襲うなどとは…」

「ローグル殿、そこは最悪を考えてとの結論で…」


すでに3時間に及ぶ話し合いの内に結論が出ていたはずだが、やはりキノコが人を襲うと言う珍事は魔法のある世界とて俄には信じ難いらしく、皆が皆、騒つく。

しかし、サドラン皇帝が手で制すると、ピタリと止まった。


「続きを」

「はっ。改めて説明しても信じ難い事ではあるのですが、そうである可能性がある以上、対策を考えなくてはいけません。まずは今回の巨大未確認生物、巨大な菌類の塊であるそれの再発生が起こり得るのか?と言うことですが、その可能性は非常に低いとの結論です。周辺を丸一日使って、隈なく調査したところ、それらしき菌類の発見は出来なかったとのこと。小さいうちは目に見えない大きさゆえに見落としがないとは言えませんが…ひとまずは眉金の魔女に全て焼き尽くされたと考えても良いでしょう」

「人を襲う菌類の発生源と思われる崩壊したダンジョンについてだが…」


その後も話し合いは続けられ、さらに30分ほどが経過。

3時間半以上に及ぶ話し合いの結果得られた結論を再度確認していく過程で彼らは気づく。


「つまりは…我が国ないしは人を恣意的に襲う生物群、組織が存在する…と言う結論でよろしいですね?」


彼らは明確に創られた魔王達の存在の片鱗に気づいたのだ。

流石にエルルが魔王を創り、人類を絶滅させようとしてると言うところまでは分からず、あくまでも片鱗に過ぎないが、何かしらの存在が人、あるいはサドラン帝国に攻め込もうとしていることを察するところまできた。


不思議なダンジョンという今までに存在していなかった特異な場所はその何かしらの存在が創り出したのだと。


「確か他の国にも今まで確認されていなかった魔獣に被害を受けたというニュースがあったはずだな…同じ…か?」

「そう考えるのが自然でしょうね」

「防衛設備の増設、人員の拡充を急がねばならないか」

「財務大臣としては頭の痛い問題ですなぁ」


彼らは気づき、そしてエルル達を迎え撃つ準備をすることに決めた。

民主主義のように権力が分散する政治形式であれば今もまだ話し合いは続けられていたであろう。

意識を一つにする。

そのために関係各所に同じようなやり取りを何度もやる、ある種の儀式めいた行為が必要になっていたに違いない。

しかし貴族制を有するサドラン帝国では日本では考えられないほどに迅速な対応をすることになった。

民主主義の場合は人が多くなり、国の規模が大きくなればなるほど動きづらくなり、初動が遅くなる物だが、封建主義の君主制においてはそのデメリットがない。

いや、ないことを踏まえた上でも、早い対応であり、サドラン帝国上層部の有能さが遺憾無く発揮された結果ではあった。

被害を受けて2日後には防備に予算を割いて固めることを決定したのだから。

今から動けば数日から1週間もしないうちに防衛体制に移行していたことだろう。

流石は10000年以上の歴史を誇るサドラン帝国上層部と褒めてやりたいところ。


しかし


それでもなお


遅過ぎた。


「会議中、申し訳ありませんっ!!緊急事態です!!」


大きな音を発てて、スーツ姿の男が慌てた様子で入室する。

ノックはおろか、扉を蹴破ったのではという勢いのままの登場に何人かが顔を顰める。

とは言え、忙しいサドラン皇帝を交えての重要な会議中であることはすでに周知していた。

少なくともここに入ってこれる立場の人間ならば知らないはずもない。

となれば、それを知った上での蛮行であることを考えれられ、自ずと礼儀を気にしていられないほどの余程のことがあったのだろうと察することはできた。

だからこそ礼儀を特に気にする何人が顔を顰めるくらいであり、会議室内の人間の大多数は気にしないどころか、さっさと続きを話せとばかりに黙り込んだままである。


「何があった?」


サドラン皇帝が血相を変えて入室してきた男へと尋ねた。


「巨大な…異様な未確認飛行物体…なのか、生物なのか…らしきものが復興途中の超大都市アズール跡地に出現!アズール跡地は…そこにいた人々も纏めて消し飛んだとのことですっ!!」

「なん…だと?」


サドラン皇帝はその日。


生涯1番の驚愕に顎が塞がらなかったという。




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