第82話

ダンちゃんは早速とばかりにダンジョン作成を始めた。


作成地は僕の住む辺境の外れの雑木林内。

ミミズモチーフなだけあり、掘り進める速度はなかなかのもの。

地面を掘りやすくする掘削スキルと動きを早める俊敏スキルも相まってもりもり掘り進めていく。

しかも、ダンちゃんはミミズなので口から土を取り込み、そのまま尻先から排泄という形を取ることで掘った土は自然と後ろ側へ退かせる。

掘削スキルはその動きを最適化する効果もあり、土を退ける手間が少なくすむ。

その上、可変型巨体という名のスキルによってデフォルトの巨大な160センチほどの巨大ミミズの姿を維持しつつ、都合に応じて小さくなったり、より大きくなったりできるスキルも使ってさらに効率よく地面を掘れる。

自在に体の太さや長さを変えながら通路を作れるからだ。

そして仕上げのスキルが発動する。

ダンジョンメイカーであるダンちゃんが持つ目玉スキル。

ダンジョンメイキングである。


掘りやすくするスキルや体で、通路を作ってもそれではただの洞穴に過ぎない。

掘り進めれば進めるほど崩落の危険性が高まるし、バレる可能性は低いとは思うものの、いざ人間にバレて攻め込まれた時用に頑丈に作っておきたい。

そんな望みを叶えるために付与したスキルがこのダンジョンメイキングスキルである。

ただ掘っただけの穴をダンジョンの壁として補強、変質させることが可能になるのだ。

これによって崩落の危険性は無くなり、攻め込まれた時に入り組んだ通路を破壊して一直線に侵入、ないしは脱出というのが難しくなる。

湿気やら土中の生き物やらの侵入を拒み、住処として適した環境にもなる。

余談だが、初めから通路を作るスキルを与えれば良いとも考えたのだが、必要容量がかなり大量に必要で付けるのは無理だった。

まあ、よくよく考えてみればそれも当然か。

地上ならばともかく、地中に居住空間を自在に作るとなるとそこにあった岩や土と言った様々な物質、すなわち大量の質量を退かさなくてはいけない。

そういう時空、というか空間というか、それ系に干渉するスキルは高容量を求められることが多い。

生き物に備わる能力としてはあまりにかけ離れているからだろうな。

目の前でモリモリ掘り進めていくダンちゃんを眺めながら、そんなことを思う。

他のスキルについてはまたいずれ語るとして、後はダンちゃんに任せて、僕は畑仕事に行こう。

最近のリアちゃんは僕へのべったり具合が増していった結果、畑仕事も手伝うようになってきた。

早く畑に戻らねば、僕がやっていることに気付かれかねん。

魔王クリエイターの力はバレているが、僕の間引き行為についてはもちろん言ってないのだから。

元々は母の仕事である家事の手伝いをしていたのだが、聡明スキルによる学習能力の向上のせいかすぐに自分の仕事を終わらせて、かつ僕の畑仕事まで手伝うスーパー幼女っぷりに油断はできないのだ。

流石に小さなうちからそこまで仕事に精を出さんでもと思う。

ユーリ君あたりと遊んできたらと言うものの彼女は僕と一緒にいた方が良いとか。

仕事しながらでも一緒に居る方が、遊ぶよりも良いと言うのか。

その健気さに嬉しいような、悲しいような。


同年代の子供と遊ぶ機会を得られぬまま大人になるのは悲しいことだと思うが、しかし、強制するようなことでもないし、彼女にエルルも働いているし、と言われてしまえば僕が何を言ったところで説得力は皆無である。

中身が大人だから良いんだよ?と言うのもちょっと避けたいし。

そもそも信じてもらえないだろうし。


「どこに行ってたの?」


畑に着いた僕にかけられたリアちゃんの第一声。

まるで浮気を問い詰める奥さんのように感じたのは錯覚に違いない。

すでに彼女は畑に来ていたようだ。

なに。

実際に浮気したとか、やましい事をしたわけではないのだから堂々と誤魔化せば良いのだ。


「ど、トイレだよ?」


人類を間引くための魔王の住処を作るのはやましい事に当たるのでは?と頭の片隅で考えてしまったのが悪かった。

どもってしまったではないか。

あからさますぎる。

何かある感をこれでもかと出してしまった。

トイレという言い訳もバカバカしい。

おそらくは我が家からやってきたリアちゃんに対して、トイレと言っておきながら家に戻らず、どこへトイレを済ませに行ったのかと。

わざとらしさのあまり、逆に何もないと思ってくれないだろうか?


「あ、あれだよ!立ちションしてたんだよ!」


中身が大人な僕にはあまりに屈辱的な言い訳であるが、今の年齢的には全然アリなはず。

違和感はない。

いや、普段見せている性格的に違和感しかないけれど。

ユーリ君ならばともかく、僕はそんなことをする感じは欠片もない。


「それにしてはだいぶ長い時間、畑からいなかったわ」

「の、野糞もしたんだよ…だからさ」


どうやら畑にはだいぶ前からいたご様子。

となれば重ねて嘘をつかねばならない。

それも野糞などと言う、文明人にあるまじき嘘を。

な、なんという屈辱。

中身だけだが、いい歳して野糞をしたなんて言う嘘を使わなくてはいけないとは。

なによりも、しばらくはそんなことをする人間だと思われるのが辛い。

リアちゃんに嫌われる可能性だって低くはないだろう。

僕なら野糞をする輩にべったりすることはない。

リアちゃんが大人ならばまだそんな時もあるかもと流してくれるかもしれない。

しかし女の子の感性ならばどうだろう?

ドン引きするのでは?

若干、いやかなりの距離を取られるかも。

最近のべったり具合が直ると思えば悪くはないか?

しかし、いざそうなると思うと想像するだけでかなり傷つく。

そもそも、こういう形で解決しても根本は変わらず、べったりする対象が変わるだけでは?

だったらべったりしてくれるままの方が…まてまて、今はそんなことを考えている場合じゃない。


「そうなんだ。手は洗ったの?」

「え?い、いや、まだだけど…」

「洗ってくるといいよ。私は先にゼルエルちゃんと畑仕事をしているから」

「う、うん、ありがとう」

「別に。一緒に居られるなら何してても楽しいし」


あ、あれれ?

ご、誤魔化せたのか?

自分で言うのも難だが、あんな雑な嘘で?

スキル、聡明さんを持つ彼女を?

むしろ聡明スキルが働いた結果、僕が何か隠していることに気を遣って気づかないふりをしてくれただけ?

聞いてみたい。

けど、聞いてみて、じゃあ何をしてたの?と訊かれると困る。

藪を突くことは避けたいところ。


ま、まさかとは思うが実は周りの人間から野糞くらいしても可笑しくない奴認定されていた、なんてことはないよね?

ないと言ってくれ。

しばらく前に辺境1番の強面であるドムおじさんの庭で度胸試しがてら立ちションをしたと言う話をしてきたユーリ君じゃないんだぞ!?

もちろんそんなことを自慢げに吹聴して回ればバレるわけで、彼はドムおじさんにボコられたらしい。


気になる。

色んな意味で気になるぞおっ。

流石にやんちゃ坊主なユーリ君と同列扱いはされてないよね?
















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