第109話

「そ、そんなことよりも早く、城に行こうよ!みんな待ってるよ!!」


先住者を強引に追い出したことをそんなこと呼ばわりしてしまうところにニアの本性が滲み出てるなぁ、なんて内心思いつつ、本来の目的であるダンジョンが潰されたことの話を聞きにニアと一緒に城に入る。

するとズラリと並んだ聖女見習い達が出迎えてくれる。

先頭には聖女アリアと聖女ウリアがいた。

その後ろに聖女見習い達が並ぶ。

アニメや漫画で金持ちの坊っちゃん嬢ちゃんを迎える際にメイドやら執事やらが一列に並んで盛大に出迎えるシーンそのものだ。

今までは住み良い場所ではあってもここまで一同に会することのできるスペースはなかったので、初めての壮大な出迎えに些か興奮してしまうくらいには壮観である。


とは言え、わざわざそんなことをさせるのも悪い。忙しいだろうし、もうやらなくて良いけれど。

アニメや漫画でも金持ちキャラのキャラ付けのために登場シーンだけやって、その後はあまりやらないと言うイメージがある。

実際にやると考えれば、学校帰りやら仕事帰り、遊んできた帰りなどの日常に合わせていちいち集めて並ばせるなんて不効率の極みである。

現実にはほとんど考えられないのでは無いのだろうか。

あっても、長期出張、長期の海外旅行帰りなどの久しぶりの帰宅などに限定されるはず。

そう考えるとあのシーンは金持ちキャラが事前にいついつに帰るということを連絡、かつ招待したツレに金持ちアピールするための行為なのではないか?

些か間抜けに思えなくも無い。

いや、まあ、悪いとは思わないし、金持ちだけが発揮できる特殊なお茶目な一面と考えればむしろ好ましくもあるが、なんにせよ前世含めて庶民出身の僕としてはこんな沢山の人に出迎えられても嬉しさよりは申し訳なさが先立つ。ただでさえ必要性が低い上に、身内しかいないこの場にてカッコつける理由すら無いのだから尚更にそんなことはしなくていい。ゆえに。


「あのさ、皆の出迎えは嬉しいんだけども今後はここまで大事にしなくて良いからね?

忙しいだろうし、いちいち集まるのは骨が折れるでしょう?」

「……っっっ!!」


僕の言葉に皆が一斉に答えるせいで、うるさくて聞き取れない。

1人づつお願いできないだろうか。

本当のメイドやら執事ならばこんなことにはならず、誰かしらの代表者だけが喋るのだろうが、ガワだけ金持ちのそれでも実際は異なるのだからこの惨状は当然のこと。

中には僕に走り寄ってくる聖女見習いなども出始めたところで…


「聖女パンチっ!!」

「きゃぁっ!?」

「ひぇえーっ!?」

「あうちっ!!?」

「ぐわぁっ!」


僕に近づこうとしていた聖女見習い達がまとめて吹き飛ばされる。

ぶっちゃけただの人間なら普通に即死ないしは致命傷を負いかねないパンチの連打を繰り出したのは僕と一緒にいたニアである。


「ちちうえが困ってるでしょう!!順番に話すか代表者だけが喋りなさい!!」


素晴らしい気遣いにありがとうと感謝したいところだが、割と本気のパンチに彼女の本音が垣間見える。

良い機会だとばかりに殺そうとしたわけでは無いよね?

いや、さすがのニアでもそんなことはすまい。

せいぜいが怪我をして近寄れなくするくらいだろう。

それだけでもなかなかどうしてアレだが。


「ニア、あなたはまた無駄にエルルくんの手を煩わせて…」


と言いながらゆったりと近づいてきたのはまさに聖女と言わんばかりの、穏やかな性格のアリアである。

母性の象徴たる乳房が聖女見習い含めて、1番大きな彼女は特別激しく歩かなくても胸が揺れる。

それだけ大きいながら重力に負けずに形の良さを保っているのは胸の形の維持、と言うか保形力にも生物強度の補正があったりするのかなぁ、確かクーパー靭帯とか言う名前の部位が胸を支えていて、その靭帯の強度も強化されてるからかな、と取り留めのないを考えつつ。


「ニアに関しては今更だし、僕は気にしないよ…皆と仲が良く無い点はちょっと気になるけどさ」

「気になるのならエルルくんからも注意して貰いたいのですが…」


という僕らのやりとりを耳したニアはというと


「てへぺろ」

「…っ」


あっ、今凄くイラッとしてらっしゃる。

僕の目の前ゆえに笑顔を浮かべてはいても、イラッとしてるのが不思議と分かってしまう、絶妙なアリアの笑顔だ。


「そ、それよりもアリアからも言っておいてよ。こうした出迎えは嬉しくはあるけどいちいちやらせる程でもないって。皆だって忙しいでしょう?」

「そう言うのであれば問題ありません。何度だってお出迎えします」

「え?い、いや、だから忙しい…」

「エルルくん、ここが何処なのかお忘れですか?」


あっ


「正直、食べて寝て遊ぶ、食べて寝て遊ぶを繰り返すだけ、たまに建築スキル持ちの聖女見習いがダンちゃんのお手伝いをする程度。まるで忙しさなどありません。強いて言うなら、レジャー区画での遊びに忙しい…くらいですよ」

「ああ…まあ…」

「忙しくないのです。そのせいか私を始めとして聖女達は胸周りやお尻周りにさらに肉がつき、創り出された魔王達は自主練とは名ばかりの喧嘩三昧。重ねて言いますが忙しくはないのです」

「なんかごめんなさい」


その会話を聞いてか、ニアがぼそりと


「ちちうえ、暇人達のために行ったり来たりしようよ。皆んなが慌てて集まっては解散して集まっては解散しての姿をウォッチングする遊びを…」

「ニア、流石の私も堪忍袋の尾が切れました。そこに直りなさい。その人をおちょくることに楽しさを見出す根性を叩き直してあげます」

「ええっ、そんなつもりないよぉ」

「…カマトトぶりやがって」

「…ブーメランって知ってるぅ?短気なくせして穏やかなフリしちゃってさ。流石の私って、どこの私さん?

流石も何も、よていちょうわだよ。アリアはいつもカリカリしてるヒステリックばばあじゃん」

「しっ」

「あはっ!ほらっ!すぐ手が出る!!」


またである。

アリアとニアはまあ仲が悪い、と言うべきか仲がいいと言うべきか。

僕をそっちのけで喧嘩し始めてしまった。


いつも通り、詳しい話はクールな性格をしている聖女ウリアから話を聞くことになりそうだ。



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